表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~女神編~
130/201

女神様は呪われている

「今回、あなたたちを呼んだのは……わたしにかけられている『呪い』に関係があります」

「呪い……?」

「そうです。実はわたし……『不死の呪い』にかかっているのです」

「『ふしの……のろい』」


 現実感の無い言葉に、思わずオウム返ししてしまった。

 ふし……ふしって、不死?

 え、どういうこと?

 言葉の意味はわかるが、うまく飲みこめない。


「モアから事情は聞きましたか?」

「あ、いや……」


 ちら、と芽衣に目配せする。

 芽衣は視線を逸らして、「いや、何も」とだけ答えた。

 ……そりゃそうだよね。

 詳しい事情聞く前に吹き飛ばしたからね。


「そうですか。不死の呪いは、そのままの意味……わたしは、『決して死ぬことができない呪い』にかかっているのです」


 死ねない呪い……不死の呪い。

 モアが女神は特別だと言っていたのは、そういうことだったんだ。

 寿命をとっくに過ぎているはずなのに、死なない――幼い声の中に秘められた貫禄も、そういうことなら納得できる。

 でも、死なないなんて……ある意味最強の魔法である。

 不老不死を願う人は、この世に大勢いそうなもの。

 呪いだなんて、大袈裟じゃないだろうか……?


「今、不死なんて良いことじゃないか……と、お思いになったかもしれませんが、実際はそうではありません」

「えっ」


 図星でぎくりとする。


「この呪いにかかり、もう百年以上も生きてきて……友と言えるものは、皆先立ってしまいました。加えて、この女神という重役……わたしはもう、次世代にすべてを託して解放されたいのです」

「…………」

「そんなとき、あなたの噂を聞きました。あらゆる魔法を無効化する闇魔法を使う、あなたの存在を」

「……それで?」


 なんとなく、察しはつく。

 けれどわたしは、自分から言おうとはしなかった。


「この呪いの原因はわかっていません。もう、解くことは不可能だと思っていました。しかし、あなたの闇の力……すべてを無効化する闇魔法。それならば、もしかしたらと考えたのです」

「あらゆる魔法を無効化する闇魔法なら……その呪いも無力化できるかもしれない……そういうことですか」

「そうです。黒瀬様……よければ、あなたの魔法をここで見せてくれませんか?」


 女神にそう言われた途端、無意識のうちに右手にゆらゆらと暗闇が拡がった。

 あれ?

 どうして?

 何でわたし、言われたとおり闇魔法を使おうとしてるの?

 一瞬自分の身体がそうじゃないような感覚に襲われて、思わず右手に纏わりつく闇を振り払う。


「ちょ、ちょっと待ってください。それって……もしうまくいったら、どうなるんですか?」

「……と、言いますと?」


 空気が凍ったように張り詰める。

 それでもわたしは、言わずにはいられなかった。

 不死の呪いが解ける……それがどういう意味なのか、少し考えればわかる。


「万が一、わたしの闇魔法で呪いが解けたら……女神様は大丈夫なんですか?」

「……それは……」

「不死の呪いが解けるということは、とっくに寿命を迎えているあなたは死んでしまっても不思議じゃない。……違いますか?」

「……否定はできませんね。どうなるかは、誰にもわからない。それが、現実です」

「死ぬのが……怖くないんですか?」

「ええ。死の恐怖よりも、生の恐怖が上回る……そういうことも、あるのですよ」


 くす、と女神が笑うような声が聞こえた。


「源様なら……この気持ち、理解していただけるのではないですか?」

「えっ」


 黙っていたところに急に話を振られて、芽衣が戸惑いの声をあげた。

 芽衣ならって……ああ、そういうことか。

 芽衣が魔王の力を得て世界を壊そうとしていたことを、女神はわかっているということだ。

 ただ単に強くなりたいとか、世界を支配したいとか……芽衣はそんな理由で魔王の力を得たわけではない。

 世界を壊すため。

 あのとき、芽衣は確かにそう言った。

 そのときの芽衣の心情を、女神は知っているんだ。

 ……でも……だったら……

 どうして芽衣が魔王の力を得ようとしたとき、それを止めなかったんだろう。


「さあ、黒瀬様。その闇……もっと近くで見せてください」

「そ、それは……」


 一瞬カーテンの向こうにいる女神に近付こうとする足を踏みとどまらせて、わたしは一歩下がった。

 何かがおかしい。

 さっきから、何故か身体がわたしの意に反する動きをする。

 これが、女神のプレッシャーだとでも言うのだろうか。

 知らず知らずのうちに、気圧されてる……?


「ま、待ってください。それでもしものことがあったら……あ、ほら、モアに怒られるかもしれないですし。そうなると、わたしも困るというか」


 別にモアのことが怖いわけではないが、本心だ。

 わたしは魔法のことを正確に理解しているわけではない。

 それほどまでに、魔法は奥が深いと思っている。

 それは、鏡の魔法少女である京香との戦闘で痛感させられた。

 わたしは京香ほど、自分の属性の魔法を極めてはいない。

 だから、この闇に隠れた力があってもわからないのだ。

 本当に、女神の言うとおりこの闇には呪いすら無効化する力があるのかもしれない。

 もし、わたしの魔法のせいで女神が死んだりしたら。

 その可能性が少しでもあるのなら、言われたとおりにすることなんてできない。

 もしわたしのせいで女神がいなくなったらどうなる?

 モアやモストは、わたしのことを許さないのではないのだろうか。

 そうなったら、芽衣や華蓮と平穏に過ごすことなんて、できなくなる気がする。


「わたしの闇は、女神様には毒かもしれませんし……とにかく、ちょっと待ってください。急な話で、わたしたちも混乱してるので」


 わたしの反抗的な態度を見て思うことがあったのか、女神が静かに腰を下ろす影が見えた。


「……そうですね。わかりました。でも……考えてみてくださいね」


 そう言うと、女神はパンパンと軽く手を叩いた。


「今日はお呼び出ししてしまってごめんなさい。お疲れでしょう。お見送りしますね……ヴィラ!」

「はい」


 手を叩いた音に呼応するかのように、ヴィラと呼ばれた者がカーテンをほんの少し開けた。


「…………!?」


 その姿を見て、わたしのテンションは上がった。

 ま、まさかそんな……いや、あれはどう見ても……間違いない。


(メ……メイドだーー! 初めて生で見た!)


 現れたのは、猫耳のような獣耳が頭に生えており、シックな丈の長いメイド服に身を包んだ女性。

 少しツリ目で、気の強そうなツンツンした印象。

 赤みがかった長い髪を三つ編みにまとめており、可愛さも兼ね揃えている。

 さすが異世界……ここにきて、ようやくそれっぽいものが出てきた。

 モアやモストのような口うるさい生意気なぬいぐるみもどきはどうでもいい。

 わたしが異世界に求めていたのは、こういうのである。


「はじめまして。女神様直属メイドの、ヴィラと申します」


 ぺこりと頭を下げる猫耳メイド。

 その一挙一動にも、気品を感じられる。

 由緒正しきメイドって感じだ。


「か、可愛い! 可愛いですね、メイドさん!」

「……はあ。ありがとうございます」

「あ、ちょっとスカートの裾を持って、『おかえりなさいませお嬢様』って言ってもらえます?」

「……変態ですか? 見ないでください」


 猫耳メイドは冷たい目で一瞥すると、隠れるようにカーテンの後ろに引っ込んでしまった。

 あ、あれー? おかしいな。

 メイドってもっと従順なものじゃないの?

 まるで汚物を見るような目をしてたけど。

 くっそ、あのメイドわからせてやりてえ……


「今手土産をお持ちしますので。皆さまはそちらで少々お待ちください」


 そう言うと、美しい姿勢のまま歩いて行ってしまった。


「……はあ。ね、芽衣ちゃんはどう思う?」

「あれは完成度が高いですね。そこら辺のコスプレ喫茶にいるパチモンとは訳が違うかと」

「だよね……じゃ、なくて! メイドさんじゃなくて女神様の話。芽衣ちゃんは女神様のこと、どう思った?」

「どうって……あれはメンヘラですね。あの女、まともじゃありませんよ」

「え、そんな感じ?」


 言い過ぎじゃないだろうか。

 どちらかというと、魔王になったときの芽衣の方が闇を感じたんだけど……

 ひょっとして、同族嫌悪ってやつ?


「不死の呪いの苦悩は、当人にしかわからないものがあるのでしょうが……麻子さんが負担を背負う必要はありませんよ」

「……え」


 思わぬ言葉に、目を丸くする。


「あ、いや……と、とにかく! あんな与太話に付き合う必要ないってことです」


 芽衣はぷい、と首を振った。


「芽衣ちゃん……わたしのことをそんなに……! もう、好き!」

「ああ! ちょ、苦しいです! やめてください!」


 思わず芽衣のことを抱きしめて頬ずりしていた。

 芽衣ちゃん、可愛すぎ。

 やっぱりこの子にはわたしがついてないと。


「ぜぇ、ぜぇ……お、終わった……?」

「あ、羽衣姉……うん、たぶん終わったよ」


 布団を被ったまま、ふらつきながらこちらに向かってくる羽衣姉。

 そうだ、羽衣姉もいたんだった。

 首筋に汗を垂らして、今にも倒れそうである。

 この様子だと、何も聞いてなかっただろう。

 ずっと布団を被って隠れているだけだった。

 ……何しに来たんだ、羽衣姉。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ