華蓮サイドの一幕
「……行っちゃったわね、ふたりとも」
「……華蓮。この戦い、どうなると思うぽん?」
「そんなのわからな……いや、違うわね。麻子が畳んじゃうと思うわよ、女神のこと」
「……やっぱり、そう思うぽん?」
「うん……相当苛ついてたわよ、あれ。ま、芽衣を奪われたとなれば当然だけど」
痺れる左腕を抑えながら、ベッドに横になり溜息をついた。
「はあ……まさか、去年に続いて今年もこんな戦いをすることになるなんてね……なんで魔法少女って、軽率に世界壊そうとするわけ?」
今は妹の華奏も元気になったし、麻子や芽衣と一緒にいるのは楽しい。
そんな世界が無くなるなんて、わたしは望んでいない。
ずっと、このままが良いと思っていたぐらいだ。
「そんなの、ぼくが聞きたいぽんよ」
「モアが知ってる女神様は、そんなことをする人じゃなかったんでしょ?」
「そうだぽん……でも、女神様が苦しんでいたことはわかっていた。表に出さないだけで、内心ではずっと暗い闇を抱えていたのかもしれないぽん」
「暗い闇……か」
実際のところ、人が心の底で抱えている闇なんて誰にもわからない。
そんなところまで解ろうとするなんて、無理な話だ。
他人の感情を完璧に理解することなんて……神様でも出来やしない。
「はじまりの魔法少女……女神も、この本じゃまるで英雄扱いなのにね……」
そう言いながら、右手でペラペラと書物のページをめくっていく。
(そういえば……これにも書いてあったっけ。魔王は、人の心の『闇』につけ込むって)
人の心の闇につけ込む邪悪な魔王。
そしてそれを封印したはじまりの魔法少女。
この書物によると、魔王は本当にやばいやつだったみたいだ。
もし、今とは違う形で魔王が復活していたら……どうなっていたんだろう。
一度は妹のために、魔王を復活させて自分で倒そうと考えていた身だ。
そうなったら、わたしはちゃんと炎魔法で魔王に勝てていたのだろうか。
「……ん?」
ふと、ページをめくる手が止まった。
気になってしまったのだ。
特に違和感を覚えることなく流していたが、この文言……
これ……冷静に考えると、意味がわからない。
「……心の闇につけ込むって……何?」




