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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~女神編~
137/201

樋本華蓮のトラウマは

「と、いうことで……わたしは敵じゃないから」

「は、はあ……」


 ひととおりの自己紹介を終えた華蓮だったが、羽衣姉は相変わらず怯えているようだった。

 しっかり布団を両手に握りしめて離さず、顔は半分も見えていない。

 まあ、そりゃそうよね。

 わたしも最初に見たときは、華蓮のこと怖いと思ったもん。

 羽衣姉が慣れるまでは、まだまだ時間がかかりそうだ。

 華蓮、中身は(多分)この中じゃ一番純粋な子どもなんだけどな……


「もう華蓮さん、ユキさんを怖がらせないでくださいよ。圧凄いんですから」

「は、はあ? 圧なんてかけてるつもりないんだけど?」

「自覚なし、と……はあ、それは困ったものですね」

「あ、あのねえ……」


 華蓮と芽衣がわちゃわちゃ言い合いを始める。

 このふたりは相変わらずだ。

 仲が良いのか悪いのか……芽衣もすっかり華蓮には容赦ない。

 そんな光景を微笑ましく見守っていると、羽衣姉がこそこそとわたしの隣に移動してきた。


「……どしたの? まだ怖い?」

「だ、だって……大丈夫なの? あの子、怖い人なんじゃない……?」

「大丈夫だって。華蓮、中身は案外かわいい子なんだから。それよりもわたしの方が羽衣姉に物申したいことがあるから、覚悟しておくように」

「え、え、ええ……? わたし何かした……?」

「こっちも自覚なし……と」


 やれやれと首を振る。


「まあ、それは芽衣ちゃんがいないところで話すことにする」

「?????」


 何がなんだかわからないというように狼狽える羽衣姉があまりにも不憫だったので、華蓮には聞こえないようにこっそり耳打ちした。


「とにかく、華蓮はいい子だから安心していいよ。というか、結構繊細な子だから良くしてあげよね」

「麻子ちゃん……お母さんみたいなこと言うんだね?」

「放っておけない子なのよ。モストと京香のせいで、色々あったし」

「……そのとき麻子ちゃんを助けてくれたのが、あの子なんだよね?」

「そ。炎の魔法少女樋本華蓮。魔法の扱いが上手みたいだから、何かあったら訊いてみるといいかもよ」

「そんなこと言われても訊けないよ……」


 ちら、と華蓮の方に視線を向けた羽衣姉は、ぎょっとした表情に変わった。

 んん? なに?

 釣られて羽衣姉の視線の先を見ると、右手から炎を出している華蓮と、全身に風を纏った芽衣が威嚇し合っていた。


「えええええなにあれなにあれ」

「こらこら、室内で喧嘩しないの! もー、せっかく羽衣姉に華蓮のこと良く言ってあげてたのに……」


 後ろから抱えるようにして、華蓮を芽衣から引き離してやる。

 てか華蓮軽っ。高校三年生とは思えない軽さ。


「ふん、本気出してないし大丈夫よ。……って、あの人に何言ってたわけ?」

「華蓮はめちゃくちゃかわいい子だから、優しくしてあげてねって話」

「はあ!? 何よそれ!」

「だって色々あったじゃん。羽衣姉はさ、モストとか知らないし」

「だ、だからって……恥ずい紹介やめてよね」


 少し顔を赤らめて唇を噛む華蓮。

 恥ずかしさを取り繕うように、そのまま言葉を続けた。


「そ、それにしても。モストってやっぱりとんでもないやつよね。女神はさ、あれをモストの独断って言ってたんでしょ」

「ん? うん、そう言ってたね」

「案外トカゲのしっぽ切りされてんじゃないの。あの性格じゃ、内部にだって敵多そうだと思わない?」

「あー……あり得るかもね」


 正直、それはわたしも少し思っていたことだ。

 ミラージュの起こしたあの騒動を、女神側は何も知りませんでした……では無理がある。

 女神のあの謝罪は、わたしにとって違和感があった。


「今頃、あの低い声で泣いてんじゃないの。モアの話じゃ、未だに姿見せてないらしいし」

「助け……てくれ」

「そうそう、こんな感じの声で……って、え?」


 この場に似つかわしくない、低い声。

 だけど、聞き覚えはある。

 その声に、わたしと華蓮は一瞬固まった。


「……ちょ、今のって……」

「ひい!?」


 羽衣姉の悲鳴。

 声がする方を見ると――そこにあいつがいた。

 その姿が視界に入った瞬間、心臓が跳ね上がる。

 眼鏡をかけて、口ひげを蓄えた……その姿は。


「……モスト……!?」

「はぁ、はぁ……黒瀬麻子殿。あなたの力を見込んで頼みがあります」

「は、はあ……?」


 いつもの人を馬鹿にしたような舐め腐った態度はない。

 あの余裕たっぷりな姿からは考えられないような、疲弊しきった様子だった。


「どの面下げてそんなことを……てか、あんたには訊きたいことが……」

「いいから、わたくしの話を聞いてほしい。このままだと、『はじまりの魔法少女』がこの世界を壊してしまう」

「はじまり……はあ? 何をわけのわからないことを……」

「麻子! こんなやつの話聞く必要ないわよ」


 華蓮がギロリとモストを睨みつける。

 その手は赤く光っており、熱を帯びている。

 今にも炎魔法が放たれそうだ。


「その反応、当然のことと思います。ですが、今はとにかく聞いてほしい。順を追って説明しますから。『はじまりの魔法少女』とは、昔魔王を……」




 ―――――ヌっ―――――……




「…………えっ?」


 何が起きたか、全くわからなかった。

 目の前で起きたことを頭で理解するのに時間がかかり、言葉が出てこない。


「……消えた?」


 突然――モストが消えたのだ。

 目の前から、一瞬で。

 モストもモアのように瞬間移動できるはずだから、おかしいことではない。

 でも、何かを言いかけた途端にパッと消えてしまうなんて。

 そんなの、誰かに意図的に消されたとしか思えない。

 不可思議な光景に鳥肌が立つのを感じ、腕を擦りながら華蓮に駆け寄る。


「ちょっとちょっと……何なの今の。はじまりの魔法少女って、一体……」


 言いかけて、言葉に詰まった。

 華蓮……震えてる。

 何か怖いものでも見たかのような反応だ。

 顔色が悪く、ひどく怯えているように見える。


「か、華蓮……大丈夫? もうモストはいなくなったから……」

「……鏡」

「……え?」

「今、モストが消えたとき……感じたの。鏡の魔力を」

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