樋本華蓮は気に入らない
「はあ? 何よそれ。気に入らないわね」
わたしの話を聞いた華蓮は、フライドポテトを齧りながら毒づいた。
羽衣姉との再会を果たしてから、数日後。
わたしと華蓮は、すっかりお馴染みになった喫茶店に来ていた。
雷の魔法少女から聞いた話に、氷の魔法少女の話……それから女神の話。
華蓮に話しておきたい内容は盛りだくさんだ。
そんなときは、この喫茶店に集まるのが恒例となっている。
相変わらず客が少なくほぼ貸し切り状態だが、鼻をかすめるコーヒーの香りと静かなジャズBGMが心地良い。
食事も美味しいし、なんでこの店こんなに客が少ないんだろうと思う。
立地が悪すぎるせいだろうか?
奥まったところにあるせいで、普通じゃ気が付かないもんなあ……
「気に入らないって……何が?」
「決まってるでしょ。女神のことよ」
ストローを咥えてジンジャーエールを飲んだ華蓮は、ジト目でわたしを見つめてきた。
「そんなことを麻子に頼むのもそうだし、そんな話をカーテン越しにするのもそうだし。それに何より」
頬杖をついたまま、吐き捨てるように言った。
「Sランクだけ呼んで、わたしをシカトしているのが気に入らない」
「ああ、ハブられたみたいで寂しかったってことね。よしよし」
「違うわよ! わたしだけ格下みたいに見られているのが気に入らないってこと!」
「それはまあ……華蓮だけランク違うし」
「は? 燃やすわよ?」
「冗談。冗談だって。でも、華蓮が聞いてもどうしようもない話だったしなあ」
「ふん。だったら尚更でしょ」
「え?」
「だって、それなら麻子だけ呼べばよかったって話じゃん。闇の魔法少女以外が聞いても、どうしようもない話なんだから。それなのに、女神はSランクの魔法少女三人を呼んだ。それってどうして?」
「……あ」
「百歩譲って芽衣はわかるわよ。あの子は闇魔法使えるし、ミラージュの件にも関わってるし。でも、氷の魔法少女を呼ぶ必要はないでしょ」
「…………」
確かに、華蓮の言うとおりだ。
不死の呪いを闇の魔法少女に相談したいのなら、芽衣や羽衣姉を呼ぶ必要は無い。
それに女神は最初、モストによる騒動を謝罪していた。
その話をするのなら、むしろ当事者である樋本姉妹を呼んで然るべきだろう。
羽衣姉は、ミラージュの事件も、不死の呪いも……そのどちらにも関係ない。
モアは、女神がSランクの魔法少女を呼んでいるって言ってたけど……実際には、羽衣姉はいないも同然だった。
女神はどうして、わざわざ三人を呼んだんだろう。
「わたしはその女神とやら、気になるけどね。言っておくけど、悪い意味で、よ」
「うーん……」
華蓮は、こういうところ鋭い。
魔力を感じ取る力にも長けているし、敏感なのだろう。
そんな華蓮に言われてしまうと、わたしもまた気になりだしてしまう。
「なんにせよ、気を許さないことね。魔法少女絡みで、もう散々痛い目見てるんだから」
「……はーい。華蓮は警戒心強いなあ。ま、そこがいいところなんだけど」
「何よ。含みがあるような言い方して」
「違う違う。華蓮ももうちょっと素直だったら、妹にしてあげるのに」
「キモい。ノーセンキューよ」
べ、と舌を出してジンジャーエールを飲み始める華蓮。
うーん、このクソガキ。
東京で一緒に泊まったときは、服を掴んできたりして可愛げがあったんだけどなあ……
「……んで? 今日はこのあとどうするの? 帰る?」
「え? ちょっと待ってよ、まだ話終わってないんだけど」
「は? 今終わったじゃない」
「違う違う! もっと大事な話があるの!」
「えー……まだあるの? 何なのよ?」
「言っておくけど……覚悟して聞いた方が良いわよ。こっちの方が一大事なんだから」
「……何」
華蓮の顔に緊張が走る。
ストローを持つ手に力が入っているのがわかる。
わたしは大きく深呼吸すると、意を決して言った。
「芽衣ちゃんが……! 羽衣姉に奪られそうなの!」
「はあ?」




