プロローグ
俺は知人の呪術師の呼び出しによって、大陸最大の砂漠にやってきていた。
その地では、大地には亀裂が発生し、その隙間からは膨大な魔力が漏れ出ていた。その量は圧倒的で、本来なら視覚に捉えることができないはずの魔力が、勝手に事象へと変換されて発光が起こっていた。
下手なことをすれば辺り一帯が吹き飛んでもおかしくはない状態だ。
魔術に疎い者でも何かしらの異常が起こってると気づく事ができるだろう。
「これはいつからこんなことに?」
「わからない、このあたりには人が住んでいないから。ただ私がこれを発見したのはつい最近だ」
「はぁ」
しかし、こんな現象が自然に起こったとはおもえない。あくまで勘だが、発現している現象からなんとなく人為的な雰囲気を感じる。なぜならどこかしらへの空間接続と魔力の転送が行われているのを感じ取ることができるからだ。
「異なる世界からの干渉か? ちょっと詳しく調べてみんことにはわからないが」
「ふーん、大魔術師たる君でもひと目見たでけではわからないか。これはひょっとするとより高度な魔術が発達している世界からの干渉かもしれないよ? 普段ならどんな魔術式でもあっという間に理解してしまう君がわからないなんて、それこそこの世界には他に理解できる者なんていないんじゃないか?」
「いや、そういうことではない」
「ふぅん?」
いや、これはどうなってるんだ?この魔術はおそらく空間系の術式だと思われるが……
「なにをしたいのかさっぱりわからない。おそらくこれは複数の世界を接続して魔力の多い世界から少ない世界へ移動させることが目的だと思われるが……いやでもそれだとこの記述は不要なはずだ。いや待てよそもそもこの部分機能してないぞ、これだと魔力を空費して終わるはずなんだが……」
「どういうこと?」
「つまり、あまり魔術に理解のある者が書いたとは思えない術式なんだ。なんか適当にやったら運良く現象が発生しただけ、みたいな印象を受ける」
「それにしては大した魔力に思うけど」
「そもそも魔力を大量に感知できる時点でおかしいんだ。魔術ってのは魔力を使って現象を引き起こすものだから、高度な魔術であればあるほど行使後に魔力痕跡は残らないものだ」
「ふーん、でもさっきこの術式は魔力を移動させるものだと言っていたじゃないか。じゃあ成功じゃないのか? 向こうから魔力が入ってきているってことだろう?」
彼女は魔術師ではなく呪術師だからそのあたりはあんまりわからないのか。
「いや、魔術式を見ればわかるけどこっちの世界から魔力を吸い出したいみたいなんだよな。なのに制御部分がうまくいってなくて逆流してるんだ」
「ふーん」
「しかし、これはあまり良くないな。このペースだと向こうの世界の魔力が枯渇してしまう恐れもある」
「じゃあちょっと直してみるよ」
「は?」
そう言うと彼女は亀裂の方へ歩いていくと手をかざした。その後、なにかしらの呪術が発生した。
「魔力が向こうに流れるように呪術をかけといたよ」
「……は?」
何してくれちゃってんの?
繊細な構築が必須な魔術の上に大雑把に呪術をかけたりしたら……
この膨大な魔力が吹き荒れる中では些細な術式のほころびから大事故が起こりかねない。
「いやいや、こういうのはもっと慎重にやれよ。おまえは昔から慎重さに欠けるんだよ」
「え〜でも多分大丈夫だって」
「とりあえず解除しろ。解除」
「いや〜」
彼女は少し馬鹿にしたような顔をした。
「一度かけた呪術は魔術と違って簡単には解除できないんだよ?」
大きな地響きが鳴っているのが聞こえた。
直後、視界が真っ白に染まる。
痛みを感じるまもなく巨大な爆発に巻き込まれて死んだ。