モアは頭を悩ませる③
「あの家は、氷魔法で守られている……誰も近付くことのできない、鉄壁の魔法。だとしたら……手を出せないのはモストのやつも同じだったりするのかぽん? だとしたら、ただの杞憂……?」
「……何ぼそぼそ独りごと言ってるんですか、モア?」
「あ、いや……何でもないぽん、芽衣」
芽衣に話しかけられたモアは、はっと顔を上げた。
魔王となった芽衣のお目付け役を担っているモアは、女神城と芽衣の家を往復する日々を送っている。
しかし、雪女が誕生してからは、モアが芽衣の家を空ける時間が日に日に長くなっていた。
「モア……最近、やたらいなくなる日が増えましたよね。それになんだか、疲れているように見えますし。一体、どこで何をしているんですか?」
「いや、何でもないぽん。芽衣は気にしないで大丈夫ぽんよ」
「そうですか……? さっきも欠伸ばっかりしてましたし、碌に寝てないんじゃ?」
「そ、それは……」
モアは一瞬言葉に詰まったが、床に落ちていた芽衣のゲームソフトを拾い上げると言った。
「……それは、積みゲーを消化するのに忙しいからだぽん。ようやくこれをクリアしたところで……」
「あ、それクリアしたんですね!? それじゃ次はこれ! このゲーム、続編が出てるんですから!」
モアが言葉を言い終える前に、芽衣は目を輝かせながらモアの頬っぺたにゲームソフトを押し付けた。
「いやーこのゲームはほんとストーリーが神なんですよね。絶対泣けますよ。このゲームプレイしてない人は、己の人生悔い改めろって感じです。続編では主人公が変わるんですけど、ちゃんと前作の主人公も絡んできて……」
お気に入りのゲームの設定や登場人物を熱い口調で語る芽衣は、楽しそうであった。
「わかった、わかったぽん。全く、芽衣のゲーム好きっぷりには感服するぽん……ま、確かに人間がつくるゲームは面白いから夢中になるのもわかるけどぽん」
モアは芽衣の横に座ると、小さい手で器用にコントローラーを操作し始めた。
(ふぁ……眠いけど、実際芽衣が勧めてくるゲームは面白いからついついやっちゃうんだぽん。続きも気になるし。ま……一旦雪女のことは……様子見で良いのかもしれないぽん……)
しかし、後日。
モアの悩みの種は尽きなかった。
新たな問題が発生したからである。
それが、モアが麻子たちと一緒に華蓮の家を訪れたときに発生した問題……すなわち、光の魔法少女・華奏の誕生である。
このときモアは、疲労のせいでぐっすり眠ってしまっていた。
だから、自分が原因で光の魔法少女が誕生したことに気が付かなかった。
それが、新たな火種を生むことになる。