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魔法少女は闇が深い  作者: アリス
魔法少女は闇が深い ~樋本華蓮編~
105/201

モストの目論見④

「あ~~~~~……」


 麻子とモアが鏡の世界に閉じ込められてから、どれほどの時間が経過しただろうか。

 同じ空間に長時間滞在するということは、それだけで拷問に近い。

 独房にあった食糧は尽きかけ、麻子の気力も限界に近付いていた。


「麻子……大丈夫ぽんか?」

「大丈夫じゃないわよ……このままじゃまずいって」


 麻子はごろんと床にうつ伏せに寝転がると、呻くように言った。


「かれ~ん……何とかしなさ~い……」

「華蓮……今頃どうしているんだろうぽん」

「華蓮がそう簡単にやられるとは思えないんだけど。未だに何の動きもないってことは、ミラージュも動いてないってこと……?」

「いや、麻子がいないこの機会をミラージュが逃すはずはないと思うぽんが……」

「じゃあ何? まさか、やられちゃったってこと?」

「そ、それは……」

「…………華蓮!! 早く助けに来――い!」


「来ませんよ、あの人は」


「!?」


 頭上から突然聞こえてきた低い声に反応して、麻子は飛び起きた。


「モスト! あんた、よくのうのうと顔出せたわね!?」

「まだ元気そうですね? もうすっかり諦めていると思いましたが」

「んなわけないでしょ……早くここから出しなさいよ」

「そうはいきません。わたくしは、あなたたちを解放するために来たわけではありませんから」

「だったら何しに……」

「あなたたちも、外の様子が気になっていると思いましてね……御覧なさい」


 モストはそう言うと、麻子とモアの前に一枚の鏡を差し出した。

 しかし、普通の鏡ではない。

 そこに映ったのは、鏡を覗き込んだ麻子とモアではなく、ふたりの魔法少女だった。


「……!? 芽衣ちゃん……それに、華蓮も! まさかこれって……」

「そう、この鏡はあちら側の世界を映しています。今だと……ふたりとも、アストラルホールにいますね」

「アストラルホールに……?」

「これから、あのふたりは処刑されます。我々、ミラージュにね」

「……はあ!? 処刑!?」

「モストお前……ふざけるのもいいかげんに……!」


 モアはモストに詰め寄ろうとしたが、肩を震わせているその姿を見て立ち止まった。

 ――笑っていたのである。


「ふ……ふ、ふふ、ふふふふふふふふふふふ!」


 モストらしからぬ笑い声。

 その声は、長い時間を一緒に過ごしていたモアですら、聞いたことのない声だった。


「モ、モスト……? お前……」

「そう……!! それが見たかった! モア! お前の!! その顔が見たかったのです!!!」

「!?」


 突然大声を出したモストに、麻子もモアも一瞬呆気に取られてしまった。

 喜びを抑えきれない。そんな風に感情を爆発させたモストの顔は、これまでのような渋い紳士の装いから逸脱していた。


「わたくしの目的は! 初めからこれだけだった! モア! お前を追放して、貶めることだけがわたくしの目的だったのです!」

「ちょ……完全に目がイっちゃってるじゃん。モア、あんたこいつに何したの?」

「な、何もしていないぽん」

「だったら何でこんなに恨まれてるのよ。怒らせるようなことしたんじゃないの? わたしみたいに」

「え? 麻子、何か怒ってるぽん?」

「殴ろうと思ったことなら何回もあるんだけど」

「何言っているんだぽん、恩人のこのぼくに……」

「黙りなさい! 今はわたくしが話しているのです! モア! お前みたいないい加減なやつが……女神様の傍にいることが耐えられない! どうしてお前みたいなやつが神官の……っ!」


 何かを言いかけたモストだったが、咳払いをすると急に声のトーンを落とした。


「ふう……いけないいけない。わたくしとしたことが……つい興奮してしまいましたよ」


 モストは顔に手を当てると、静かに語り始めた。


「これで……あなたたちもお終いですね。わたくしは魔王を滅ぼした英雄となり、モア、お前は危険な魔王を野放しにした悪党として語られる」

「そんなこと……」

「どれだけあがいても無駄ですよ。そこでそのまま、何もできずに散っていきなさい。あのふたりが、京香殿に始末される無様な姿を見ながらね」

「待っ……!」


 モストは素早く飛び上がると、小さな歪みから消えて行った。


「あ、あいつ……! くっそおおお! 何とかならないぽん!?」

「…………………」

「何黙ってるぽん、麻子!? まさかこのまま、おとなしく引き下がるつもりじゃないぽんよね!?」

「……そっか……わかったよ、モア」

「……え?」

「モスト……あいつ、調子に乗りすぎたわね。やっぱりこの空間が不安定になる『乱れ』は、(あるじ)に原因があるんだ」

「……どういうことぽん?」」

「この鏡を見て。さっき、芽衣ちゃんが誰かに向かって黒い風を吹かせていた。躱されたみたいだけど……そのとき、この空間がほんの少し乱れたの」

「それが……どうしたぽん?」

「この鏡の世界を保つには、十分な魔力が必要なのよ。今、きっとふたりは鏡の魔法少女と対峙しようとしている。だから、芽衣ちゃんや華蓮が鏡の魔法少女を追い詰めることができれば……この空間から脱出できるかもしれない」

「!」

「鏡の魔法少女の様子をこっちからでも観測できるなら……この空間を打破することができる瞬間(チャンス)を、捉えることができるかも」

「そうか……! そうなれば、ぼくの瞬間移動で元の世界に戻れるかもしれないぽん!」


 麻子は、こくりと頷いた。


「そういうこと。あ、それから……」


 麻子は、黒い闇を手に纏って言った。


「……あの、モストとかいう神官は、やっちゃっていいよね?」


 麻子は、殺意に満ちた目を向けた。


「……いや、ダメだぽん」

「はあ? モア、あんたここまでコケにされて……」

「モストの相手はぼくがする。麻子は、鏡の魔法少女の相手を頼むぽん」


 モアは真剣な顔をしていた。


「……ああ……なるほどね」


 麻子は納得したように微かに笑うと、鏡に映った芽衣と華蓮に視線を向けた。


「頼んだわよ……華蓮、芽衣ちゃん」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 神官は優秀だと言うことでしたが、恐らくその中でも特に優秀そうなモアとモスト、どちらが強いのか。その辺も含め、モストの目論見に影響していそうで楽しみです。 [気になる点] そういえば何度も触…
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