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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~女神編~
154/201

女神は静かに語り出す

 そのまま、何分が経過しただろう。

 もう、わたしが手を出せる状況ではなくなっていた。

 自分の身を闇魔法で防御しながら、荒れ狂った光景を見守るだけ。

 それでも羽衣姉は、ずっと暴風の中で耐え続けていた。


(一体いつまで……もう、お互いに全力を出し尽くしているはずなのに……)


 この攻防は、永遠に終わらないのではないかとすら思った。

 しかし、実際にはそうはいかない。

 その決着は、何の前触れもなく、突然訪れた。


「……! 芽衣ちゃん!」


 糸の切れたマリオネットのように、突然芽衣が前のめりに崩れた。

 慌てて駆け寄り、倒れ込んだ芽衣を抱き上げる。


「芽衣ちゃん! 大丈夫!?」

「……みゅぅ……」


 長い前髪をそっとかきあげて頬を撫でてやると、微かな呻き声をあげて反応を見せた。

 ……気を失っているだけだ。

 外傷もない。

 文字通り、魔力切れだろう。


(よ、よかった……)


 思わず、ホッと安堵の息を漏らす。

 羽衣姉は、一切芽衣を傷つけることなく、攻撃を凌ぎ切った。

 わたしたちは――芽衣を取り戻すことに成功したんだ。


「勝った……勝ったよ羽衣姉!」

「そ……そうみたい……だね……」


 ふらふらとした足取りの羽衣姉は、芽衣の顔を見ると少しだけ笑顔を見せた。


「全く、無茶するんだから……羽衣姉の方は大丈夫なの?」

「えへへ……わたしは……大丈夫……じゃないかも……」

「ちょ、ちょっと羽衣姉……!」


 ぐったりと、わたしの肩に寄りかかる羽衣姉。

 冷えたその身体には、全く力が入っていない。

 羽衣姉も……限界だったんだ。

 あんなに凄い氷魔法を使っていたのだから、ここまで持ち堪えた方が不思議なくらい。

 わたしも去年、魔力を使いすぎて入院したっけ……


「羽衣姉……ごめんね、無理させて」


 肩を持ち、芽衣と羽衣姉を一緒に抱きしめる。


「やっぱり最強の魔法少女だったよ、羽衣姉は……ありがとう」


 芽衣さえ取り戻せば、こっちのものだ。

 芽衣と羽衣姉、ふたりが満身創痍の状態でここに留まるのは危険すぎる。

 とにかく、一旦撤退して立て直してから……

 そう思って、顔を上げた瞬間だった。


「凄まじい魔力……まさかこれほどとはな」

「……! なっ、あんたまだ……!」


 ほっとしたせいか、気が緩んでいた。

 無属性の女神に気配が全くないことは、わかっていたのに。

 いつの間にか、頭がぶつかるほどの距離に女神がいた。


「源芽衣。白雪羽衣。やはりSランクの魔法少女ともなれば、一筋縄ではいかんの」


 そっと静かに、まるで聖母のように気を失ったふたりの頭を撫でる女神。

 その仕草はとてもやさしく、穏やかで、柔らかいものだった。

 ――客観的に見れば、だ。

 わたし目線ではそうじゃない。

 女神の手がふたりに触れるのを見た瞬間、汗が噴き出す。

 その仕草が、とてつもなく異様なものに見えて、手が震えた。


「や……やめて!」


 ふたりに触れる女神の手を引きはがし、思い切り後ろに飛び退く。

 ふたりが、女神に触れられた。

 その事実が、わたしにある『嫌な想像』をさせる。


(まさか……? と、とにかくふたりをここから……そうだ、一か八か……!)


「ゴンザレス二世! 出てきて!」

「……みい?」


 芽衣の呼びかけでもないのに、そいつはあっさりと姿を現した。

 真っ黒い、猫のような可愛い姿。

 芽衣が連れていた、魔獣である。


「お願い! このふたりを、羽衣姉の家に連れ帰って!」

「み、みい!?」


 ゴンザレス二世は一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐに返事をすると空間を歪ませた。

 前に一度会っただけなのに、わたしのことを覚えてくれていたのだろうか。

 魔獣なのに、素直に言うことをきいてくれる。


「いい子ね……行って!」

「みっ!」


 甲高い鳴き声と共に、芽衣と羽衣姉は空間の歪みの向こうに消えて行った。

 羽衣姉の家に行けば、華蓮とモアがいる。

 華蓮なら、すぐに状況を察してくれるはずだ。

 ちゃんと、揃って安全なところに避難してくれればいいけど……


「魔獣を従えるとは……黒瀬麻子、やはり汝の素質は……」

「女神様! ご無事ですか」

「む……ヴィラか」

「……いいんですか? 逃げられますよ?」

「構わ……いや、そうじゃな。ヴィラよ、逃げたふたりを追ってくれるか?」

「え……女神様はどうするんです?」

「大丈夫じゃ。ヴィラが戻って来るまでは、待っておるさ」

「し、しかし……」

「心配無用じゃ。戻って来るまで……待っておるから」

「っ……わたしが戻るまで、勝手なことしないでくださいよ!?」


 そう叫ぶと、ヴィラも芽衣たちを追うように姿を消した。


「……これで良い。ヴィラも、この先起こることは見ない方がいいじゃろうからな」


 女神が、ゆっくりと近付いてくる。


「それにしても、自分だけは逃げずに残るとは……優しいんじゃな」

「……何が言いたいの」

「む……いやいや、本心じゃよ。汝も一緒に消えようとするなら、わしも止めねばならなかった」

「でしょうね……こうでもしないと、ふたりを逃がせないと思っただけ。このままここにいたら、それこそ取り返しのつかないことになる」

「……ほう?」

「だって……」


 言葉に詰まる。

 この想像は、間違っていてほしい。

 そう思いながら、言葉を続けた。


「あなた……魔力を使い果たして無防備になった魔法少女から、魔力を奪えるんじゃないの?」

「……どうして、そう思うのじゃ?」

「いつでも自由に魔力を奪えるのなら、その方が話は早い。でも、あなたはそうしなかった。京香が鏡の魔力を奪われた状況を考えたら……それぐらいの想像はつく」


 沈黙が流れる。

 わたしと女神のふたりだけになったこの場所に、冷たい風が吹いた。


「ふむ……さすがの洞察力。じゃが……遅すぎたな」


 女神の指先に、黒い何かが揺らめくのが見えた。

 あれは――


「もう、ふたりの魔力はいただいた。あの娘が身に宿していた……魔王の力もな」

「…………え」

「少し、話をしようか。このアストラルホールが闇に包まれて、終わる前に」

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