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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~女神編~
148/201

女神様の属性は

「まずは、この話から始めましょう。『はじまりの魔法少女』の話」


 ヴィラは羽衣姉の部屋にある椅子に腰掛けると、静かに語り始めた。


「もう、百年以上も前の話。世界を衰微させる『闇の軍勢』を討つため、最初に誕生した魔法少女がいました」

「それが……はじまりの魔法少女ぽんね」

「ええ。ですが、それは正確ではありません」

「正確じゃ……ない?」


 モアが首を傾げる。

 しかしわたしには、ヴィラの言葉の意図がなんとなくわかっていた。


「それだけじゃなかった……ってことでしょ」

「ま、麻子? それってどういう意味だぽん」

「書いてあったじゃん。魔法少女は、見事な連携で魔王を封印したって」


 顔の横で、指を二本立てた。


「はじまりの魔法少女は、ふたりいた……そういうことでしょ」


 そのとおり、とヴィラが頷く。


「ひとりは、当時『神の力』とまで言われていた光属性を持った魔法少女。そして、もうひとり……『無属性』の魔法少女。それが、今の女神様なのです」

「無属性の……魔法少女……」

「無属性とは、属性が無いということではありません。そういう属性なのです。他人の魔力を自分のものとし、何にでも染まることができる魔力。複数の属性の魔法が使える、唯一無二の属性なのです」

「はじまりの魔法少女……本当に、女神様が……」

「モア……本当に何も知らなかったわけ?」

「…………」


 モアは、何も答えなかった。

 俯いたまま、何かを考えているように動かない。

 その顔は、驚きよりも嘆きの色が濃いように見えた。


「わたししか知らないことです。たかが数年務めただけの一神官が、知る内容ではありませんよ」

「たかがって……ヴィラ、あなたは一体何なのよ? 女神の、何なわけ?」


 今の口ぶりから察するに、ヴィラは女神にとって特別な存在なのだろう。

 やっぱり、あの書物に描かれていた絵から感じたヴィラの面影……

 あれが、ただの他人の空似とは思えない。


「……わたしはただのメイドですよ」

「ただの……って、そんなわけないでしょ。わたし、気になっていることあるんだから」


 そう言うと、モアが出してきた古びた書物をヴィラに突き付けた。


「これ。ここに描かれているはじまりの魔法少女。あなたに似てるように見えるけど」

「……そう見えますか?」

「とぼけないで。それとも何か、言えないことでもあるの?」

「…………」


 ヴィラは、ため息をつきながら冷たい視線を向けた。


「はぁ……それは、何の不思議もありませんよ」

「え?」

「わたしは、はじまりの魔法少女……光の魔法少女の、子孫ですから」

「!!???」


 し、子孫……!?

 さすがに考えてもいなかった。

 だから、この書物に描かれていた魔法少女にはヴィラの面影があったんだ。

 納得した……と言いたいところだが、そうもいかない。

 それだと、別の疑問が湧いてくる。

 ここに描かれているのは、ヴィラじゃない。

 ということは、やはりかつての光の魔法少女当人は、モアの言うとおり既に亡くなっているのだろう。

 ふたりの魔法少女のうち、ひとりだけが亡くなっている。

 無属性の魔法少女……女神だけが、今も生き残っている。

 それって……


「わたしはこの世に生を享けたときから、ずっと女神様のおそばにいました。ですから、無の魔法のことはもちろん……女神様がこれからどうなさるおつもりなのかも、全て理解っているのです」


 そう言ったヴィラの顔が、わたしには不気味に見えた。

 悲しそうな表情にも見えるが、どこか嬉しそうなその表情。

 わたしはこのとき初めて、ヴィラのことが少しだけ理解できた気がした。

 なるほど、さすがはメイドと言ったところか。

 この子……狂信的だ。


「……女神は芽衣ちゃんを連れ去って、何をしようとしてるの?」

「女神様の目的は、『すべてを無に帰すこと』です」

「は……?」


 何を言っているんだ、こいつは……そう思いたいところだが、自然とその言葉を受け入れている自分がいた。

 それはそうだろう。

 これは、一年前に芽衣と対峙したときと同じだ。

 芽衣が魔王の力を得てやろうとしたことと、同じ――


「魔王の力なら……それができるってこと」

「……そう……ですね」

「……? 違うの?」

「いえ……違いませんよ。だから女神様は、あの風の魔法少女を攫ったのです。鏡の力で操ることさえできれば、その力を無理にでも引き出すことは可能なはずですから」


 操ることができれば……ね。

 そう言いかけたが、口にはしなかった。

 京香の鏡魔法では、わたしや華蓮、芽衣を操ることは難しいはず。

 Sランクの芽衣が、そう簡単に女神の言いなりになるとは思えない。


「……なんで……なんで女神はそんなことするのよ? みんなに好かれてる女神なんでしょ? あの女神、心に闇でも抱えてるわけ?」

「あなたも女神様とお話したではありませんか。女神様が死にたがっているのは、本当なのです。ですが、闇魔法で不死の呪いを解くことなどできやしない。ですから女神様は、世界ごと終わらせて、全てを無に帰すことを考えたのです」

「やっぱり……そうなのかぽん」

「やっぱり? やっぱりって何。わたしは、それがバカにしてるって言うのよ」

「……なんですって?」

「だって……不死の呪いって、呪いなんかじゃないでしょう?」

「呪いじゃない……? どういう意味だぽん?」

「女神がはじまりの魔法少女だとしたら……わかるでしょ」

「え……?」


 困惑した顔を見せるモア。

 でも、わたしは確信めいていたものを感じていた。

 あの書物に書いていたことを思い出せば、明らかだ。

 見事な連携で魔王を封印したという、ふたりの魔法少女。

 でも、既に光の魔法少女は亡くなり、女神は謎の呪いで生きている。

 それらが意味することって……やっぱり、そうとしか思えない。


「女神は……魔王を封印して、『不死になる』願いを叶えた。……違う?」

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