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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~女神編~
143/201

仲良くランチタイム③

「華蓮……そんな話し方の人に、心当たりがあるの?」

「麻子が鏡の世界にいたときに、アストラルホールで会ったの。でも、その人は京香も知ってる人だと思うんだけど」

「……ああ? 覚えないけど?」


 ぎろりと華蓮を睨む京香。

 一瞬華蓮が怯んだように見えたが、すぐに負けじと口を開いた。


「Cランクの魔法少女。ひとりいたんでしょ」

「Cランク……? ああ……確かにいたねえ、そんな子」

「Cランク? なにそれ、初耳なんだけど。どんな子?」

「知らないわよ。突然ミラージュにやってきて、しばらく雑用してたみたいだけど……いつの間にかいなくなっちゃったし」

「いなくなったって?」

「さあ。間違いなく魔力は最低クラスで、使い物にならないだろうから気にも留めてなかったわね」

「はー? なにそれ冷たっ。可哀そうでしょうが」

「いや変な子だったのよ。属性訊いても、無いとか言ってはぐらかされるし」

「属性が……え? どういうこと?」

「それだけ弱いってことでしょ、魔力が」


 ……属性が、無い?

 属性が判別できないほど魔力が弱いから、そんなことを言ったってこと?

 本当に……そうだろうか?


「わたしは、あのとき出会ったフードの人がそのCランク魔法少女だと思ってた。あの人は、そんな話し方をしてたのよ」

「そのフードを被った魔法少女に、京香は鏡の魔力を奪われた……そういうこと?」

「わからないけど、あの人何か変な感じしたのよね……気配だけじゃなくて、存在感そのものを感じない、不思議な感じ。わたしでも、ぶつかる瞬間までその人に気が付かなくて……」

「…………え?」

「え、どしたの麻子?」

「あ、いや……」


 今、華蓮が言ったこと……わたしには、思い当たる節がある。

 気配だけじゃなくて、存在感そのものを感じない。

 それって、わたしも同じ感想を抱いたことがあったんじゃなかったっけ?

 まだ汗ばむような、暑い頃。

 女神城で、確かわたしが思ったことは――



『声が通る距離にいるにも関わらず、気配どころか、存在感まで……声をかけられるその瞬間まで、全く何も感じなかった』

『まるで、存在自体が「無」のように』

『影が薄いとか、そういう話ではない』

『声をかけられるその瞬間まで、本当に何も感じなかったのだ』



 ……え? あれ?

 それってつまり……どういうこと?


「……そうだとしても、そいつに鏡魔法が使いこなせるとは思わないけどね」


 ヨーグルトを食べながら、ぼそりと京香が声を漏らした。


「使いこなせない? 何で?」

「鏡魔法……反射に関してはどんな馬鹿でも扱えるだろうけど。ウチの魔法はそんな単純なものじゃない。例えば人を操る魔法……あれは、自分の瞳に映した対象を、頭の中で描いた鏡像と同期させてできる芸当なのよ」

「……何言ってんの急に?」

「はーもうめんどくさ。とにかく複雑な魔法で、めちゃくちゃ頭痛くなるってこと。相当マルチタスクできる人間じゃないと、上手く扱えないんだから」

「……ふーん……」


 京香が言っていることが、いまいちピンとこない。

 華蓮もそうだが、魔法を使いこなしている人はその魔力を自由自在に操っている。

 しかしわたしの場合は、ただ単に魔力を無効化する『闇』を放出するだけ。

 使いこなすも何もない。

 もし、もっとわたしが魔法を使いこなせるようになったら……この禍々しい闇魔法にも、新たな使い道が見つかったりするのだろうか。


「ま……そもそもあなたたち級の魔力だと、操ること自体不可能だけどね。それができるなら、話はもっと簡単だった」


 そう言うと、ヨーグルトを食べ終えた京香は席を立とうとした。


「もういいでしょ。ウチはもう行くから」

「あ、ちょっと……」

「何。まだ何か用?」

「えーっと……あ、そうだ。あの雷の子には会ってあげたほうがいいわよ」

「…………は?」

「あの子、あなたのことを心配してわざわざわたしを訪ねて来たんだから。会ってあげなさいよ」

「……あの子ならとっくに来たっての。余計なお世話」


 そう吐き捨てると、京香は足早にその場を去っていった。

 とっくに来たって……瑠奈、京香を探して会いに来たんだ。

 あの子、どうもしない、日常に戻るって言ってたのに……

 ふたりがどんな会話を交わしたのかは気になるが、今はそれよりも気になることがある。


「……行っちゃったね。華蓮、大丈夫?」

「……大丈夫。色々思うところはあるけどね」


 ふーっと、華蓮が大きく吐いた。


「だよね。あの女……結局謝罪の言葉も無し、と。全く、どういう神経してんだか」

「ん……でも、京香も同じなのかも」

「え? 同じって……何の話?」

「気が付かなかった? 京香……わたしの方はよく見てたけど、麻子の方は極力見ないようにしてた。もしかして、麻子に……というか、麻子の闇魔法に怯えていたのかも」

「えっ……嘘」

「もしかしたら、闇魔法のせいで京香は暗いところが苦手になっているかもね」

「………………」


 ……全然、気が付かなかった。

 確かに、京香はわたしと話したそうには見えなかった。

 そういうやつだと思っていたけれど、あれも強がりの現れだったのだろうか。

 わたしの『闇』は、本当に暗い。

 そんな暗闇に包まれたら、怖いのは当然のこと。

 一切の光が無い本当の闇の恐怖は、計り知れないものだ。

 あのとき……わたしと京香が対峙したとき、周りには誰もいなかった。

 華蓮にも、芽衣にも、モアにも見られることなく……闇魔法を使った。

 だからあのとき、わたしは――


「でも、あいつ自身にビビる必要はないと思うと、少し気が楽になったわ。今日はありがと、麻子」

「え、あ……そ、そうね。それならよかった」


 よかった……か。

 いや、実際には何もよくない。

 今、『鏡の魔法少女』は京香じゃない。

 鏡魔法の使い手は、別にいる。

 フードを被った魔法少女……

 魔力も、気配も、存在感も……何も感じない、『無』を体現した魔法少女。

 その魔法少女が、京香から鏡の魔力を奪っているのだとしたら。

 そして、もしわたしの思っているとおりだとしたら。

 その魔法少女が――あの、女神だとしたら。


(モストが消される前に口走った『はじまりの魔法少女』が……女神……ってこと?)

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