モアVSモスト
「いた!」
鏡の世界に飛び込んですぐ。
芽衣を追い掛け回している華奏を見つけた。
その妹の姿に、わたしは戦慄した。
華奏の顔に――表情が無かったのだ。
ただ、淡々と。
無表情に、無自覚に。
機械的に、無機質に。
ときたま温かく眩い光を放ちながら、芽衣の背中を追いかけていた。
その状況を見れば、華奏が芽衣を追い詰めているように見える。
でも、それは見かけだけ。
さっき華奏は、倒れていた。
華奏自身の体力は、とっくに限界を迎えているはず。
今はもう、京香の魔法で無理矢理に動かされているだけなのだ。
「華奏! 芽衣っ!」
芽衣もこちらに気付いたのだろう。
一瞬驚いたような視線を向けてくれたが、すぐに闇に紛れた。
華奏を傷つけないよう逃げに徹しているせいで、苦戦しているのが見て取れる。
それでも、芽衣は打ち消される闇を目くらましに使いながら、上手に華奏の攻撃を躱していた。
しかし、芽衣自身ももう限界が近いのだろう。
その顔は、明らかに疲弊している。
光魔法は、ほんの少しの魔力でも芽衣の闇を蝕んでいる。
光の槍が、芽衣の闇を次々と貫いて消していく。
芽衣の魔力は相当強いはずなのに、それでも光魔法は簡単に闇魔法を呑みこんでしまうようだった。
「ど、どうしよう……! どうすれば……!」
「落ち着くぽん、華蓮」
「モア!? 一緒に来てたの!?」
「ぼくもこっちに用があるんだぽん。それより……今、表では麻子が京香を抑えてくれている。麻子が勝てば、妹も鏡の呪縛から解放されるはず。ぼくらの仕事は、それまで何とか持ち堪えることだぽん」
「……!」
「華蓮は何とか芽衣を守りながら……って! 華蓮!?」
モアの話が終わる前に、わたしは華奏に向かって走り始めていた。
「ちょ、待つぽん!」
「待つのはあなたですよ……モア」
「……おっと。モスト、やっぱりこっちにいたぽんか。相変わらず、唐突に現れるやつだぽん」
「まさかここまでやって来るとは……甘く見すぎていたようですね。しかし、もう容赦はしない。あなたをこの鏡の世界に、永久に幽閉するまでは」
「ふん……もう本性を隠そうともしないってわけかぽん」
「その必要がないということですよ。この、鏡の世界でならね」
「ここで消してしまえば、何が起きても表ではわからないって? ま……丁度いいぽん。それはぼくにとっても好都合。モスト、お前の相手はぼくがするつもりだったから」
次の瞬間、モアはモストに飛び掛かった。
思いも寄らないモアの行動に、モストは全く反応できない。
そのままモストの首を掴んだかと思うと、階下に向かって放り投げた。
「ぐ!?」
三階から二階の床に叩きつけられたモストが、鈍い声を出す。
「がっ……な、何を……!?」
「モスト……そういえば、神官同士で本気で戦ったことなんて無いぽんね」
「モア……貴様……!」
「女神様の『表の顔』しか知らないような神官が……出過ぎた真似をするなってことだぽん。いい機会だ。この辺で……上下関係、ハッキリしておくかぽん」




