エピローグ
「……ふー。これで全部かな」
もぬけの殻になった部屋の中心で、床に座り込む。
ようやく、荷造りが終わった。
電気、ガス、水道の手続きも完了。
二年間住んでいたアパートとも、これでお別れ。
明日には、もう東京の街にいることになる。
結局……あれからヴィラが接触してくることは無かった。
モアですら、最近は姿を見せていない。
それは他の子も同じ。
芽衣も華蓮も羽衣姉も、何事もなく暮らしている。
それは願ったり叶ったりだが……正直、少し拍子抜け。
ヴィラのことは、警戒していたのだが。
とはいえ、何も無いに越したことはない。
まだ時間はあるし、スマホで時間潰すか……
「……え!? 嘘!?」
何もない部屋に、自分の声が響く。
……思わず大きな声を上げてしまった。
しかし、その反応も当然。
わたしにとっては、超ビッグニュース。
芽衣が……VTuberのメイルたんが、配信活動の再開を告知していたのである。
試験のためにとお休み宣言をしてから、丁度一年。
無事に試験が終わったので、春から活動を再開すると報告していた。
「芽衣ちゃん……ふ、ふふふふふ」
思わず笑みが零れる。
本当に、合格してよかった。
もし落ちていたら、メイルたんの活動がどうなっていたかわからない。
メイルたんの配信は、これからも追い続けなければ。
とはいえ、最近は白金ユキ……羽衣姉の配信まで見ているので忙しい。
みんな、どうやって自分の推しを追いかけてるんだろう?
普通に時間、足りなくない?
何なら最近は羽衣姉が出しているグッズにまで手を出そうとしているから、時間だけじゃなくお金まで飛んでいく。
羽衣姉は恥ずかしがって遠慮していたが、応援したい気持ちがある。
アストラルホールじゃ、助けてもらったし。
全く……推しを応援するだけで、こんなに忙しくなるとは……
「……んー! 楽しくなってきた!」
勢いよく立ち上がると、玄関に向かった。
行こう、新天地へ。
さらば、わが古巣……
なかなか良い物件だったよ。
「…………ん?」
扉を開けようと手を伸ばし、固まる。
……今のは、気のせいだろうか。
もう一度、目を凝らす。
……何ともない。
わたし……そんなに疲れているのだろうか。
……気のせいだよね?
今、一瞬
自分の手が
透けたように見えたなんて。
― 第三部・完 ―
「魔法少女は闇が深い」、これで第三部完結です。
ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございます!
次回は第四部……これまでの伏線を回収する、総まとめになる予定です。
ときどき出ていた「夢」がどういうことなのか、想像しながら読んでもらえると嬉しいです。
本作を少しでもお気に召していただけたら、是非、感想や評価お願いします!
これからも、応援よろしくお願いします。




