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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~樋本華蓮編~
115/201

魔法少女の、これからは

 その夜。

 わたしたちは、全員で東京のホテルに泊まっていた。

 前にわたしがひとりで泊まったホテルと、同じホテルである。

 今回は四人もいるので前回と比べると狭く感じるが、不安を抱えながらひとりぼっちで泊まるより遥かにマシだ。

 芽衣と華奏の中学生組は既にぐっすりと眠っており、ふたりの寝息が微かに聞こえる。

 わたしと麻子はふたりを起こさないように、薄暗い部屋でフットライトだけを灯し、小声で話していたのであった。


「は~……疲れたあ」

「あれだけ動き回ったらそうなるわよ……」


 髪の毛を手入れしながら、そっとベッドに座る。

 ただでさえ暑い中、慣れないところを移動したせいでくたびれた。

 こういうときは身体をほぐしておかないと、明日の行動に差し障る。

 そう思って身体を伸ばしストレッチをしていると、麻子が仰向けになったままこちらをじっと見ていた。


「……何?」

「華蓮~……足マッサージしてよ」

「はあ? 何でわたしがそんなこと……」

「晩御飯奢ってあげた恩を忘れたの? 美味しそうにもりもり食べてたじゃない」

「感謝のしるしとか言ってた口はどこ行ったのよ……あーもうわかったから。足出して」

「わーい」


 麻子がごろんとベッドにうつ伏せになり、催促するように足をパタパタしていた。

 言われたとおりにするのは癪だが、麻子には鏡の洋館で助けられた恩もある。

 マッサージぐらいは、してあげるとするか……

 わたしは麻子のベッドに移動し背中に跨ると、そのまま麻子の足を両手でぐいぐいと揉み始めた。


「あ~……良い……」

「え、そんなに?」

「そのちっちゃい手が一生懸命頑張ってる感じが良い……」

「え、きも……何言ってんの」

「いいからいいから」

「仕方ないわね……」


 言われるがままマッサージしながら、麻子の顔を見る。

 その気持ちよさそうな顔に、思わず引っ叩きたくなるような衝動に駆られたが、華奏たちを起こしてしまいそうなので思い留まった。


「……いやーでもほんとに気持ちいいよ。華蓮、マッサージ上手いんじゃない?」

「こんなの誰がやっても変わんないでしょ。てか、わたしにもやってよ」

「いいよ? ほら、うつ伏せになって」

「…………やっぱいい。なんかいや」

「え~? 折角マッサージしてあげようと思ったのに」


 そう言いながら両手をわきわきさせる麻子は、不審者そのものだった。

 こいつに足を触らせるのは、不快。


「はい、おしまい! あとは自分でやってよね」


 わたしは自分のベッドに戻ると、布団にもぐり込んだ。

 まだ目は冴えているが、身体は疲れている。

 このまま目を瞑っていれば、すぐに眠れるだろう。

 そう思い、布団を頭から被ると静かに目を閉じた。


「…………ん?」


 隣で何かがもぞもぞと動いている。

 気のせいじゃない。

 どう考えても隣に誰かいる。

 そっと目を開けると、すぐ目の前に麻子の顔があった。


「ちょ、麻子!? 何入って来てんのよ!?」

「いいからいいから。この方が小声で喋れるじゃん」

「ち、近いのよあんた……!」

「しー! 大きな声出すと芽衣ちゃんたちが起きちゃうでしょ」

「あんたのせいなんだけど……」


 壁の方を向いて、顔を見られないように枕に顔を埋めた。

 こんなに近くに人がいると落ち着かない。


「そんな照れることないのに。……ね、華蓮。ちょっと真面目な話してもいい?」

「……何よ?」


 目を閉じて枕に顔を埋めたまま、答える。


「芽衣ちゃんと華奏ちゃんのこと。あのふたり……あのままでいいのかな?」

「……どういう意味?」

「芽衣ちゃんは今、その身に魔王の力を宿している。そして華奏ちゃんは、唯一その魔王に対抗する光の魔力を持っている。このままだと、また良くないことが起こる気がするのよね」

「それは……まあ、そうかもだけど……」


 とはいえ、どうしようもない。

 華奏はもう、光の魔法少女になってしまったのだから。

 今さら時間を戻して、魔法少女になる前に……普通の少女だった頃に戻ることなんて、出来っこない。


「……わたしたちの魔力って、ずっとこうだと思う?」

「え?」

「ほら、魔法『少女』って言うんだからさ……大人になったら、自然と魔力は無くなるとか……そういう話があっても、おかしくないと思わない?」

「麻子はもう既に少女じゃないじゃん。……痛い痛い痛い!」


 横腹を抓られて思わず声をあげる。


「華蓮~……? そろそろあなたにはお仕置きした方が良さそうね」

「な、な、何を……」


 ぬっと麻子の手がわたしの足に触れたような気がしたその瞬間。

 壁の方から、唐突に声が聞こえた。


「や。楽しんでるみたいぽんね」


 するりと壁をすり抜けて現れたのは、聞き覚えのある声の主。

 もう、いちいち驚いて声を出すこともなくなっていた。


「……モア。もう終わったの?」


 そっと、麻子の手がわたしの足から離れた。

 なんだろう。何故だか、助かったような気がする。


「ああ。一応報告は終わったぽん」

「どうだった?」

「モストのやつ、今も姿を見せないままなんだぽん。いくらあいつがしたことを表沙汰にしても、当事者がいないんじゃ意味ないぽんね」

「モストは逃げている、ってこと? それじゃ、ミラージュの残党は?」

「あの子たちは全員、人間界に戻っている。心配無用だぽん」

「全員ってことは……あの、鏡の魔法少女も?」

「ああ。京香も人間界に戻っていることは確認できたぽん。ただ、そのあとどうなったかはぼくにもわからない。瑠奈が一緒にいたという目撃情報もあるぽんが……今はどうしているのやら」


(え……瑠奈が?)


 その名前が出て、わたしはドキリとした。

 わたしはてっきり、モストと京香は今でも一緒にいると思っていた。

 鏡の洋館から突然ふたりが姿を消したのは……モストが京香を連れてその場を離れたから。

 そう思い込んでいた。

 しかし今、モストは行方不明となっており、京香は瑠奈と共にこちらの世界に戻ってきている。

 一体どういうことなのだろう。

 瑠奈は、わたしが倒した雷の魔法少女だ。

 まだ、何かを企んでいるのだろうか?

 もしかして、わたしのことを恨んで……?

 少し不安になり、思わず手に触れていた麻子の服をぎゅっと掴んだ。

 麻子もそれに気が付いたのか、そっとその手を握ってくれた。


「そういえば……氷の魔法少女って、何だったの?」


 麻子がぼそりと呟いた。


「結局出てこなかったじゃない、最強の魔法少女。モアは、その魔法少女のことを警戒して行動してたんでしょ?」

「ああ……『雪女』は、未だに名前も実力も把握できていない魔法少女……用心しておくことに、越したことはないと思うぽんが」


(……え?)


 わたしは思わず目を開いた。


「……モア、名前……知らないの?」

「? そうだぽん」

「わたし……名前、聞いたような気がするんだけど」

「え!?」

「華蓮、その魔法少女のこと知ってるの?」

「ええっと、確か……」


 わたしは瑠奈に聞いたはずの名前を必死に思い出す。

 瑠奈から魔法少女のランクについて説明を聞いたとき……あのとき瑠奈は、その魔法少女の名前を口にしたはずだ。

 だからわたしは、その名前を知っている。

 歴代最強の魔力を持つ、氷の魔法少女の名前を。

 確か、その名前は……


「…………あ」

「思い出したぽん、華蓮!?」

「あ、うん。そっか……だから今日、『白雪姫』に引っかかったんだ」

「し、白雪姫……? 何の話だぽん?」

「ううん、こっちの話。Sランクの氷の魔法少女の名前は、白雪……白雪……あれ、下の名前なんだっけ?」

「白雪……白雪……?」


 麻子は囁くようにその名前を口にしたあと、そっとわたしに耳打ちした。


「もしかして……『白雪羽衣』……とか?」

「あ……! そうそう、そんな名前……って……麻子、知ってるの?」

「……まさか……いや、ただの同姓同名かもしれないけど……」


 静かな暗い部屋で、麻子は小さく呟いた。


羽衣姉(ういねえ)は……わたしの、従姉なんだけど」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 芽衣が色々としっかりしすぎて中学生だったことをすっかり忘れていました・・。 麻子もまだ少女よ・・?(震え声) [気になる点] 今後、京香と瑠奈を始めとした元ミラージュメンバーがどう動くのか…
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