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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~女神編~
151/201

麻子は再び神樹に降り立つ

 アストラルホールに聳え立つ、巨大な樹木――『神樹』。

 その高さは、百メートルを優に超える。

 とても神秘的で、生い茂る新緑が目に眩しい。

 息を吞む美しさに、来るだけで気持ちが安らぐような場所だ。

 でも、わたしにとっては芽衣と戦いを繰り広げた、因縁の場所でもある。

 そんな場所に……わたしはまた、やって来てしまった。


「凄い……本当に異世界って感じの場所だね……」


 緊張した面持ちで、巨大な樹木を見上げる羽衣姉。

 この美しい景色を見て、羽衣姉の恐怖心も和らいだようだった。

 女神城に行ったときとは違い、顔色も悪くない。

 心地よい風に吹かれる葉音に、わたしの苛立ちも少しは落ち着いていた。


「……そうね。ここは、本当に良い場所」

「麻子ちゃんは、ここに来たことがあるの?」

「……うん。去年の丁度、今頃ね」


 神樹は輝くような緑を纏い、堂々と聳え立っている。

 去年ここで芽衣と戦ったときに、闇の風魔法で葉が散ってしまったはずなのに……そんな面影は一切無く、すっかり元の輝きを取り戻していた。

 そういえば、初めてここに来たときにモアが言ってたっけ。

 ここは、光属性の魔力が増強される場所だと。

 きっと、その影響もあるのだろう。

 闇の風に煽られても、神樹が朽ち果ててしまうことはなかった。


「まさかまた、こんな綺麗な場所で戦うことになるなんてね……」

「え?」

「ううん、なんでも」


 わたしは大きく伸びをすると、前を歩くヴィラに話しかけた。


「ヴィラ。わたしたちをここに連れて来たってことは……女神はここに来るのよね?」

「ええ。……感じませんか?」

「感じる……? 何を?」

「女神様なら……もう既にお見えですよ」

「……え?」

「ま、麻子ちゃん! あそこ……! 樹の上!」


 神樹を見上げていた羽衣姉が、急に声を上げた。


(……! あれは……!)


 視界に入るまでその存在に気が付かないほど、全く気配が感じられなかった。

 しかし、この経験は既に身に覚えがある。

 無属性の魔法少女。

 存在自体を『無』にしてしまうような、異質な魔力――


「……女神……!」

「ようこそ、アストラルホールへ。今日はもてなすことができずに悪いのう」


 樹の枝に座っていた女神は、深く被ったフードを外して笑った。


「……もてなす? 前に呼び出されたときも、そんなことしてもらった覚えないけど」

「おや? あの饅頭、口に合わんかったか? わしは気に入っているのじゃが」

「……あれでもてなした気になっているのなら、考え直した方が良いわよ。というか……もう、口調を取り繕うともしないわけね」

「そりゃあな。ヴィラがそこにいるのじゃ、そんなことをする意味はないじゃろう」

「……そうね。話は聞いた。驚かないのね」


 心臓の鼓動が、早くなっていくのを感じる。

 でも、慌てちゃダメだ。

 女神の『無』の魔法は、全くの未知数。

 何が飛んでくるかわからない。

 わたしは奇襲に備えて、微かに『黒幕』を纏いながらゆっくり神樹に近付いていった。


「女神……いや、はじまりの魔法少女。一応、あなたの口から直接聞きたい」

「……? なんじゃ?」

「あなたは……これから一体、何をするつもりなの?」


 その質問が意外だったのだろうか。

 女神は首を傾げて、当たり前のように言った。


「……ヴィラから聞かんかったか? わしの望みはひとつじゃよ。『すべてを無に帰す』……それだけじゃ」

「……何を言ってるのか……ひとつも理解できないけど」

「ふむ……風の魔法少女の言葉を借りるとこうじゃな。『世界を終わらせる』。これで理解できるかの?」

「……百年以上も生きて……まだ中二病みたいなこと言ってるわけ?」


 女神が、微かに眉をひそめる。


「……たかだか十数年生きただけのガキにはわからん話じゃな。不死というものが、どういうものか」

「ガキじゃなくてもわからないわよ、不死の悩みなんてものは。そんなの理解できる人間なんて……ひとりもいない」


 空気が張り詰める。

 気のせいだろうか、神樹がざわざわと揺れたような気がした。


「ちょ、ちょっと麻子ちゃん……そんな挑発しなくても……」


 羽衣姉も空気が変わったことを感じ取ったのだろう。

 わたしの服を掴み、不安そうな声を漏らす。

 それでもわたしは、女神から目を逸らさなかった。


「ま……いいわ。やっぱり手加減する必要は無さそうだってことが、わかったから」


 身体に纏っていた闇が、また一段と色濃くなっていく。

 どうしてだろう。

 何だか今は、いつもよりも魔力が強くなっているような気がする。


「京香から奪った鏡魔法を使って……芽衣ちゃんを操ろうっていうわけ?」

「……そうじゃな。じゃが、魔王だけでは力不足じゃ」

「……力不足?」

「黒瀬麻子。(うぬ)の魔力を併せてこそ、世界は終末へと帰結する」

「わたしの……?」

「その気になればヴィラを止めることもできたのじゃ。あえてそれをしなかったのは、汝がこちらに赴いてくることがわかっていたから。この意味がわからんほど、愚かではないじゃろう?」


 ヴィラの方を睨む。

 ぷい、と視線を逸らされた。

 いやお前……絶対わかって行動してたな……!?

 わかったうえで、女神の前にわたしを引きずり出そうとあんな話を。

 こいつ、一体どこまで女神のことを……


「そういうわけじゃ。悪いが……汝の闇、貰うぞ」


 女神がそう言った途端。

 上空を、暗い雷雲が覆った。


「!? なになになに!?」


 羽衣姉が、わたしの背中にくっついて泣きそうになっている。


「大丈夫、わたしから離れないで。これぐらいなら……全然問題ないから」


 羽衣姉を守るように、暗闇を拡げて臨戦態勢に入る。

 次の瞬間。

 耳を裂くような激しい雷鳴と共に、雷が降り注いだ。


「ひいぃいぃ!」


 羽衣姉の悲鳴がこだまする。

 しかし、わたしは動じなかった。

 この程度の魔法……華蓮や芽衣に比べたら、どうってことはない。


「無駄よ……効くわけないでしょ、こんな魔法」


 まるで闇に吸収されるように、わたしの周りで雷魔法が消えて行く。


「っは……さすがじゃのう! それでこそ『闇の魔法少女』……これでもか?」


 女神が腕を振り下ろす度に、様々な魔法が降り注ぐ。

 雷だけじゃない。

 水、氷、炎、風……見覚えのある属性魔法から、見たことのない魔法まで。

 それでも、わたしの闇の壁は変わらない。

 どの魔法でも、わたしの身体には届かない。

 すべてを、無効化していた。


「無駄だって言ってるでしょ」

「ま、麻子ちゃんすごいっ……!」


(この程度なら……わたしの闇魔法だけで完封できる。でも、この違和感は何……?)


「……やはり、汝と戦うならこの力は欠かせないのう」


 そう言った女神の右手が、ぼんやりと光り始めた。

 白く輝くその光に、わたしの闇が揺らめく。


「……そっか、やっぱり勘違いじゃなかったんだ」


 芽衣を攫われたときの記憶が蘇る。

 羽衣姉の家が停電したとき……あのとき、わたしの視界を眩ませた光。

 あれは、やっぱり雷光なんかじゃなかった。


「でも、ひとつだけ間違えてた。それ……華奏ちゃんのじゃなかったのね」


 わたしは、女神が華蓮の妹から奪ったのではないかと思った。

 でも、それは違った。

 今考えれば簡単だ。

 光の魔法少女は――ひとりではないのだから。


「そうじゃ……わしはな、『はじまりの魔法少女』から光の魔力を奪っておるのじゃよ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 対魔法戦に関しては闇魔法が絶対的すぎる・・ただ光属性がスペードの3のようなのが上手くバランスが取れているのですかね。 [気になる点] 最後のセリフ・・自分は始まりの魔法少女じゃないような…
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