モアは麻子を動かしたい
「それにしても、『珠玉審判』であんなに色濃く水晶玉が変わったのは初めて見たぽん」
モアは机に乗ると、こちらを見て言った。
「水晶玉は込める魔力が強ければ強いほど色濃く変わるぽんからね。麻子、キミが秘めている魔力はおそらく相当なものだぽんよ」
「……ふーん。わたしの魔法は強いってこと?」
そう言われるのは悪い気はしない。
どうやらわたしは強いらしい。
芽衣が水晶玉に魔力を込めたときには、うっすらと黄緑色に変わった。
魔獣を一瞬で討伐して見せた芽衣の魔力に対しての反応がその程度である。
となると……わたしの魔力はどれくらいのものなのだろう?
「だからこそ、麻子はその魔法を最大限に使えるようにする必要があるぽんね。それじゃ、行くぽんか」
「へ? どこに?」
「芽衣のところに決まってるぽん?」
「え、芽衣ちゃん今日も空いてるの? 行っていいの?」
「今日も空いてるみたいだから、魔法の特訓をするぽん!」
「おやすみ」
毛布を被ってベッドに潜り込む。
「行くぽんんんん」
毛布をはぎ取ろうとするモア
もういやだ。助けてくれ。特訓とかふざけている。
「いやだああああ……特訓なんていやだああああ」
わたしの頭の上で飛び跳ね始めるモアを手で払いのけながら、負けじと毛布に包まろうと試みる。
「今日は特訓だから行くぽん! 麻子も魔法を使えるようになる第一歩だぽん!」
うぐぐ……魔法とやらは使ってみたいけど……
特訓って……想像するだけで体が拒む。
「大丈夫、特訓とはいえ麻子が想像しているようなハードなものじゃないぽん! 芽衣がこなしているんだから、年増の麻子にできないはずがないぽん!」
「…………」
そろそろキレてもいいよね? わたし、我慢したよね?
「芽衣も今日、麻子と特訓できるのを楽しみにしているはずだぽん!」
「……む」
「そんな芽衣を放っておくぽん? あんな幼い子ひとり戦わせて、麻子は何もしないって言うぽん!?」
幼い子ひとりで戦わせているのはあんただろうが……! と喉まで出かかったが、引っ込めた。
確かに、芽衣をひとりで放っておくのは心が痛い。
わたしが大好きなメイルたん、ほんとはもっとおしゃべりしたい。
特訓は嫌すぎるが、芽衣には会いたいのである。
「……ほんとにハードなものじゃないんだね?」
「ほんとにほんとだぽん。芽衣も一緒なんだから、絶対に大丈夫だぽん」
モアのことは全く信用できないが、芽衣のことを考えると行かないわけにもいかないだろう。
わたしはゆっくりと立ち上がると、動きやすい服装に着替え始めた。
……ジャージでいいか。
さすがにパジャマのまま芽衣ちゃんの前に姿を見せるわけにはいかない。
まあ、このジャージなら……最近買ったものだし、そこまで恥ずかしくないだろう。
「ところで、特訓て……どこでやるの?」
「それについては問題ないぽん。ちゃんと専用の場所を用意しているから。だから、麻子は早く準備をするぽん」
「はいはい……」




