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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~女神編~
119/201

消えた魔法

「…………誰?」

「はじめまして……では、ないですね。突然お邪魔してすみません」


 そこに立っていた制服姿の女の子は、そう言うと頭を下げた。

 前髪をぱっつんに切りそろえた、まん丸のボブカット。

 丈の長いスカートを履いて、礼儀正しくお辞儀をする姿からは気品すら感じられる。

 上品で、おしとやかな女学生……

 しかし、こんな子が家を訪ねてくる覚えはない。


「いや、えっと……ごめん、誰かな?」

「……そうですよね。わからないですよね」


 その少女は顔を上げると、わたしの目を真っすぐ見上げて言った。


「わたしの名前は安曇瑠奈。……雷の、魔法少女です」

「雷の……?」


 その瞬間、思い出した。


「……あ! 鏡の洋館で、華蓮と戦ってた……!」


 安曇瑠奈――雷の魔法少女。

 ミラージュの一員として、華蓮と一戦交えた魔法少女だ。

 そのときわたしは鏡の世界に閉じ込められていたが、モストが持ってきた鏡で華蓮の戦いを見ていた。

 確かこの子は、京香の片腕的存在で、華蓮に負けたあとは……あれ、どうなったんだっけ?


「……その雷の魔法少女がどうしてうちに? てか、何で住所知ってるの?」

「それは、前からモストに聞いていたので。それより……今日は、あなたに聞きたいことがあって来たんです」

「聞きたいこと?」

「あなた……京香さんに、何をしたんですか?」

「……え?」


 思いも寄らぬ質問をされ、言葉に詰まる。

 京香とは戦ったが、いつの間にか姿を消したのは京香の方だ。

 それなのに、どうして今更そんな質問をするのだろう。


「何をしたって……むしろされたのはわたしたちの方っていうか……」

「京香さん……あの戦いから、魔法が使えなくなったんです」

「……は?」

「それで、すっかりおとなしくなってしまって……黒瀬さん! あなたの魔法に、原因があるんじゃないんですか!?」

「……はあああああ?」


 何を言っているのかわからない。

 魔法が、使えなくなった? 京香が?


「な、何を言って……」


 言いかけて、汗がぽたりと床に垂れた。

 よく見ると、目の前に立っている瑠奈も顔を赤くして、首筋に汗を垂らしている。


「……えっと……とりあえず中に入りなよ。こんな暑いところで、立ち話もしたくないし」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「そんな……京香さんが……?」

「ほんとに今まで知らなかったってこと? モストのやつ……投げっぱなしにも程があるでしょ」


 わたしは瑠奈を涼しい自室に招き入れると、京香が企てていたことをすべて話した。

 京香が魔獣を操っていたこと。

 それによって、ミラージュという組織を意図的に作り上げたこと。

 その目的は、魔王である芽衣を討伐して、自分の願いを叶えることだったこと……

 瑠奈も最初は信じられないようだったが、すべてを話し終えるころには、静かに膝の上で手を握りしめていた。

 盲目的に京香のことを崇拝していたわけではないらしい。

 わたしの言うことを頭から否定しようとはせず、真実を知ろうとする姿勢が見て取れた。

 本当に、バカがつくほど真面目な性分なのだろう。


「ショック受けてるところ悪いけど……これが真実よ。嘘じゃないわ」

「……わたしが……間違っていたんですか……?」

「ま……そうね。知らなかったとはいえ、あなたに電撃を浴びせられて拉致られたのは事実だからねえ」

「う……そ、それは……ご、ごめんなさい」


 責められて、瑠奈が俯く。

 ちょっと意地が悪かっただろうか。

 まあ、これはモアにも責任があるような気がするが。

 瑠奈にわたしを拉致することを唆したのはモアだろう。

 ……あれ? わたしモアにちゃんと謝ってもらったっけ?

 久しぶりにモアを窓から思い切り放り投げたくなってきた。


「でも、それじゃ……京香さんが魔法を使えなくなった原因は、黒瀬さんじゃないってことですか?」

「そうよ。なんでわたしが……」


 疑惑を晴らそうとして、言い淀んだ。

 瑠奈が嘘をついているようには思えない。

 京香は、本当に魔法が使えなくなっているのだろう。

 だとしたら、その原因は何なのだろうか?

 確かに、京香と最後に戦ったのは他でもない、自分だ。

 あのときわたしは、京香の分身に追い詰められ、無我夢中で闇魔法を使った。

 わたしの『闇』は、あらゆる魔法を無力化する。

 まさかそれによって、京香自身の魔力まで消えてしまった……そんなことが、あり得るのだろうか?

 いや、そうだとしたら芽衣と戦ったときの説明がつかない。

 あのときも同じように、わたしは芽衣を闇魔法で押さえつけた。

 闇魔法にそんな効果があるのなら、芽衣も魔力を失っているはず。

 しかし、芽衣は風魔法の魔力も、魔王の力もそのまま残っている。

 だとしたら、一体どうして……?


(うーん……とはいえ、わたしも闇魔法の力を完全に理解しているわけじゃないしなあ。モアですら知らなかったのに、闇魔法に詳しい人なんて……)


「……黒瀬さん……黒瀬さん?」

「あ……ごめんごめん。考え事してた。で? その京香本人は、今どこに?」

「それが……わからないんです。最近は、会ってもらえなくて。でも、本当にわたしたちを利用していたのなら……ミラージュの魔法少女には、顔を合わせづらいですよね」


 瑠奈は、少し寂しそうな顔を見せた。

 利用されていたとはいえ、瑠奈は魔法少女になってから多くの時間を京香と過ごしていたはず。

 急にわたしから真実を告げられても、すぐに割り切れるものでもないのだろう。


「あなたに話を聞けば、京香さんにまた会えると思ったんですがね……」


 そう言うと、瑠奈はゆっくりと立ち上がった。

 ほんの少し、肩が震えているように見える。

 瑠奈の心情を考えると、何て声をかけたらいいのか、わからなかった。


「わたし……帰ります。今日は、時間をとらせてしまってごめんなさい」

「……いいよ。それより……瑠奈、あなたはこれからどうするの?」

「どうって……どうもしませんよ。もう、戦う理由もありません。わたしは、魔法少女になる前の日常に戻るだけです」

「そう……そうよね」

「はい。お邪魔しました」


 雷の魔法少女はぺこりとお辞儀をすると、俯いたまま静かに帰って行った。


(魔法少女になる前の日常に戻る……か)


 言われてみれば当たり前だ。

 もう、瑠奈にとって魔法少女でいる意味はない。

 京香がいなくなったのなら、ミラージュは実質解散したも同然だろう。

 そうなれば、瑠奈は目的を失ったことになる。

 魔王はもういない。

 魔獣と戦う必要もない。

 魔法少女の需要は、皆無と言っていい。

 それじゃ、わたしは?

 もしわたしが、魔法少女になる前の日常に戻ったら……


「……ま、いっか」


 これ以上は考えないようにしよう。

 魔法少女になる前の浪人生活が虚無すぎて、何も思い出せない。

 あの何もない生活にまた戻るのは、正直耐えられない。

 何者でもない自分に戻ったら、今度こそ腐ってしまう気がする。

 わたしは玄関のカギを閉めると、そのままベッドに倒れ込んだ。


「それにしても、紅京香の魔力が……ね」


 天井を見上げながら、ぼそりと呟く。

 あの鏡の魔法には散々苦しめられた。

 それが使えなくなっているとしたら、わたしたちにとっては朗報でしかない。

 もう、操られることも、鏡の世界に閉じ込められることも無いのだから。

 しかし。

 そうなると、ひとつだけ心残りがある。


(それじゃ、モストのやつがあれから姿を現さなかったのは……諦めたからじゃなくて、京香の魔力が消えたから……かもしれないってことか)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 瑠奈再登場は個人的に嬉しいですね。関わりと言っても華蓮がやり合った程度ですし、今後また再登場するのかどうか・・ [気になる点] やはり京香の魔法は推定女神様()の謎の少女が奪ったんだろうか…
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