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大ケガしたり心が病んでしまった同級生もいたが、因果応報。
自分の行いが、自分に跳ね返ってきただけ。
まぁ少しやり過ぎな気もするが・・・・
気にしないことにしよう。そうしよう。
「奈々のイタズラは怖そうだね」
「お、興味ある?
私のイタズラは怖面白いよ~」
そう言って、奈々が悠斗を襲おうと、おどける仕草をする。
茶目っ気があって可愛い。
現実世界で同級生たちを酷い目に遭わせたことなど忘れてしまいそうな程に。
「色々披露してあげたいんだけどねー残念!
見てよ、ほら。そろそろ街に着いちゃうからさ」
延々と続く大草原にようやく終わりが見え、街が姿を現した。
西洋の城下町を思わせる造りの街だ。
その大きさは、悠斗が生まれ育った九州にある能古島という島と同じくらいか。
要するに小さいのだ。
人口は数万人程度だろう。
街は石造りの城壁に囲われているが、その高さは人が肩車をすれば届きそうに低い。
「お楽しみはまた今度ね。
悠斗もここの街がどんなふうか気になるでしょ?」
確かに大いに興味がある。
現実世界と異世界の街にどんな違いがあるのか。
「案内してあげるから早く行こう」
奈々はそう言うと、悠斗の手を取って歩を速める。
悠斗も抑えきれない興奮を胸に、街に向かって歩き出した。
その街の名はルファースという。
ユートピアでも弱小に分類される街だ。
ユートピアに点在する街は国家に従属しているところもあれば、独立を保っているところもある。
ルファースはケンプルネ皇国という国に従属していた。
従属するということは、独立を保つ力がないことを意味する。
強力なモンスターや周辺国家に街が襲われたとき、独力では対処ができないからだ。
堅固な城壁も屈強な精兵もいないルファースには、皇国から常設兵が派遣されている。
大きな脅威から街を守ってもらう代わりに、この街は少なくない上納金を皇国に納めてきた。
しかし、3年前にその状況が一変する。
本当はずっと燻っていた火種が燃え上がっただけだが。
そのことを理解しているのはルファースの一部でしかないことも問題だった。
街の中腹に聳え立つ塔の中に造られた豪奢な部屋で、領主のレンス=ギルバートは溜息をつく。
視界から見える大草原には涼やかな風が流れているが、それを眺めるレンスの胸中は暗い。
ルファースという街はいま、今後の見通しが全く読めない状況になっている。
きっかけは一人の少女。
見た目は儚げで可愛らしいのに、その本性は誰も制御できないじゃじゃ馬だ。
領主のレンスですらも抑えることはできない。
ただ、彼女が昔亡くした娘のように思えてしまうレンスはついつい甘やかしてしまう。
彼女の要望を聞くことにもそれほど抵抗は感じない。
愛娘に振り回される父親のように、困ることはあっても嫌いになるなんてありえないだろう。
だが、ルファースで強い権力を持つ貴族連中にとってはそうではない。
レンスは貴族連中が抱く彼女への不平不満を何度聞いたことか。
彼女の要望はときに貴族階級に大きな不利益をもたらす。
そのことが彼らの怒りを買うのである。
彼らは様々な手を使い、彼女を排除しようとしている。
彼女がいなくなれば、より大きな問題で頭を抱えることになるのは明らかなのに。
結局、貴族というものは自分の権力だけが大事で、それ以外はどうでもいいのだろう。
うんざりする。
しかし、レンスは街を平穏に統治するために貴族連中を無下にできない。
どうにもならない悩みで胃はキリキリするが、最近はそれにも慣れた。
飲む薬の量は日増しに増えている気がするが。
レンスが暗い胸中で街並みを見下ろしていると、街を流れる風の雰囲気が変わるのを感じた。
風魔法の上級使い手で領主としての固有スキルを持つレンスは、風が運ぶ空気の流れで生き物の動き、人々の喧騒などを知ることができた。
特に力を持つ人物や魔物の動きなどはすぐに察知できる。
この空気は・・・あのじゃじゃ馬が帰ってきたか。
椅子から立ち上がろうとしたとき、いつもと空気が違うことに気付いた。
いつになく明るい穏やかな雰囲気を感じる・・・
誰かと会話を楽しんでいる?
あのじゃじゃ馬が?
それにこれは・・・幸福感!!
信じられない。
傍若無人。
傲岸不遜。
そんな言葉が似合う少女。
最近は反抗期を迎えた年頃の娘のように、レンスに対する扱いは酷かった。
顔を見れば悪態をつき、舌打ちをする。
会話することも嫌そうで笑顔を見せることなどない。
要望は常に上からだ。
あの少女が。
レンスは大いに興味が湧いた。
一体何が起これば、あの少女をそんな気持ちにできるのか。
胃の痛みも忘れ、レンスは部屋を飛び出した。