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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~女神編~
122/201

雪女の白い家②

「開いてる……わけないか。……だったら……」


 しっかり鍵のかかった扉の前で、身体に纏っていた闇を静かに足元へ動かしていく。


(扉の下……ほんの数ミリでも、隙間さえあれば……)


「えっ。な、なにしてるんですか?」

「いいからいいから。静かに……」


 わたしは口に人差し指を当てると、足元に気持ちを集中させ、家の中に闇を流し込み始めた。


(羽衣姉~いるんでしょ? 出てこ~い……)


 いきなり得体の知れない暗闇が家に入り込んできたら、普通の人間だったら慌てて出てくるだろう。

 しかし、羽衣姉の場合は少し事情が違う。

 そんなことで簡単に家から出てくる相手ではない。

 それでも何とか家主を引きずり出そうと暗闇を動かしていると、芽衣が口を開いた。


「なんか……冷たくないですか?」

「えっ?」

「足元に……冷たい空気が当たっているような……これ……この家からですよね?」

「言われてみれば……」


 確かに感じる。

 明らかに、自然に発生しているものではない。

 まるでわたしの闇に対抗するように、この家から冷気が流れ込んできているのだ。


「氷魔法……ってことね」


 どうやら、意地でも出てくる気はないらしい。

 こうなったら、根競べだ。

 わたしは冷気を闇魔法で打ち消そうと、更に『黒幕』を増幅させた。

 ――しかし。


「……あれ? この冷気……消せない」


 闇魔法なら、氷魔法にも対抗できる。

 それは、この家にこうして近付けていることから立証済みだ。

 しかし今、この家から流れ込んできている冷気に、わたしの闇は全くの無力だった。


「消せないって……まさか、闇魔法でも無効化できないほどの魔力を……!?」

「……いや、これは……」


 わたしはしゃがみ込むと、扉の下に手を近付けた。


「麻子さん! 危ないですよ!」

「ううん、大丈夫。闇魔法で無効化できないのは……この冷気が、氷魔法によるものじゃないってことだよ」

「……えっ?」


 わたしは、ここで確信した。

 外にまで漏れ出すほどの冷たい空気。

 それは、氷魔法によるものなんかじゃない。

 だったらこれは何なのか。

 もっと単純な話である。

 この冷気は――ただの『冷房器具』によるものなんだ。

 家の中は、相当冷えているに違いない。

 だとしたら……やっぱり、この家の中にいるのはわたしの知っている羽衣姉だ。


「羽衣姉! いるんでしょ! わたし! 麻子! 開けてー!」


 ドンドンドンと扉を乱暴に叩く。


「ちょ、ちょ……大丈夫なんですか!?」

「大丈夫大丈夫。やっぱり間違いないよ。中にいるのは、わたしの従姉の羽衣姉だから」

「それじゃ、もしかして……」


 芽衣が何かを言いかけたとき、扉の向こうで鍵を開ける音が聞こえた。

 同時に、指が一本入るぐらいの、ほんの僅かな隙間が開く。


「羽衣姉!?」

「……麻子、ちゃん?」


 ぽわぽわとした、掴みどころのない柔らかい声。

 しかしそんな可愛らしい声と同時に、思わず顔をしかめるほどの冷気が顔に直撃した。


「っく、寒っ……! う、羽衣姉……久しぶり」

「え、うそ……本物?」

「本物だって。本物の黒瀬麻子。急な訪問で悪いけど……入れてもらえない? 話があるの」

「………」


 数秒の沈黙の後、扉が更にほんの少し開く。


「麻子ちゃんなら……いいけど……っ!?」


 何とか腕が入るぐらいの隙間が開いたところで、羽衣姉の声色が裏返った。

 わたしの後ろにもうひとり、芽衣がいることに気が付いたらしい。


 バタン!


 勢いよく扉は閉められてしまった。


「……え? え? ど、どういうことですか?」

「あちゃー……こりゃ、良くなるどころか悪くなっているわね」


 閉め切られた扉の前で、思わず苦笑いを浮かべた。


「羽衣姉はね……引きこもりの人見知りなの。華蓮や芽衣ちゃんとは、比べものにならないほどのね」

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― 新着の感想 ―
[良い点] また羽衣姉はキャラが凄まじいですね・・ほんわかな声で極度の人見知り。まさかヤンデレだったりしませんかね(震え) [気になる点] ただの「冷房器具」で極寒とはどうなっているのか・・食事も水も…
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