表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~おわりの魔法少女編~
169/201

樋本華蓮は断れない

「イベントぉ?」

「そ。今度、こんなイベントがあるのよ」


 そう言うと、麻子は自分のスマホをわたしの手に握らせた。


「ぇ……これって……」


 見覚えのある、綺麗な女性のイラスト……これ、あれだ。

 VTuberの、『白金ユキ』だ。

 白雪姫と呼ばれる彼女は、有名な人気配信者で、中の人は『白雪羽衣』。

 麻子の従姉で、女神との闘いに加勢してくれた氷の魔法少女である。

 わたしはあまり直接話したことがないけれど……彼女は、超がつくほどの暑がりで、引きこもり。

 そのせいか、本人は表立ったイベントには出てこない。

 どうやらこれは、白雪姫をメインとした、同人イベントのようなものらしい。

 イベントを告知するホームページには、様々な絵柄の白雪姫や、参加者のコスプレ写真が掲載されていた。


「へー……こんなのあるんだ。さすが、人気者ね白雪姫は。んで? これがどうしたのよ?」

「このイベントで、着ぐるみに入ってくれる人を探してるのよ。元々予定していた人が、急に体調悪くしちゃったんだって」

「ふーん……え? それでわたし? なんで?」

「だって華蓮、ちっちゃいし」

「は? あ、あんたね……」


 ちっちゃくて悪かったわね。

 これでも芽衣よりはでかい。

 身長、抜かれることはない……はず。

 わたしは高校生で一ミリも伸びなかったし、芽衣もきっとあのままだろう。

 ……頼むから抜かないで欲しい。


「あのね……わたしだって暇じゃないのよ?」

「えー? 華蓮なら快く引き受けてくれると思ったのに……」

「だったらもっと頼み方ってものがあるでしょうよ。てか、なんで麻子もそんなのに行くわけ? 白雪さん本人が来るわけでもあるまいし」

「いや、それが……事情があるのよ」


 そう言うと、麻子がスマホの画面をスライドする。

 イベントスケジュールの中に、見覚えのある名前があった。


「『白金ユキ』と……『メイル』の対談コラボぉ!?」

「そうなの。このイベント、羽衣姉と芽衣ちゃんが特別にゲスト参加するのよ」

「いやいや何やってんの!? これ大丈夫!?」

「大丈夫って?」

「芽衣よ! あいつ、大勢の前でトークできるような子じゃないでしょうが。それに、このふたりじゃ知名度が全然違うっていうか……言い方悪いけど、不釣り合いっていうか……」


 白雪姫は、大手事務所に所属する超有名VTuber。

 片やメイルは、個人勢で、ニッチな人気を集めるVTuber。

 チャンネル登録者数だけで比べれば、二十倍以上の差があったはずだ。


「大丈夫大丈夫。ふたりが友人だってことは、ファンの間では有名な話なんだよ」

「え、そうなの? いつの間にそんなことに……」

「あのふたり、最近SNSで絡んでるからね。あらゆるところが正反対のふたりの絡みが、てぇてぇと話題みたい」

「は、はあ……そんな需要があるのね……」


 正反対のふたり……確かにそう見えるか。

 配信上では、白雪姫は清楚で大人な癒し系お姉さん。

 メイルは敬語キャラだが、毒を吐きながら台パンするクソガキ。

 方向性が違うふたりの絡みがてぇてぇと……うーん。

 やっぱりよくわからない。なんだそれ。


「……いやいや、それでも芽衣はリアルイベントでトークなんてできないでしょ。というか、白雪さんだってそうなんじゃ……」


 あの人見知りのふたりが、見物客の前で愉快な対談を繰り広げるイメージが全く湧かない。

 絶対地獄みたいな空気になる。


「それも大丈夫。だって、ふたりとも会場には来ないし」

「へ? どゆこと?」

「オンラインよオンライン。中の人が現地に来る必要ないでしょ。VTuberなんだから」

「……それって普段の配信と何が違うの?」

「……さあ?」


 ……沈黙。

 リアルイベントとは……


「……やっぱり行く意味ないでしょ」

「待って! お願い! 羽衣姉に頼まれて、わたし会場スタッフ引き受けちゃってるの!」

「ええー……?」

「バイト代は、結構良いみたいだから!」

「ええええ~~~……」


 正直めんどくさい。

 そもそもわたし、バイトってしたことないし。

 でも、確かにお金もないし……いつかはバイトというものをしないといけないだろう。

 そう考えると、今のうちに麻子がいるところで経験を積んでおくのは悪くない。


「華蓮は着ぐるみに入って手を振ったりするだけだから! 喋る必要一切なし! おまけに、実働時間は一時間も無いぐらい!」


 む。むむ。

 そう聞くと、魅力的なバイトにも聞こえてくる。

 わたしには向いているかもしれない。


「ん~~~……でもねえ……」

「華蓮、鏡の洋館で助けてあげたじゃんかあ」

「いやそれはお互い様でしょうが。この前神樹で助けてあげたばっかでしょ」


 はあ、とため息をついてから口を開く。


「全く……ま、まあ? 麻子がそこまで言うなら……ん?」


 わたしの手に握られたままだった、麻子のスマホが震えた。

 画面に表示された通知表示が目に入る。


「……芽衣からじゃん」

「え、芽衣ちゃんから? なんて?」

「えーっと……」


『華蓮さんがゴンザレスやってくれたら嬉しいです。当日はよろしくお願いします』


 ……ん? なにこれ?

 意味がわからない。

 何で麻子宛てのメッセージでわたしの名前が出てくるの?

 ゴンザレスやってくれるって、なに?


「あ、ほらほら! 芽衣ちゃんもこう言ってるじゃん!」

「……え? ちょっと待って。一応訊くけど麻子……着ぐるみって、何?」

「あ、言ってなかったっけ……これこれ。ゴンザレス三世。芽衣ちゃん……じゃない、メイルたんのお供キャラクター」

「……メイルの……」


 魔獣によく似た、ゆるかわなキャラクター。

 確かに、見たことがある。

 最近メイルの配信に実装された新モデル……頭の上に、こんなの乗ってた。

 芽衣が連れているあの魔獣、ゴンザレス二世のまがいもの。

 配信で見たときは、ただの飾りだと思っていたのだが……


「……そっち? 白雪姫の何かじゃなくて、そっちなわけ? いや、そもそも何で芽衣からこんな連絡くるのよ?」

「だって芽衣ちゃんとも話したもん。当日はゴンザレス三世無理かもって話したら、がっかりしてたなあ」

「…………」


 ……ダメだ。

 これはもう、退路がない。

 やってくれたら嬉しいって書いてある。

 断ったら……芽衣は一体何をやらかすか……


「……やるわよ……やればいいんでしょ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらず麻子に甘い華蓮なのであったマル・・ 華蓮がVとかその道に詳しくないのは想像しやすい。 [気になる点] そう言えば魔法少女になる前の華蓮はどういう生活してたのか・・勉強だけしてたと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ