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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~樋本華蓮編~
111/201

樋本華蓮の夏休み

 ミラージュとの闘いから、数日が経過した。

 夏休みも残り一週間。

 もうすぐ再開する学校のことを考えて、憂鬱な気分になる頃である。

 宿題を片付けていない生徒は、そろそろ慌てて取り掛かる頃でもあるだろうか。

 わたしは当然の如くすべての宿題を片付けているので、そんな心配をする必要は無い。

 正直言って、あんなものに時間をとられるわたしではないのである。

 そんなわけで、今は残った夏休みの時間を噛みしめながら、ときどき麻子の住むアパートを訪れる日々を送っていた。

 今日も麻子の部屋でソファーに寝ころびながら、のんびり過ごしているところである。


「ふぁ……」


 大きな欠伸をして、目を擦る。

 結局……あれから、わたしの周囲では何も起こらなかった。

 モストと京香が姿を消したあと、わたしたちはモアの力を借りて元の世界に戻り、華奏を病院に連れて行った。

 前に麻子と芽衣が入院した病院と同じところに行ったため、看護師に怪しまれてしまったが……華奏はそこでほんの数日入院するだけで、順調に回復することができた。

 入院中も、ミラージュがまた華奏のもとに現れるのではないかと思い、気を張っていた。

 しかし、その心配も杞憂に終わった。

 正直、拍子抜けしたほどである。

 もう、華奏のことは諦めたのだろうか?

 京香は、今どこにいるのだろうか?

 少し前まではそんなことを考えていたが、今は退屈な日常に欠伸が出てしまう始末である。

 そんなわけで、わたしは頬杖をつきながら、モアに詰め寄る芽衣の様子を見守っていた。


「それじゃ……モアはずっと黙っていたってことですよね? わたしはずーーっと一緒にいたのに」


 芽衣の声色が恐ろしい。

 明らかに怒っている。

 お目付け役としてずっと芽衣のそばにいたモアが、芽衣に黙って勝手な行動をしていたことが許せないらしい。

 小さな身体で恨めしそうに見上げる芽衣の視線は、黒く濁っていた。

 肩から少し黒い闇が漏れているように見える。


「えーっと……ほら、敵を騙すにはまず味方からって言うぽん?」

「ふーん……言いたいことはそれだけですか?」

「ちょ、ちょっと……落ち着きなさいよ芽衣」


 今にも芽衣の手がモアの首に伸びそうだったので、思わず止めに入ってしまった。


「でもね、モア。あんたが悪いわよ。わたしたちがどれだけ心配したと思ってるの」

「え、華蓮そんなにぼくのことを心配してくれたぽん?」

「んなわけないでしょ。麻子のことよ」

「え、華蓮そんなにわたしのことを心配してくれたの?」

「んなわけないでしょ! モアのことよ!」

「……華蓮さん? 一秒で矛盾してますよ?」


 芽衣に呆れ気味の視線を向けられてしまった。


「もー照れなくていいのに。心配してくれたんだよね、ありがとね」

「うるさい。してないし」

「はは……いやでも、今回のことはわたしにとっても不可抗力でさ。実際、新幹線の中で襲われて監禁されていたのは事実だし」

「やっぱりモアが悪いんじゃないですか。万死に値しますね」

「いやいや、ぼくの機転のおかげで全滅を免れたぽんよ? そういう意味では、むしろ感謝してほしいくらいだぽん」

「へーぇ、それ華蓮さんの妹さんの前でも言えるんですか?」

「あ、いや……そりゃ、華蓮の妹には悪いことしたと思うぽんが……」


 急にモアの声が小さくなる。

 さすがに罪悪感があるらしい。

 俯くモアを見て、わたしはひとつ息を吐いた。


「ま……今回は、本当に手遅れにならなくてよかったわよ。わたしがモアたちを家に招き入れたから……華奏は……」

「いやいや! それを言ったら華蓮の家に行こうって言い出したのはわたしだし……」

「いやいや、ぼくも悪かったぽん。あのときぼくが居眠りしてなければ、こんなややこしいことには……」

「確かに。それじゃやっぱりモアが悪いということですね。万死に値します」

「なんで!? そういう流れじゃなかっただろうぽん!? ……あ、ちょ! やめるぽん!」


 芽衣が逃げるモアを追いかけ始めたので、もう放っておくことにした。

 モアにもいい薬になるだろう。

 ソファーに座り直し、ゆっくりと冷たい麦茶を啜る。


「……あの後、華奏ちゃんの調子はどう?」


 麻子が静かに口を開いた。


「もう何ともないみたい。それどころか、家で光の魔法をライト代わりにして遊んでたわよ」

「そ……ならよかった。確かに、わたしの闇よりは使い勝手良さそうだ」


 麻子はそう言うと、わたしの隣に座った。

 麻子はアストラルホールから戻ったあとも、何度も病院に華奏の様子を見に来てくれていた。

 麻子が常に華奏のことを気にかけてくれていたことは、よくわかっている。


「だから、もう大丈夫よ。麻子が気に病む必要無いわ」

「そっか……! それじゃ、やっぱり行くしかないわね」

「行くって……どこに?」

「決まってるでしょ。当初の目的を果たすのよ」

「目的……? 何の話?」

「東京旅行よ東京旅行! まさか、台無しにされて終わる気じゃないでしょうね!?」

「え、まじ? 行くの?」


 ちら、と芽衣に視線を向ける。

 モアの首根っこを掴みながら、芽衣がこくりと頷いた。


「……行きたいけど……わたしはやめておくわ。華奏を家にひとりで置いて行くのは心配だし。ふたりで行ってきなさいよ」


 そう言いながらも、わたしはぎゅっと手を握りしめた。

 そりゃ、楽しみにしていたことが何もできなかったんだから、心残りはある。

 でも、あんなことがあったのに、華奏をひとりだけ置いて家を空けるわけにはいかない。

 もう、あんな思いはしたくない。


「何言ってるの? それなら大丈夫でしょ」

「……え?」


 麻子がずいっと顔を近付けてきた。


「華奏ちゃんも、一緒に行けばいいじゃん」

「え」


 麻子の言ってることが一瞬理解できずに、固まった。

 思考停止とは、こういう状態のことを言うのだろう。


「え、なにその顔? なんでそんな意外そうな顔するわけ?」

「だって、華奏も一緒にって……いいの?」

「いいも何も。ダメな理由ないでしょ。ね、芽衣ちゃん?」

「………………はぃ」

「あれ!? ダメだった!?」

「いえ、ダメではないですが……わたしは妹さんとは全く話したことないですし……なんなら戦った関係ですし……その……」

「緊張する、ってこと?」

「………………いえ決してそんなことは」

「大丈夫! ちゃんとわたしが一緒にいてあげるから!」

「本当ですね? 嘘じゃないですよね? 妹さんに心移りして、置いて行ったりしないですよね?」


 芽衣が早口でまくし立てる。

 ……なんだか、芽衣の方が悪化している気がする。

 うーん、どうしてこうなったんだろう。

 いつか麻子に依存しそうで、芽衣の将来が心配である。


「もう夏休みも残り少ないんだから。明日から行くわよ明日から。今度はモアがいるから行き放題ってものよ」


 モアの顔を指でつつきながら麻子が言う。


「そうですね。それじゃモア。明日からよろしくです」

「お、おう……わかったから、その手を離してほしいぽん」

「今度は四人だから計画見直さないとね。それに、店の予約とか……あ、華奏ちゃんはどこか行きたいところあるかな?」

「あ、ちょっと待ってください。今の時期なら、わたしも行きたいところがありまして……」


 スマホを覗き込みながら嬉しそうに話す麻子と芽衣を見て、わたしは思わず笑った。


 どうやら、わたしの夏休みはこれから始まるらしい。

「魔法少女は闇が深い」、第二部はこれで一区切りです。

ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます!

このあとは、第三部に繋がる話を少し書いていく予定です。

本作を少しでもお気に召していただけたら、評価や感想、是非お願いいたします!


改めて、読んでくださって本当にありがとうございました。

まだまだ続く予定ですので、引継ぎ応援のほど、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ようやくわちゃわちゃとした日常が戻ってきたようでほっこりしました。 華蓮の照れてる様も良いです・・好きです。 あと芽衣・・そんなに麻子に依存してましたっけ?() [気になる点] 110話も…
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