源芽衣の目的は
「………えーっと………」
空気が気まずい。
ベッドの上に、布団をかぶった羽衣姉。
その隣にわたし。
そして、床に正座した羽衣。
三人もいるのに、誰も何も喋らない。
芽衣の方は何か言いたいことがあるのだろう、ちらちらわたしの方を見て助けを求めている。
一方の羽衣姉はと言うと、出てくる気配がまるで無い。
完全に籠城体制だ。
多分、ここでこのまま帰ったら二度と羽衣姉が芽衣と話すことはないだろう。
うーん……少し荒療治だけど、仕方がない。
沈黙に耐え切れず、わたしが口火を切った。
「えーっと……芽衣ちゃん、これが羽衣姉。わたしの従姉。今はこんなだらしない格好してるけど、普通に良い人だから。不審者じゃないよ」
隣で丸まっている布団の塊をポンポン叩いていると、羽衣姉がむっとした顔を覗かせた。
「麻子ちゃん……」
「いやだってその姿じゃ……ね?」
少し涙目になっている羽衣姉の背中を布団の上から撫でながらなだめてやる。
なんでわたしの周りって、こうも子どもっぽい子が多いんだろう。
まあ、嫌いじゃないからいいんだけど。
「んで、羽衣姉。この子がさっき言ってた子で、源芽衣ちゃん。わたしたちと同じ魔法少女。羽衣姉がさっき言ってた魔王の力を持った魔法少女っていうのは、この子だよ」
「……源……?」
布団から顔を覗かせた羽衣姉が、微かに首を傾げた。
「ん? 羽衣姉、どうかした?」
「え、源芽衣って……もしかして、源社長の……」
「あ、あー! 言わないでください!!」
羽衣姉が何かを言いかけたが、芽衣が慌てて制止した。
突然の出来事に、目が点になる。
「え、え? 何、どういうこと?」
「いえ! なんでもないです! そ、それより……」
芽衣が興奮したように言った。
「その声……あなた、やっぱり『白雪姫』の中の人だったんですね!?」
「え!」
「え?」
羽衣姉とわたしの声が揃う。
しかし、ふたりの声色のニュアンスは全くの正反対だった。
「白雪姫って……あの?」
白雪姫……ってあれだよね?
華蓮たちと行ったTOKYOビッグフェスで聞いた……今話題のVTuber。
確か、大手事務所に所属している『白金ユキ』とかいう……
その中の人って……え、どういうこと?
「ど、どうして……! や、やっぱり、源社長から何か言われて……」
「違います! 関係ないです! わたし、白雪姫のことは前から……!」
「ストップストップ! 何、どういうこと? 全然話についていけないんだけど!?」
急にふたりで話し始めて、置いてけぼり感が半端ない。
でも、これだけは言える。
嫌な予感しかしない。
「麻子ちゃん……多分、麻子ちゃんにはわからない世界だと思う」
「はあ?」
「ネットの世界の話だから」
「あ、あのねえ……わたしもそこまで疎いわけじゃないわよ。白雪姫って、オリプロの人気VTuberなんでしょ?」
「ええ!? 麻子ちゃんがネット文化を知ってるの!?」
「あれ? 馬鹿にされてる? 怒ったほうがいいやつこれ?」
「だ、だって……麻子ちゃんそういうイメージないから……」
「子どもの頃の話でしょそれ。こちとらもう成人迎えようとしてるのよ。あと、最近はどんなやつでもネット文化嗜んでるから」
「そうなの……?」
「そうなの」
羽衣姉の中でわたしのイメージは十年前で固定されているらしい。
さすがにそこまで原始人ではない。
「いや、っていうか……『白雪姫』の中の人って言ったよね? 聞き間違いじゃないよね? それってつまり……」
「……!!!」
布団で口元を隠した羽衣姉の顔が、みるみる赤くなっていく。
「麻子さん……この反応、マジですよ」
芽衣の声が、嬉しそうだ。
それじゃもしかして、芽衣が羽衣姉に会いたがっていた理由って……
「この方は……白雪羽衣さんは、オリプロ所属のブイチューバーです」
「……えええええええ!?」




