モアは頭を悩ませる④
「はあ!? どういうことだぽん!?」
氷の魔法少女との接触を棚上げにしてから数日後。
モアは、またしても女神城で声を荒げていた。
「光の魔法少女らしき魔力が観測されたって……この情報、デマじゃないぽん!?」
モアは、光の魔法少女が誕生した原因が自分にあることを知らなかった。
肝心な時に麻子の頭の上でぐっすり眠っていたのだから、当然である。
(これが本当だとしたら……まずいことになったぽん。万が一、光の魔法少女と雪女がふたりともモストにつくようなことがあったら……流石に分が悪い。せめて、どちらかひとりなら……)
「光の魔法少女の誕生……どうやら、神は我々の味方のようですね」
「! モ、モスト……!」
気が付くと、モアのすぐ背後にモストが腕を組んで座っていた。
「モア……あなたの考えていることは手に取るようにわかります。確かに、魔王とその脇を固めるふたりの魔法少女は恐るべき強さでしょう。あの三人を相手にしながら魔王を討伐することは、正直不可能だと思っていました。しかし……今は違う」
モストは、得意気に続けた。
「光の魔法少女に、歴代最強の魔法少女……これは、今こそ魔王を討伐せよという、神の思し召しに他ならない」
「……う」
「光の魔法少女は、わたくしには目星が付いています。戦いが始まるのも、そう遠い話ではないでしょう」
「な……!? モスト、お前光の魔法少女が誰なのか知っているのかぽん!?」
「ええ……間抜けな誰かさんのおかげでね。確信があるわけではありませんが」
モアはたくわえた髭を触りながら言った。
「いいですか。状況は、劇的に変わったのですよ。そのふたりを取り込むことができれば……魔王とその取り巻きを、完全に屈服させることができるのですから」
「……っ……雪女は……お前も手が出せないんじゃないのかぽん?」
「ほう? どうしてそう思うのです?」
「そ、それは……」
「ははあ……さては、彼女の家まで行ったのですね? 確かに、彼女は一筋縄ではいきません。我々が手を焼いているのも事実です。ですが、あの子を味方につける手が無いわけではない。こちらには、面白い情報も入ってきていますからね」
「面白い情報……? ……モスト、お前……何か、良からぬことを企んでいるんじゃないかぽん?」
「わたくしのやり方は、一貫していますよ。アストラルホールのために最善を尽くす。ただ、それだけです」
「……その極端なやり方が、人間に不要な被害を与えているんじゃないのかぽん」
「そんなことを気にするのですか? そもそも……人間がどうなろうと、わたくしたちには何の関係もない話でしょう」
モストは呆れたように溜息をついた。
(……どうする? モストの言ってることはただのハッタリではないはずだぽん。このままじゃ、本当に芽衣たちの身が危ない。いっそ、芽衣たちにすべて知らせて先にこいつらを……いや)
モアは首を横に振った。
(いや……それはできない。魔獣が動き始めたことで、魔王を討伐すべきだという声は大きくなっているぽん。そんなときに、芽衣たちが自らアストラルホールの神官や他の魔法少女に手を出したら……さすがに庇いきれない。そうなったら、芽衣は一生アストラルホールの呪縛に囚われる。もう二度と普通の人生を送れなくなるぽん)
モアはしばらく考えると、重い口を開いた。
「……モスト。その、光の魔法少女っていうのは誰なんだぽん?」
「はは、モア殿に教えるわけがないでしょう。あなたは、我々に賛同していないのですから」
「……いや、そうでもないぽん」
「……はい?」
「ここで光の魔法少女が現れたのは、偶然ではない……確かに、そう思うぽん。ぼくもようやく、魔王の危険度を感じ始めたところだぽん」
当然、これはモアの本心ではない。
しかし、モアは本音を押し殺して言った。
「ほう……では、モア殿も我々に賛同すると?」
「……ああ。だから、ぼくを光の魔法少女のところに連れて行くぽん」
「だったら、その証拠を見せてください」
「……証拠?」
「あなたが我々に賛同するという、証拠です。黒瀬麻子――あの厄介な闇の魔法少女をあなたが捕らえることができれば、我々『ミラージュ』はあなたのことを歓迎しますよ」
「そんなこと……」
できるわけがない――そう言いかけて、モアは止まった。
これは、チャンスかもしれない。
そう思ったからである。
もし今、麻子を捕らえたらどうなるか……もしかしたらモストたちは、光の魔法少女ひとりでも十分と判断し、戦いを始めるかもしれない。
すなわち、光の魔法少女と雪女を同時に相手するという、最悪のシナリオを回避できるかもしれないのだ。
どちらかひとりだけなら、あの三人が揃って負けることはない。
麻子を捕らえたフリをして、もし戦いが始まったら加勢すればよい。
あとはそのときまでに、魔獣が暴れている原因さえ突き止めることさえできれば……さすがのモストも、これ以上好き勝手はできないはずだ。
「……わかったぽん」
「はい? わかった? 今、わかったと言いましたか?」
「聞こえなかったか? そう言ったんだぽん」
モアの言葉を聞いたモストは、にやりと不気味な笑みを浮かべた。
「それは、我々の味方になると……あの魔王を討伐することに同意すると、そういうことでいいんですね?」
「そうだぽん。だから……麻子を捕らえてきたら、まずは光の魔法少女について教えろぽん」
「いいでしょう。本当にそれができたら……の話ですがね」
モストはそう言うと、高笑いしながら姿を消した。
(モスト……お前の思いどおりになると思うなよ)




