はじまりの魔法少女とは……?
「……そうぽんか。女神様が……」
わたしから事の顛末を聞いたモアはただ一言、そうこぼしただけだった。
女神のことを悪者のように言うわたしに、もっと反論してくるかと思ったのだが。
難しい顔をしつつも、モアはわたしの話に口出ししてこなかった。
「何も……言わないんだ?」
「麻子の話が作り話じゃないってことぐらいわかるぽん。それに……思い当たることもある」
「思い当たること?」
「さっき、ぼくの方も厄介なことになってるって言ったぽんよね。実は麻子と別れてから、ぼくは女神様に会えていないんだぽん」
「え? 話をしてみるって言ってたのに……」
「そのつもりだったけどぽん。会うどころかぼくには今、禁足令が出ている。まるでお尋ね者扱いだぽん」
「ど、どういうこと……? 何やらかしたわけ?」
「こっちが聞きたいぽん! でも、今の話で大体の想像はつく。麻子や芽衣と仲良くしているぼくは、女神様にとって障害なんだろうぽん」
「……仲良くしてたっけ?」
「そこは疑問に思うところじゃないだろうぽん!」
ぼんぼんぼんと頭の上で跳ねるモア。
なんだかこの感覚ですら、懐かしく感じてしまう。
「それにしても、ぼくが女神様から離れている間に……女神様、そんなに思いつめていたぽんか……?」
「猫被ってたってことじゃないの……てか、モアは知らなかったの? 女神が他人の魔力を奪える、はじまりの魔法少女だってこと」
「……いや、そこは疑問に思うところだぽん。そんな魔法のことは知らなかったし、女神様がはじまりの魔法少女だなんて話はおかしな話だぽん」
「え? どういうこと?」
「はじまりの魔法少女は、アストラルホールで伝説として語り継がれている存在。かつて魔王を封印した、光の魔法少女のことなんだぽん」
「光の……え?」
「一年ほど前、『神樹』で話したことを覚えているぽん? あそこに魔王を封印した光の魔法少女こそが、はじまりの魔法少女なんだぽん」
「光の魔法少女が……? いや、でも……」
全く想定外の話に、言葉が詰まる。
……どういうこと?
わたしは、女神イコールはじまりの魔法少女だと思っていた。
女神は百年以上生きているということだから、昔の魔法少女だとしても矛盾はない。
しかし、光属性とはどういうことだろう?
いくらなんでも、光の魔法少女だとしたら、わたしや華蓮がその魔力に気付きそうなものである。
かつては光属性だった魔法少女が、今はその魔力を失っている?
それとも、何もかもがデタラメで、間違っている?
だとしたら、それこそはじまりの魔法少女って何……?
かえって話がわからなくなってしまい、頭が混乱する。
「その……はじまりの魔法少女は、今どこに?」
「いやいや、もう百年以上も前の話だぽんよ? とっくの昔に亡くなっている。この世には、もういないんだぽん」
「そう……だよね」
はじまりの魔法少女……魔王を封印した、光の魔法少女はもういない。
当たり前の話だ。
魔法少女は、普通の寿命の人間なのだから。
それこそ、不死の呪いにでもかかっていない限り、生きているはずがない。
でも、モストは確かに言っていた。
はじまりの魔法少女が、世界を壊してしまう……と。
「……あーもう! 一体何なの!? モア、はじまりの魔法少女の写真とかないわけ?」
「写真? 写真は無いぽんが……当時の話を綴った書物の中に、はじまりの魔法少女の姿が描かれていたはずだぽん」
そう言うと、モアは空間を歪ませ、古びた書物を取り出した。
「見せて!」
「ちょ、ちょっと待つぽん。えーっと……あ、あったあった。ほら、ここだぽん」
『――かくして、光の力を手にした少女は見事な連携を見せ、『闇の魔王』を封印することに成功した。人の心の『闇』につけ込む邪悪な魔王を絶命させるには至らなかったものの、その功績により、少女は願いを叶える権利を得た。魔法少女の活躍により、アストラルホールに訪れた平和……この平和が、永久に続くことを祈る』
そう書かれたページには、こちらを見て笑顔で手を振る可愛らしい少女が描かれていた。
この人が、はじまりの魔法少女――魔王を封印した、光の魔法少女。
でも、この絵――違う。
女神の顔とは明らかに違う。
ここに描かれているはじまりの魔法少女は、どう見ても女神とは別人だ。
絵とはいえ、これを女神と見るのは無理がある。
「いやでも、これって……」
どことなく……
あのメイド……
ヴィラに似ているような……?




