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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~女神編~
163/201

黒瀬麻子の願い

「麻子。キミには願いを叶える資格がある。……どうするぽん」

「どうするって……」


 急にそんなことを言われても困る。

 少なくとも、本当にリア充を滅するとか……そんな物騒な願いをするつもりはない。

 まさか、こんなことになるなんて……


「……華蓮、何かある?」

「え、わたし?」

「うん。あれば華蓮が言っていいわよ」

「な、なんで。麻子が倒したんでしょ」

「今回は、ほとんど華蓮のおかげみたいなものだし」

「い、いやさすがにそれは……で、でも……そうね……えっと……」

「華蓮はダメだぽん」

「は!? わたしはダメって何よ!?」

「願いを叶えることができるのは、魔王を倒した張本人が望む願いだけ。他の者の願いを叶えることは、できないんだぽん」

「えー……期待して損した……」

「あー……まあ、そりゃそうよね。うーん、それなら……」


 ……あれ?

 そう考えると、ちょっとした疑問が湧いてくる。

 かつて魔王を封印したのは、『光の力を手にした少女』……つまり、光の魔法少女だ。

 今のわたしと華蓮のように協力していたのかもしれないが、最終的に魔王にとどめを刺したのは女神じゃない。

 それなのに、願いは『女神を不死にすること』だった。

 自分じゃなくて、他人を不死にすることを願う。

 それって……変じゃないだろうか。

 しかし、わたしの話を聞いた華蓮は微かに首を傾げるだけだった。


「……いや、そうじゃないでしょ? だって、女神は光魔法を奪ってるんだから。女神がその奪った魔法で、魔王を倒したってだけじゃない?」

「……だとしたら、見事な連携なんて書き方する? 魔王を封印したときには、既に光の魔力は女神に移っていたってこと?」

「そりゃ確かに変かもだけど……伝説なんてそんなもんでしょ。歪曲して伝わるもんよ」

「そう……かな」


 ……まあ、そんなこと考えたって仕方がない。

 女神がいない今、確かめる術もない。

 とにかく、今のわたしは何でも願いを叶えることができるってことだ。

 魔王を封印した、わたしが……


「……あ」

「? どうしたぽん」

「いや……そういうことなら、わたしじゃだめかもしれない」

「え?」

「女神が消える直前……誰かが助けてくれたような気がしたんだよね。声が聞こえて」

「声……? 声って、誰のだぽん」

「いや、それはわからないんだけど……もしかしたら、魔王を倒したのはその人になるかもしれない」

「はあ? 夢でも見てたんじゃないかぽん? あの場には、麻子と華蓮しかいなかったぽんよ」

「いやでも、確かに聞こえたんだって」

「気のせいだろうぽん。現に、この水晶玉は麻子を指している。魔王を封印したのが麻子であることは、間違いないんだぽん」

「……ええ? なんでそんなのわかるのよ?」

「わかるぽん。別の者が水晶玉を持つと、この虹色の光は消えてしまう。もし魔王を封印したのが別人だとしたら、今頃水晶玉の輝きは失われているはずだぽん」

「…………」


 だとしたら、やっぱりあの声は気のせいだったのだろうか。

 確かに、あの場にわたしたち以外の人間なんていたはずがない。

 自分によく似た声が聞こえたなんて……馬鹿げている。

 正念場で、自分を鼓舞する気持ちが溢れてしまったのだろうか。


「……んで? 麻子、あんたは何をお願いするのよ?」

「え、ああ……」


 華蓮に言われて、改めて水晶玉を覗き込む。

 淡い虹色の光。

 ずっと見ていたくなるような光を放つ水晶玉を、そっと撫でてみた。


「……んじゃ、華蓮の左腕を治してもらうとか?」

「はああ? いいわよそんなの。ちょっと痺れてるだけで、すぐに治るんだから」

「でも……」

「いいって。三日もすれば治るものに、こんな願い使うのは勿体ないでしょうが」

「ほんとに? うーん……」

「あーもう、いいって言ってるでしょ! でもね麻子、ひとつだけ言っておくわよ」

「な、なに?」

「わかってると思うけど、分相応な内容にしておきなさい。人知を超えた願いがどんな結末を迎えるか……身に染みてわかったでしょ」

「……ん。わかってる」


 不老不死とか、世界征服とか……そんな奇跡のような願いを叶えることが、幸せになるとは限らない。

 今のわたしは、もっと普通のことを願っている。

 すぐそこに迫っている受験をパスして、華蓮と一緒に大学に進学して、そして芽衣が住んでいる街に引っ越して……

 そんな生活が、今わたしが望んでいることで……


「……あ。ひとつ、思いついたかも」

「え、なになに? どんな願い?」


 華蓮が顔を近付けてくる。


「いやほら……来週からも、当分猛吹雪って話じゃん?」

「? そうらしいけど……あ。まさか……」

「うん。そのまさか」


 最近は、羽衣姉の氷魔法の影響で荒れた天候が続いていた。

 もちろん、受験日も天気予報は雪。

 それも、大荒れの見込み。

 そう、二年前……わたしが、交通事故に遭ったときと同じように。

 二度と思い出したくない、人生最悪の経験。

 あんな思いは、もう絶対にしたくない。


 だったら……


「……モア。わたしと華蓮の入試の日……天気、晴れにしてくれる?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 全ての願いを叶えられるタイミングで受験を気にするのが何とも身の丈に合った麻子らしい願いだと思いました。 というか元凶は羽衣姉なのかい・・ [一言] 更新お疲れ様です。 麻子が気になった部分…
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