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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~女神編~
129/201

アストラルホールの女神様

「わたしがここの城主。皆からは、『女神』……そう呼ばれている者です」

「なっ……」


(いつからそこに!? 全く気配が感じられなかった……!)


 一度そのシルエットを視認してしまえば、気付かなかったのが不思議なぐらいだ。

 声が通る距離にいるにも関わらず、気配どころか、存在感まで……声をかけられるその瞬間まで、全く何も感じなかった。

 まるで、存在自体が「無」のように。

 影が薄いとか、そういう話ではない。

 声をかけられるその瞬間まで、本当に何も感じなかったのだ。


(この人が、モアが言ってた女神様? ……本当に?)


 カーテンに遮られて顔は見えないが、そのシルエットはわたしよりも小さい。

 芽衣と同じぐらいだろうか。

 だとすればかなり小柄だ。

 しかし、高くて可愛らしい声とは裏腹に、大人の気品を感じられる話し方。

 声だけを聞くと、雰囲気はあるように感じる。


(でも……だとしたらおかしくない?)


 モアは、女神のことを凄い偉い人のように話していた。

 それならば、女神を護衛するための側近でもいそうなものだが……ここには誰もいない。

 実際、モアやモストは女神に仕える神官だ。

 しかし今、女神の周りに誰かがいる様子はない。

 芽衣も怪訝に思ったのだろうか、わたしの隣に来るとそっと耳打ちしてきた。


「……あの人が、女神様なんですか?」

「そうみたい、だね」

「……そう、ですか」


 芽衣は何を思ったのだろうか、一歩踏み出してカーテンに近付いた。

 ……何をするつもりだろう。


「あの。姿を見せることはできないんですか?」


 芽衣の声色から、若干の怒りを感じる。

 その手には、ひゅんひゅんと風が纏っていた。

 ……ちょっと待って。

 まさか、カーテンを風で吹き飛ばすつもり?

 怒っている今の芽衣じゃ、女神にも手を出しかねない。

 その行為は、この世界に喧嘩を売ることに等しい気がする。

 そうなれば、いよいよわたしたちは最悪の敵認定だろう。


「申し訳ありません。外部の者には、姿を見せないようにしているので……どうか、ご無礼をお許しください」


 わたしが芽衣を止める前に、冷静な声で制止された。

 ……う。

 どうしてだろう。

 謝罪の言葉なのに、下手に手を出してはいけない――そんな気持ちにさせられる。

 落ち着いた声に秘められた、静かな圧。

 魔王になった芽衣や、ミラージュの京香……強力な魔力を持つ人とはこれまでも対面してきたが、そのどれとも違う感覚。

 芽衣もいつの間にか、手に纏っていた風を鎮めていた。


(とはいえ……急に呼び出しておいて、姿を見せないのもどうかと思うけど……ね)


 それはつまり、わたしたちを信用していないってことじゃない?

 それとも何か、姿を見せられない理由でもあるのだろうか?

 とにかく今は、妙なことはしない方がよさそうだ。


「まずは、先の件を謝罪させてください。あなたたちには、大変なご迷惑をおかけしてしまったようで」

「先の件って……もしかしてモストのこと、ですか?」

「そうです。彼なりの考えあっての行動でしたが……それが無鉄砲な行動であったことは、重々承知しております。本当に……申し訳ありません」

「えーっと……それはつまり、ミラージュの騒動はモストの独断だった……ってことですか?」

「……ええ、そうです」


 静かな肯定。

 ……本当に?

 モストの動機は、女神への忠誠心と、モアに対する対抗心……わたしはそう思っている。

 だから、モストの独断というのも理解はできる。

 しかし、どうにも怪しい。

 たとえ最初はそうであっても、あれだけの人数の魔法少女を巻き込んだ事件だ。

 最期まで、誰も気に留めないなんてことがあるのだろうか?

 なんだか、段々不安になってきた。

 やっぱりわたしたちがここに呼ばれたのって、何か裏があるんじゃ……?


「ね、芽衣ちゃん……芽衣ちゃん?」


 芽衣がどう思っているのかを聞こうとしたが、何やら顔をしかめて考え込んでいた。


「どしたの? そんな難しい顔して」

「あ、いや……女神様の声、聞き覚えがあって……でも、どこで聞いたのか思い出せなくて」

「え?」

「いえ、勘違いかもしれません。でも、凄い違和感があって仕方ないんですよね……この声が、何故か気味悪く感じてしまうような……何かが間違っているような……ううう」


 芽衣が疑いの目をカーテンの向こう側にあるシルエットに向ける。

 ……そう言われても、わたしには全く聞き覚えがない。

 気味が悪いと言うが、どちらかと言えば心地の良い声だ。

 違和感? なんだろう?

 強いて言えば、百年以上生きている割には随分幼い声ってことぐらいだが……


「あの……本題に入ってもよろしいですか?」

「あ、はい……って、本題?」


 女神の『本題』という言葉に、思わず姿勢を正す。


「そうです。今回、あなたたちを呼んだのは……わたしにかけられている『呪い』に関係があります」

「『呪い』?」

「そうです。実はわたしは……『不死の呪い』にかかっているのです」

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