モストの目論見②
麻子が女神城の独房で目を覚ましてから、数十分後。
モアが言っていたとおり、モストがふたりのもとに姿を現した。
「これはこれは……あなたが闇の魔法少女、黒瀬麻子殿ですね。お初にお目にかかり、光栄です」
「……随分丁寧なご挨拶ね。そんな感じなら、早くここから出してほしいんだけど」
「それはできません。あなたはわたくしたちにとって、危険すぎる存在ですから」
「危険……ね」
(こいつがモスト……本当にモアとよく似たやつがいるのね。髭と声のせいで、雰囲気は全然違うけど……嫌なやつだってことは、よくわかるわ)
モストは麻子とモアの顔を見比べると、満足そうに言った。
「モア殿……まさか本当に闇の魔法少女を捕らえてくるとは。感心しましたよ」
「ふん、本当にそう思っているんだか……とにかく、これで約束は果たしたぽん。モストの方こそ、光の魔法少女とはどうなっているんだぽん?」
「既に調べはついていますよ。やはり、わたくしの考えは間違っていなかった」
「! ……だったら、ぼくをその子のところへ連れて行くぽん」
「ええ。確かに、そういう話でしたね」
モストはふわりとモアと麻子から離れると、言った。
「モア殿には感謝しています。あなたのおかげで、魔王討伐のハードルは大きく下がった。そして同時に、わたくしの目的をも果たすことができる」
「……はあ? 何を言っているんだぽん」
「いえいえ、何でもありません。それでは、早速行くとしましょうか」
「煮え切らない態度ぽんね……光の魔法少女には、もう話を通しているのかぽん?」
「いえ、それがまだなのですよ。でも大丈夫です。あれなら十分、操れる」
「なんだ、まだ……ん? モスト、今お前何て言ったぽん?」
「あの光の魔法少女なら、十分操ることができると言ったのですよ」
「操る? お前、何を……」
モアが言葉を言い終わるとほぼ同時に、モストは言った。
「モア殿。あなたは……もう用済みなのです」
モストがパチンと指を鳴らした、その瞬間。
ぐにゃりと、空間が歪んだ。
次の瞬間。
モアと麻子は、歪んだ空間に呑み込まれた。
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「……ホントによかったの~? あのモアって子も一緒に呑み込んじゃったけど」
気だるそうな声を出しながら、モストの元に現れた少女。
ミラージュの盟主……鏡の魔法少女、紅京香である。
「ええ、もちろんです。闇の魔法少女には、監視が必要ですからね」
モストは、不敵に笑った。
「ふーん。でも、あの独房の鏡の世界を作ったから……監視なんか無くっても、あそこからは一生出れないと思うけど?」
「念には念を、ですよ。京香殿も、見張りがいた方が安心できるでしょう?」
「……ま、いっか。ウチもさすがに、鏡の洋館作りながら監視なんてできないし。んじゃ、モアには悪いけど頑張ってもらおっか~」
「ええ、問題ありません。彼は、働き者ですからね」
モストはそう言うと、誰もいなくなった独房を後にした。




