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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~女神編~
127/201

黒瀬麻子は焦り出す

「女神城……?」


 聞き慣れない言葉に、思わず復唱してしまった。

 脈絡のない話に、まるで理解が追い付いていない。

 モアやモストは、アストラルホールの女神に仕えている神官――そんな話は、華蓮から聞いたことがある。

 しかし、具体的な話は何も聞いていない。

 女神がどういった存在なのか、詳しいことは何も知らないのだ。


「なにそれ? モアのところのお偉いさんが、わたしたちを呼んでいるってこと?」

「まあ……そんな感じだぽん。女神様が、キミたちに会いたがっているんだぽん」

「……なんで?」


 意味がわからない。

 そんなことを急に言われても、戸惑ってしまう。

 アストラルホールには二回行ったことがあるが、まともに異世界交流などしたこともない。

 向こうの世界でやったことと言えば、魔法少女同士で戦ったぐらいのもの。

 わざわざ異世界まで行って何をしているんだって話である。

 それに、モアはかつてこう言っていた。

 アストラルホールでも、一部の上層部は芽衣が起こした魔王の事件を知っている。 

 魔王の力を持っている芽衣の存在を許さない、過激派もいる……と。

 だから、モアがお目付け役として芽衣に付き添っていたのである。

 そんな状態で、わたしたちをアストラルホールの本元に招き入れる……何か裏があるとしか思えない。

 それとも、もう魔王の力を警戒する必要はないと……そう、判断したとでも言うのだろうか?


「そもそも……女神様って何なの?」

「ぼくらの世界、アストラルホールを取り仕切っているのが女神様。もう百年以上もの間、ずっとアストラルホールを治めているんだぽん」

「百年以上……? なにそれ、長生きにも程があるでしょ。女神っていうより魔女ね……アストラルホールの住民って、そんな感じなんだ」

「いや、普通ならあり得ない。ぼくらの寿命はキミらと大差ないから、女神様が特別なんだぽん。そんな女神様がアストラルホールを治めている間は、ずっと闇の軍勢の脅威が無かった……だから、奇跡の女神様とも呼ばれているぽんね」

「え? でも今って……」

「そう、魔王復活の兆しが見られて大事になった。まるで、今まで闇の軍勢を押さえつけていた何かが失われたかのように。だからぼくたち神官は、闇と戦う魔法少女を求めていたんだぽん」

「ええ……じゃ、尚更わたしたちに何の用よ? 闇属性を持つわたしと芽衣ちゃんなんて、女神城に来てほしくないんじゃないの?」

「それは……女神様から直接話があるぽん。とにかく、キミたち三人にはこれから女神城に向かってもらうぽん」

「行かない」

「えっ?」


 モアが意外そうな声を上げる。

 今、『行かない』と口にしたのはわたしではない。

 羽衣姉である。


「……ん? 気のせいかぽん? 今、行かないって言ったぽんか?」

「あー……うん、そう聞こえたね」

「はは、まさか。えーっと、氷の魔法少女ははじめましてぽんね。ほら、キミも一緒に行くんだぽん。早く出てくるぽん」


 モアが遠慮なく布団の塊をぱしぱしと叩いている。

 うん、この空気読めなさ加減。

 羽衣姉が一番嫌うタイプだろう。


「……冷たっ! 冷たいぽん!」


 モアが飛び退いて叫び声をあげる。

 そりゃそうだ。

 不躾なモアの手は、凍り付いていた。


「あーあ、羽衣姉は行きたくないってさ」

「なんでぽん!? 女神城ぽんよ!? そこに呼ばれるということは、名誉なこと! 普通なら入ることすら許されない聖域! みんなが憧れる場所なんだぽん!」

「………………」


 反応なし。

 羽衣姉は、答える気すらないらしい。

 仕方がないので、羽衣姉の気持ちを代弁してあげることにした。


「あのねえモア。羽衣姉にとっては外に出るってこと自体がハードル高いのよ。ましてやこの暑さ。こんなときに女神城なんて訳のわからないところ、行くわけないでしょ」

「はあ……全く、非協力的なところは麻子とそっくりぽんね。やれやれ」


 イラッ。

 なんだその呆れ顔は。

 いつかのときみたいに、窓から放り投げてやろうか……

 そう思った矢先、これまで静かだった芽衣の手がモアに伸びた。


「ぽん!?」

「め、芽衣ちゃん!?」


 ゆらゆらと黒い風を右手に纏い、長い前髪の隙間からぎょろりとモアを睨む芽衣。


「邪魔、しないで」

「め、芽衣! ちょ、手を離すぽん!」


 闇を纏った右手でモアの首を掴んだまま、すたすたと窓に近付いていく。

 あー……あれじゃモアにはどうにもできないだろう。


「今、わたしとユキさんは取り込み中なんです。邪魔しないでください」


 ん?

 んん?

 今、わたしとユキさんって言った?

 わたしとユキさん。

 つまりは、芽衣と羽衣姉。

 ……あれ? わたし、麻子は?


「それじゃ、そういうことですので」

「あああああ! キミたちは何でこう……! あああああ」


 穏やかだが禍々しい黒い風に乗って、空高く飛んでいくモア。

 芽衣ちゃん……容赦ない。

 あっという間にモアの姿は見えなくなってしまった。

 窓を閉めると、満足そうに羽衣姉の元に駆け寄った。


「ユキさん! もう大丈夫です、侵入者は撃退しましたよ!」

「す、すごい……源さん、強いんだねえ」

「え、えへへ……」


 えへへ!?

 えへへって何!?

 芽衣にえへへなんてされたこと一度もない。

 芽衣の羽衣姉に対する態度がやばい。

 これならむしろモアの邪魔があったほうが良かったまである。


「ちょ、ちょっと……芽衣ちゃ」


 嬉しそうに話すふたりに近付こうとした、瞬間だった。

 わたしたちを取り囲むように、空間が歪んだ。

 この、世界を跨ぐ穴。

 もう、何度か体験したこの浮遊感。

 どうなるのか、さすがにもうわかっている。


(……アストラルホールに行くときのやつ! モアあああああああ!!!)

 

 心の中で叫びながら、わたしたち三人は……羽衣姉の部屋から姿を消した。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「これで……これで、本当に良いんですか? 女神様……」


 三人の魔法少女が消えた部屋に、ぼそりと響く低い声。

 紳士帽を深く被ったモストの顔には――迷いの色が見えた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 羽衣さんが拒否するんかい・・流石引きこもりの達人( そして麻子の嫉妬があからさまなのは珍しいような?良いですねー。 それと地球側とアストラルホール側の価値観の違いも大きそうで良いですね( …
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