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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~女神編~
149/201

ヴィラの葛藤は理解できない

「女神は……魔王を封印して、『不死になる』願いを叶えた。……違う?」

「女神様が……!? ヴィラ、そうなのかぽん!?」

「………………」


 ヴィラは答えなかった。

 肯定も、否定もしない。

 口を閉ざしたまま、こちらを見るだけ。

 その反応を見たわたしの口は、止まらなかった。


「自分が望んだことを『呪い』だなんて……それで周りを巻き込もうとしてるなんて、自分勝手にも程があると思わない?」

「………………」

「というか……女神は魔王を倒した対価を、自分の不死に使ったってことよね?」

「………………」

「ふたりで魔王を倒したはずなのに、今も生きているのはひとりだけ。それって、自分だけが願いを叶えたってことじゃ……っ!?」


 風が頬を撫で、ふわりと横髪が揺れた。

 頬に、ちくりと痛みが走る。


「……口を慎みなさい。女神様を侮辱するつもりですか」


 あまりの速さに、何が起きたのかわからなかった。

 ゆっくり視線を動かし、ようやく今の状況を悟る。

 どこから出してきたのかもわからなかったが、ヴィラの手に握られたアイスピックが、わたしの頬を掠めたのだ。


「は……!? ちょ……あなた、女神の暴走を止めるためにここに来たんじゃないわけ!?」

「その認識は改めてください。わたしは、あなたの味方になるわけではありません」

「……!?」


 ヴィラの手が動き、アイスピックの刃先が首元に突き付けられる。


「わたしはあくまで女神様の味方。女神様の身を案じて行動しているのです」

「な、なに言って……だったらどうしてここに来たのよ?」

「女神様がこれからもわたしと一緒にいてくださるなら……それが一番の幸せ。ですから、わたしはここに来たのです」


 恍惚とした表情で、ヴィラは言った。


「あなたが世界の終末を止め、女神様が存在するこの世界が存続するのならばそれでよし……ですが、このまま女神様の望み通りにすべてが無に帰るのも……拒絶しているわけではないのです」

「い、意味がわからないんだけど……」

「女神様のおそばにいたい……それでも、女神様のお望みは叶えたい……この葛藤、もちろん理解していただけますよね?」


 理解できるわけないだろ! と、大声で叫びたかった。

 こいつも大概、イカれている。

 一体、女神の何がそこまでさせるのだろう。

 わたしには、一ミリも理解できない。


「どっちつかずが……そういうのが一番嫌われるのよ」

「……は? 何か言いました?」

「こらこら! 喧嘩するなぽん!」


 一触即発のわたしたちの間に、モアが割り込んできた。


「麻子も落ち着くぽん。ヴィラは女神様のことを本当に大切に思っているから、自分でもどうすればいいのかわからなくなっているんだぽん」

「……モア。そういうあなたはどうなのよ」

「……え?」

「さっき、自分で言ってたでしょ。ぼくもヴィラと同じことを考えているかもしれないって」

「そ、それは……」

「わからなくなっているのはモアの方でしょ。だから、わたしたちのところに来た」

「……麻子……」

「その迷い……後悔することになるかもよ」


 暗く濃い闇を纏った右手を、モアに向けた。


「わたしは女神のことなんて全然知らない。どれだけ偉い人なのかも興味ない。悪いけど……手加減なんてできないから」

「女神様と……闘う気かぽん?」

「こっちは芽衣ちゃんと華蓮がやられてる。指咥えて世界の終わりを見届けるわけにもいかないでしょ」


 ヴィラもモアも、女神のことを慕っているのはよくわかった。

 全く、大人気で羨ましい限りである。

 でも、わたしには関係ない。

 むしろ、女神に対する嫌悪感は増すばかりだ。

 右手に纏った闇も、心なしかいつもより色濃くなっているように感じる。


「……そうね。わたしも麻子と同意見だわ。全く……結局こうなるんだから」

「……華蓮」

「状況は、去年と同じってことでしょ。だったらさっさとふたりで行って、片を付けに行くわよ」

「ううん。華蓮はここに残ってて」

「うん。……って、はあ!? なんでよ!?」


 華蓮が声を荒げながらわたしに詰め寄ってきた。


「どう考えても一緒に行く流れでしょうが!?」

「いや。何かあったとき、全員一緒にいない方がいいんじゃないかと思ってさ」

「何かってなに。それなら、何かあったときに一緒にいた方が助けられるでしょ!?」

「それはそうだけど……でも、それだけじゃなくて」


 ぐっと華蓮の左手を握ってやる。

 その瞬間、微かに華蓮の顔が歪んだのがわかった。


「やっぱり……華蓮。その左腕、相当痛むんじゃないの」

「だ、だからこれは大丈夫だって……」

「嘘。今もまともに腕上がらないほど、痺れてるんでしょ」

「……う」

「そんな状態であの女のところに行くのは危ないよ」

「だ、だからって……」

「それにもうすぐ受験よ。危険なところに行って、怪我でもしたらどうするの?」

「ばっ、それはあんたも同じでしょ!? 三浪になるわよ!?」

「あはは、三浪は困るわね……」

「だったらひとりで行くなんて馬鹿な真似……」

「いや、ひとりじゃないから。ね、羽衣姉?」

「えっ?」


 急に名前を呼ばれて、びくっと反応する羽衣姉。


「えっと……わ、わたし……?」

「他に誰がいるのよ」

「そ、そうだよね……行かなくちゃいけないよね……いや、でも……いやいや、メイルちゃんが危ないんだもんね……」


 さすがに自分も行かなければならないと察していたのだろう。

 女神城に誘われたときは秒で断っていた引きこもりの羽衣姉が、必死に自分を奮い立たせていた。


「自信持ってよ、強いんだから。それに、冬の羽衣姉は頼りになるはずでしょ?」

「う、ぁ、ぅ……」

「……もー! しっかり!」

「むぐ!?」

「大丈夫! 一緒に芽衣ちゃんを迎えに行くだけなんだから!」


 俯いていた羽衣姉をぎゅっと力強く抱きしめて、よしよししてあげる。

 これじゃどっちが年上だかわからない。

 でも、冬の羽衣姉が頼りになるのは本当だ。

 昔の羽衣姉を知っているわたしは、わかってる。

 わたしも、こんな風に羽衣姉によしよししてもらったことがあったっけ。

 羽衣姉は、きっとわたしたちを助けてくれるはずだ。


「……モアはどうする? わたしたちと一緒に行く?」

「……いや……ぼくは……」

「……いいわ。モアはここで華蓮と待ってて。まだ、女神のこと受け入れられてないんでしょ」

「…………」

「アストラルホールには、ヴィラが案内してくれるのよね?」

「……ええ、もちろん。良い結果になることを、祈ってます」

「……そうとは限らないわよ」


 良い結果になることを、祈ってる……か。

 いつもよりも力が漲っているわたしの闇に、最強の魔力を誇る羽衣姉。

 戦力としては十分すぎる。

 それなのに、どうしてだろう。

 正直――悪い予感しかしない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一方は永遠の命を手に入れて苦しんでいるのに対し、もう一方はどうだったのか。この辺の対比も楽しみです。 子孫という事はそういう事なのか? [気になる点] ただ何と言うか、ヴィラの言っているこ…
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