女神様って、どんな人?①
「遅い! どこ行ってたぽん!?」
「あ、モア。生きてた」
「当たり前だろ! 殺す気かぽん!」
猫耳メイドのヴィラに見送られ、羽衣姉の部屋に戻ってきたわたしたちを待ち受けていたのは、拗ねた様子でベッドに座っているモアだった。
うん、やっぱりこのぬいぐるみもどきよりメイドの方が良い。
お帰りなさいませって言ってもらいたい。
「どこ行ってた……って訊くってことは、やっぱりモアの仕業じゃなかったんだ」
「はあ? 何の話だぽん?」
「わたしたち、今まで女神様に会ってたんだけど」
「…………は?」
「モアじゃないってことは、女神自ら自分の城にわたしたちを召喚したってこと? 全く勘弁してほしいわ」
「ちょ、ちょっと待つぽん。召喚? 向こうから? 何寝ぼけたこと言ってるんだぽん。そんなことできるはずが……」
「いや本当だって。ほらこれ」
帰り際にメイドから受け取った紙袋を、モアの顔に近付ける。
疑い深く紙袋を覗き込んだモアだったが、すぐに態度が変わった。
「んな! こ、これは女神城名物の星印饅頭……! まさか本当に!?」
星印饅頭って……なにそれ。
温泉宿のお土産じゃん。
異世界の城から持ち帰ったお土産とはとても思えない。
雰囲気ぶち壊しもいいところである。
「え、どういうことだぽん!? 何があったか話せぽん!」
ぼんぼんとわたしの頭で跳ね始めるモア。
やめてくれ、首がイカれてしまう。
「えーっと……とりあえず羽衣姉を寝かせてからでいい? もう限界みたいだから」
疲労困憊でぐったりしている羽衣姉が、うつろな目でこっちを見ていた。
モア。そのベッド、羽衣姉に譲りなさい。
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「そこまで具体的な話を……そう……ぽんか」
「あれ、意外と驚かないんだ?」
羽衣姉の部屋で身体が冷えてしまったわたしは、モアと一緒に外に出た。
もう空は暗くなり始めて、夜の風が気持ちいい。
さすがにこの時間帯にもなれば、歩いても汗ばむようなことはなかった。
寒すぎる羽衣姉の部屋にいたせいで、今はこのぐらいの気温が丁度よく感じる。
芽衣には先に帰っていいと言ったのだが、羽衣姉が回復するまで看ていると言って帰ろうとはしなかった。
冷蔵庫から勝手にリンゴを取り出して、せっせと皮を剥き始める始末である。
王林じゃないんだと何やらぶつぶつ言っていたが、手際が良い。
芽衣ちゃん、意外と家庭的。
普段から家事を自分でこなしているのがよくわかる。
家にひとりでいることが多い芽衣だから、自然と身に付いたのだろう。
そんなわけで、不本意ながら今はモアとふたりきりで散歩しているのであった。
「……もしかして、女神様が話す内容わかってた?」
「いや、驚いてはいるんだぽん。女神様が不死の呪いに悩まれていることは、みんなわかってる。でも、麻子の魔法でどうこうだなんて話は初耳だぽん。それじゃまるで、自殺願望があるみたいな……」
「まあ……そうね」
もう次世代に託したい……そんなことも言っていたし、女神はもう呪いから解放されて死にたがっているようにも見えた。
「それが女神様の真意だとしても、ぼくは賛同しかねるぽん。麻子の言うとおり、闇魔法が女神様にどんな影響を及ぼすかはわからないし……ぼくらにとって、女神様は大切なお方だから」
「大切なお方……ねえ」
モアには似合わない言葉だと思ったが、茶化す気にはならなかった。
モアたち神官にとって女神がどんな存在なのか、なんとなく想像はつく。
「んじゃ、この話は聞かなかったことにした方がよさそうね」
「ぼくも女神様と話をしてみるぽん。ぼくとしては、今の女神様にこれからもいてほしいんだぽん」
「モアは、女神様のことが大好きなんだね」
「そ、そりゃ……ぼくは女神様に仕える神官ぽんよ? ぼくだけじゃない、みんなに好かれているのが女神様なんだぽん」
「ふーん……」
モアが女神のことをそんな風に言うのは、少し意外だった。
女神に対しては、随分素直だと言える。
あの世界では、きっと女神は人望に厚い良い人なのだろう。
そりゃ、女神の名に恥じない上品な人ではあったけど……急に呼び出されるし、姿は見せないし、妙な話はするしで、わたしとしてはあまり良い印象はない。
芽衣の言うとおり、ヘラっちゃって変な態度になっちゃったとか?
それにしては、芝居的なものを感じたんだけど……
女神のことが、なんだかいまいちよくわからない。
わたしの中で、人物像がハッキリせずにもやもやする。
「……ね、女神様ってどんな人なの?」




