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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~女神編~
161/201

麻子と華蓮は通じてる

「か……華蓮?」

「……口ほどにも無いとはこのことじゃな。この程度の風魔法で戦線離脱とは」


 冷笑を浮かべながら、ゆっくりこちらに近付いてくる女神。

 その歩調に合わせるように、じりじりと後ずさる。

 それでも、女神の足取りは変わらなかった。


「こんなこと……前にもあったのう」

「……え?」


 ふ、と女神が息を漏らして笑った。


「源芽衣じゃよ。あの娘に、あやつだけが吹き飛ばされたことがあったじゃろう?」

「……!」


 一年前、芽衣を追いかけてアストラルホールに来たときのことだ。

 あのとき……魔王となった芽衣の風魔法によって、華蓮は遠くに吹き飛ばされた。

 そんなことまで、女神は知って……


「汝とあやつでは、『格』が違いすぎる。……それは、汝もわかっていることじゃろう?」

「な……そんな、こと」

「わかったら、もうあやつは巻き込むな。……捨て置け」


 ……捨て置け?

 華蓮を貶めるような発言に、一瞬顔が熱くなった。

 心がざわついて、身体に纏う闇が強くなる。

 闇魔法のせいか、目の前の視界が暗くなる。

 思わず駆け寄って、女神の胸倉を掴みかかった――いや、掴みかかろうとした。


「……華蓮は……」


 目を閉じて、深呼吸する。

 ……落ち着け。

 女神の口車に乗せられてどうする。

 さっき、華蓮が言ってたことを忘れちゃだめ。

 作戦が、台無しになる。

 大丈夫。

 わたしは――華蓮のことをわかっている。


「華蓮は……あなたが思っているほどやわじゃないわよ」

「……そうか」


 女神は、大きくため息をついた。


「……冷静、じゃな。あやつが来た途端にこれか……」


 そう言った女神は、まるで何かを諦めたかのような様子だった。


「……吹き飛ばしたのは失敗じゃったか。むしろ、あの口を塞いでおくべきじゃった。そうすれば、汝は……」

「わたしは……何」

「汝は……『おわりの魔法少女』と化したじゃろうに」


 黒い風が、女神の髪を揺らした。

 おわりの魔法少女。

 はじまりの魔法少女の、対となる存在。

 わたしが……おわりの魔法少女に?

 意味がわからない。

 わかるはずもない。

 それなのに……どうしてだろう。

 女神の言葉を、何故か理解しかけている自分がいる。

 この話に、聞き覚えのある自分がいる。

 頭がどうにかなりそうな気味の悪さを振り払うように、ぶんぶんと首を振った。


「……何を言って……こちとら、これから大学生になろうっていうのに……!」

「ったく……ほんとそれよ」


 わたしの叫びに応えた声。

 その声は、遥か上の方から聞こえた。

 ……なんだ。

 やっぱり、心配無用だった。

 自然と、口元が緩む。

 あの演技に、わたしまで騙されるところだった。


「……時間は稼いだわよ、華蓮」

「ご苦労様。ギリ及第点ってとこね」


 神樹の上で炎を揺らめかせる人影。

 華蓮が、枝の上に立っていた。


「樋本華蓮……!? 何故じゃ、いつの間に……!」

「あのねえ……同じ手にハマるほど、わたしも間抜けじゃないっての!」


 上空で、闇の中に光る星。

 華蓮は魔力が弱まっているように見せかけて、『あれ』を作っていたのだ。

 強力な魔力が凝縮された、太陽のような炎の球。

 そしてそれは、周りの闇魔法を吸収して、黒い太陽と化していた。


「火祭りシリーズ……其の伍(フィナーレ)! 『流れ星(メテオ)』!!」


 それはかつて、芽衣を止めるために繰り出したものと同じ作戦。

 芽衣も、これには面喰らっていた。

 氷壁にも守られていない、上空からの速攻。

 これなら、いける……!


「……温いわ」

「――え」

「言ったじゃろうが。わしは、汝らの戦いを見ているのじゃぞ」


 ――気付かれていた。

 女神は、上空で魔力を集めている炎の球に気付いていたんだ。

 氷魔法だけじゃない、光魔法をも貫けるはずだった黒炎の太陽。

 それは寸前で女神にいなされ、地面に突き刺さった。

 それに合わせるように、風魔法でその衝撃を相殺。

 女神はその場から動くことなく、華蓮の流れ星(メテオ)を凌いでしまった。


「残念じゃったな。同じ手が通じないのは、汝らだけでないということじゃ」 


 射貫くような、冷たい視線が華蓮に向けられる。


「丁度いい。今度はその口……塞がせてもらうぞ」


 女神が、その手を振り下ろそうとしたときだった。


「いいや……違うね」

「……なに?」

「火祭りシリーズ其の壱オープニングセレモニー……改! 『花火・飛遊星』!」


 パン! と爆発音と共に、地面に突き刺さっていた炎の球が弾けた。

 不規則に飛び散る火花が、周りの氷壁を巻き込んで崩していく。


「……んな……!」


 一度崩壊を始めた氷壁は、止まらない。

 崩れ続ける氷と火花が、女神の行く道を完全に塞いだ。


「……! 小癪なああああ!」

「今よ麻子! 女神は動けない!」

「ナイス華蓮……! ここで決める!」


 わたしは右手を掲げると、闇魔法で巨大な『黒い手』を作った。

 光魔法に負けないように、全力で……わたしの魔力のありったけを詰め込んだ、ブラックハンド。

 これで、女神を掴みにかかる。

 女神を捕まえて、この戦いを終わらせる……!


「……捕まえた! これでもう離さない!」

「鬱陶しい……! 舐めるでないわ!」


 闇魔法に呑まれていく女神から、光が放たれる。


「痛っ……!?」


 女神を掴んでいる黒い手に痛覚でもあるように、自分の身体に痛みが走った。

 やっぱり光魔法は、闇魔法を凌駕する。

 魔力を黒い手に注ぎ込んでいるのに、押し返されそうになる。


(……! お願い! このままおとなしく……!)


「おおおおおおお!」


 女神の咆哮と共に、握りしめた黒い手が少しずつ開いていく。


(噓でしょ……!? 京香はこれで即落ちだったのに……! このままじゃ……!)




『――しっかりしなさい!』




 ……え。

 今、誰かの声が聞こえた。

 華蓮?

 いや、違う。華蓮の声じゃない。

 それじゃ芽衣? それとも羽衣姉?

 ううん、ふたりの声でもない。

 でも、今のは初めて聞く声じゃなかった。

 その声は、そう。


 まるで、自分自身の声のような――



「……っ……え? あれ……?」


 力の限り握りしめていた黒い手を、そっと降ろす。

 わたしは、間違いなく女神の身体を黒い手で掴んでいた。

 その感触は、確かにあったのだ。

 その手を、わたしは決して緩めていない。

 それなのに……今は、何の手応えも無い。


「……女神が……消えた」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 華蓮、生きとったんかワレェ! 口上で注意を自身に向かせておいて上から急襲するのは常套手段・・初撃が対応されてもプランBまで準備しているのは流石です華蓮様~( [気になる点] 黒炎の太陽は突…
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