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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~女神編~
144/201

消失

 京香の話を聞いてから、数日が経った。

 最近は雪の降らない日がほとんど無く、除雪が追い付かないぐらいの悪天候が続いている。

 雪は嫌いだ。嫌なことを思い出すから。

 わたしは二年前の冬、雪のせいで交通事故に遭い、受験できなかった過去がある。

 当時は本当に落ち込んだし、イライラしたし、自暴自棄になっていた。

 だから雪は嫌いなのだが、今年はそのときよりもさらに雪が強い。

 このままでは、また吹雪の中受験会場に向かうことになるだろう。

 雪のことは不安だが……懸念はそれだけじゃない。

 それはもちろん、京香から聞いたあの話。

 鏡の魔法を使う者が、今や京香とは別にいるということだ。

 しかも、そいつの真意はわからない。

 一体何が目的なのか。わたしたちの敵なのか、味方なのか。

 わからないことだらけだが、そいつの正体だけはおおよそ見当がついている。

 もし、あの『女神』が……京香から鏡の魔力を奪っているのだとしたら。

 そのことを、わたしたちに隠しているのだとしたら。

 考えれば考えるほど、疑惑は広がる一方である。

 このままでは、とてもじゃないが受験に集中できそうもない。

 そんなわけで、受験前の大事な時期ではあるが、わたしたちは羽衣姉の家に集まっているのであった。


「……そっか、だから女神の話し方に違和感があったんですね」

「――ってことは……」

「はい。わたしと華蓮さんが出会ったフードの魔法少女……うん、女神と声が同じだったと思います」

「芽衣、なんでその場で気が付かないのよ?」

「だ、だって口調が全然違いましたし……華蓮さんもあの場にいたら絶対気付きませんって」


 芽衣と華蓮のふたりが言うのだ、間違いないだろう。

 フードを被った魔法少女……魔力を感じない、属性が無いと言う魔法少女。

 その魔法少女は、女神と同一人物ということだ。


「なんにせよ、これでハッキリしたね。あの女神は、魔法少女。京香から鏡の魔力を奪って、今や鏡の魔法少女になっているかもしれない、危険な存在だってことが」

「何が目的だか知らないけど、やっぱ怪しいでしょ。京香から奪ったってことだけ聞けば味方にも思えるけど、それを言わずに麻子たちを女神城に呼び出した……何か企んでるんじゃないの?」

「そうかもしれない。モストが鏡魔法で消されたことを考えると、モストが言ってた『はじまりの魔法少女』っていうのが女神のことなのかな」

「だとしたら、女神が世界を壊してしまうってことになるけど……」

「……だよね? うーん……」


 モストの言うことを鵜呑みにするわけではないが、女神が世界を壊すって……意味がわからない。

 みんなに好かれている女神が、そんなことをするとは思えない。

 それに、もしそうだとしたら、どうしてモストはそれをわたしたちに言いに来たんだろう。

 女神といえば不死の呪いを思い浮かべるけど、それが関係しているのだろうか。


(……そういえば……)


 世界を壊すと聞いて、ふと思い出す。

 あれはそう、丁度去年の今頃だっただろうか。


『――世界を壊すためです』


 アストラルホールで芽衣と対峙したとき、彼女が言った言葉だ。

 芽衣は、闇の魔王の力を使って、世界を壊そうとしていた。

 あのときはわたしと華蓮でなんとかしたけど、世界の危機であったことは間違いない。

 まるで今回も、同じような……


「……ね、芽衣ちゃん」

「? どうしました、麻子さん?」

「あのさ、去年って……」


 芽衣に一年前のことを訊こうとした、そのときだった。



 ――ド ン



「ひっっっ!??」


 思わず震えあがるような轟音が鳴り響いたかと思うと、家中の電気が消えた。


「な、何!? 停電!?」

「落ち着いて羽衣姉。雷でブレーカーが落ちたのかな……?」


 急に暗くなったせいで、周りが見えない。

 それでも何とか手探りで羽衣姉を探そうと、一歩踏み出したときだった。


「麻子、違う! これ……雷魔法よ!」

「えっ……」


 場に緊張が走る。

 華蓮の焦りを帯びた声に動揺し、心臓の鼓動が早くなった。


「雷魔法って……まさか、瑠奈!?」


 しかし、その次に聞こえてきた声は、瑠奈の声ではなかった。


「安曇瑠奈か……違うのう」


 ――え。

 今の声。

 さすがにこれだけ意識していれば、暗闇の中で突然聞こえてきた声でもわかる。

 わたしが、女神城でカーテン越しに聞いた声。

 あのときとは口調が全く違うが、間違いない。


(女神……!)


 女神が来ている――そう思ったときには、遅かった。


「……っ! 眩しっ……!?」


 ようやく暗闇に慣れ始めた目に、眩い光が突き刺さった。

 突然のことに目がくらみ、思わず手で覆う。

 その拍子に、バランスを崩してしゃがみこんでしまった。


(な、何今の……!)


「きゃああああああああ!」

「か、華蓮!?」

「っ! ま、麻子さん……!」

「芽衣ちゃんも……!?」


 ふたりのただ事ではない悲鳴に、身体が固まる。

 わたしは、華蓮ほど魔法の出所を探ることはできない。

 でも、華蓮の悲鳴と同時に察した。

 この、嫌な感覚。

 身体にへばりつくような、気持ち悪い魔力。

 鏡魔法が……鏡の世界が、迫っている。


(やばい……!)


 暗闇の中で急に照らされた閃光のせいで、まだはっきり目が見えない。

 そんなときに魔法を浴びたら、新幹線でやられたときの二の舞だ。


(『暗幕』……!)


 わたしは咄嗟に、周りを闇で覆っていた。

 これで、わたしに魔法は通用しないはず。

 しかしそれは同時に、自らの視界を奪われることに等しい。

 闇魔法で自分を守るということは、周りで何が起きているのか知る術を失うということなのだ。


「ぁ、ぐっ」

「か、華蓮……!」


 微かに聞こえた華蓮のうめき声。

 何? 何が起きてるの?

 なんとか、なんとかしないと。

 でも、どうすればいい?

 ぼんやり霞んだ眼に加え、この闇でガードしている状態じゃ、何が起きているのか全くわからない。

 無敵の闇魔法のはずなのに、この状況で何もできない。

 このままじゃダメだ、わたしがなんとかしないと……

 そう思ったとき、バンと耳を裂くような雷鳴が響いた。


「ひっ……!」


 いくら闇魔法で身を守っているとはいえ、身体が恐怖で震え、鳥肌が立つ。

 耳がおかしくなりそうな破裂音と共に、超至近距離に雷が落ちる。

 そんなの、怖いに決まっている。

 暗い。怖い。隠れたい。

 恐怖に支配された身体は強張り、わたしは床に膝をついたまま動けなかった。


「か、華蓮……芽衣ちゃん……羽衣姉……!」

 





 ――どれぐらいの時間が経っただろう。

 おそらく、時間にしたらほんの数十秒だったはずだ。

 しかし、その僅かな時間で、状況は激変してしまった。

 家の電気が復旧して、部屋の灯りが点いたとき。

 わたしは絶望した。

 床にうずくまった華蓮。

 息を荒くして、半身が凍り付いている羽衣姉。

 そして――


「芽衣ちゃんが……いない」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良い点と言うか勝手な想像ですけど、不死の呪いから解放されるために世界を破壊したいという事なのか・・それを芽衣にさせるということなのか・・ [気になる点] こんなドンパチが起きているときの周…
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