災害級の少女たち
かつて魔王を封印したという、伝説の魔法少女。
はじまりの魔法少女と呼ばれ、後世まで語り継がれていたその魔法少女は……ふたりいた。
ひとりは、闇の魔王に強い、光の魔法少女。
そしてもうひとりは、他人の魔力を自分のものとすることができる、無の魔法少女。
その無の魔法少女が、今……光魔法を得て、わたしたちの前に立ちはだかっていた。
(伝説の魔法少女から奪った光魔法……か。厄介ね……)
モアに見せてもらった本に書いてあったことを思い出す。
あの本には、『見事な連携を見せ、『闇の魔王』を封印した』と書いてあった。
つまりふたりの魔法少女は、協力関係にあったということだ。
それなのに、魔力を奪ったって……
本当に、二人は協力して魔王を倒したのだろうか?
自分だけが不死になって生き残っている事実といい、この女神……とても良い人とは思えない。
仲違いがあったのか、それとも最初から裏切るつもりだったのか。
それはわからないけれど、わたしにはモアやヴィラが女神に騙されているようにしか思えない。
「さて……ここからが本番じゃな」
踊り子のように、滑らかな動きを見せる女神。
それに呼応するかのように、神樹の枝葉から女神の右手に集まる光の粒子。
まるで、蛍の光……
その光景は心を奪われそうになる美しさだが、今のわたしにそんな余裕はない。
光魔法が、わたしにとってどういうものなのか。
それは、よくわかっている。
「それでこの場所に呼ばれたのね……ここは、光属性の魔力が強まる場所だから……!」
「左様。汝の闇魔法が異常に強いことは、わかっておるからの」
女神はそう言うと、ふっと息を自分に右手に吹きかけた。
「うっ!?」
まるでシャボン玉のように、光がふわふわ降り注ぐ。
その光に、わたしはまだ触れてもいない。
それなのに、わたしの身体は急に重くなった。
まるで、両手両足に鉛でもつけられたかのように。
(光が蝕んで……うまく動けない……!?)
闇魔法は、光魔法に弱い。
そんなことは百も承知だ。
ミラージュと闘ったときも、闇魔法を使う芽衣は、華奏の光魔法に苦戦していた。
(だけど、こんなに……!? 身体に力が入らない! これが光魔法……!)
「Sランクも、弱点の前には形無しじゃな。いくら汝でも、この魔法に正面から立ち向かうのは苦しいじゃろうて」
「なに……!?」
「この魔力は……決して弱くないぞ。かつての魔王を、封じ込めた光じゃからのう」
「ちょ、まっ……!」
女神の右手に、強力な魔力が集まっていくのを感じる。
――やばい。
あの光に正面から立ち向かっちゃだめだ。
わたしにとってはまさに天敵。
とにかくこの場から離れないと……!
「麻子ちゃん! 危ない!」
「!? う、羽衣姉!?」
――パキィ……!
「……!? 寒っ……!」
空気を切り裂くような音と共に、巨大な氷壁がわたしと女神の間に立ちはだかった。
白く分厚い氷が、わたしを守るように取り囲む。
「メイルちゃんを……取り返すんでしょ。麻子ちゃん、負けないで……!」
そう言った羽衣姉の声は、震えていた。
しかし、その萎縮した様子とは裏腹に、凍り付いた右腕は莫大な魔力を纏っている。
わたしでも一目でわかるほどの、強大な魔力。
これが……羽衣姉の氷魔法……!
「う、羽衣姉凄い! いつの間にそんな魔法を……」
「これでも練習してたから……そのせいで、雪がひどくなっちゃったみたいだけど……」
「そうなんだ……ん? 今何て?」
最近見たニュースを思い出す。
確か、過去に例が無いほどの強烈な寒波が日本を覆ってるって……
そのせいで、大雪になってるって……
「……え? どゆこと? あれ、羽衣姉のせいなの?」
「なんか……そうみたい」
「天候変えちゃうレベルの魔力ってこと……? どんな練習してたのよ……」
モストが前に、Sランクの魔法少女をこう言っていたことを思い出す。
『いるだけで、危険すぎる存在……本来、存在してはいけないものなのですよ』
華蓮にその話を聞いたときは何を大袈裟なと思ったものだが、あながちそうでもなさそうだ。
災害級……わたしたちSランクの魔法少女は、本当にそんな魔力を秘めてしまっているのだろう。
「全くデタラメな魔力じゃな……確かにこやつは次元が違う。それは、女神城で相まみえたときから感じておるわ」
「女神城で……? それじゃ、あのとき羽衣姉まで呼んだのは……わたしたちの魔力を見極めるため……?」
「そうじゃ。雪女……白雪羽衣といったか。こやつを止める魔力がわしに無いことは、わかっていた。だからこそ、こう動いたのじゃから」
「……!?」
そう言った女神の横で、空気がぐにゃりと渦巻いた。
(この魔力……! これは……!)
現れたのは、黒い闇。
神樹から溢れ出る光の粒子すら呑み込むような……吸い込まれそうな、漆黒の闇。
「め、芽衣ちゃん……!」
闇から姿を現したのは、芽衣だった。
でも、目に生気がない。
表情が、全く見えない。
同じだ――前に、華奏が鏡魔法に操られていたときと。
でも、Sランクに相当する闇魔力を持つ芽衣が操られるなんて……
一体どうして……!?
「芽衣ちゃん! 聞こえないの!?」
「無駄じゃ。鏡魔法の支配下にあるうちはな」
「なんで……京香のやつ、話が違うじゃん!」
京香は、鏡魔法は使いこなすのが難しいと言っていた。
それに、格上の魔力を持つ者を操ることもできないはず。
それなのに……
「確かに鏡魔法は万能ではない。汝らと一緒にいた、あの炎の魔法少女すら操れぬほどじゃからの」
「だ、だったらどうして……」
「忘れたか? わしは、光魔法も使えるのじゃぞ」
「……!?」
「『光の鏡』……ふたつの魔法を併せることにより、闇属性を操ることを容易にさせる」
「な、なによそれ……チートじゃない!」
「闇魔法に対抗できるのは、同じく闇魔法か光魔法のみ。白雪羽衣……まずは汝に、ご退場願おうかの」
「…………えっ? わたし!!??」




