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俺はどうなるのだろう。
そんな疑問が今、俺の胸にある。
さっきまで俺は九州屈指の繁華街にいた。
眩暈がして目を閉じてしまい、そして目を開けたとき景色は一変していた。
周囲は見渡す限りの大草原。
遠くには山がかすんで見えている。
先ほどまで周囲を忙しそうに歩いていた人たちは誰もいない。
その代わりに10m先に一匹の狼のような化け物がいて、こちらを睨んでいた。
いや、あれは睨んでいるんじゃない。
おいしそうな餌を見つけて舌なめずりをしているだけのようだ。
その狼のような化け物の禍々しい口元から涎がぼたぼたと落ちている。
黒い毛並は荒々しくささくれ、血走った眼はらんらんと輝き、獰猛に生えた牙はこれまで引き裂いてきた獲物の怨念がこびりついているかのように薄汚れている。
やばい。
なんだこれ。
終わった。
諦めの感情はすぐに訪れた。
わずか15年生きただけの短い人生だったなぁ。
人生が終わるときって、こんなにあっけないものか。
そんな思いと同時に、やっと解放されるという救いの感情も生まれた。
なぜなら神山悠斗は自分が生きている世界が嫌で嫌で仕方なかったからだ。
運動も学力も人並み以下の悠斗は、以前からいじめを受けていた。
学校でいじめっ子たちに馬鹿にされる日々。
陰口をたたかれたり、靴を隠されるのはいつものこと。
給食に変なものを入れられたり、ノートに死ねと書かれたりすることもあった。
それは辛さ以外に表現することができないものだった。
だが、あるときいじめっ子たちは不運としか言えないような目に遭う。
誰も乗っていない車にはねられた子。
幻聴に悩まされ病んでしまった子。
泳ぎが得意なのに水泳の授業中に溺れかけた子。
彼は誰かに足を引っ張られたと主張したが、そのとき彼の回りには誰もいなかった。
そんなことがあってから、悠斗は呪われた子、悪霊がついた子だと言われるようになった。
彼をいじめていた子たちが皆酷い目にあっていたから、それも仕方ないことだといえた。
そして、幼稚園のときに悠斗の幼馴染みの女の子が彼の目の前で交通事故に遭って死んだらしいという噂が学校で広まってからは、悠斗を見る同級生の目はさらに酷くなった。
恐怖、畏怖。
できるだけ関わりたくないと皆が距離をとった。
呪いは本物だと思ったのだろう。
いじめはなくなった。
だけど、友達もいなくなった。
いつも一人ぼっち。
学校に楽しいことなどない。
唯一の例外は家に帰ったときだけ。
世界でただ一人、悠斗に優しくしてくれる母親といるときだけが悠斗の癒される時間だった。
幼馴染みが死んだ交通事故がきっかけで両親は離婚し、母親が悠斗を引き取っていた。
それから母と二人で頑張って生きてきたのだ。
その状況が最近変わる。
母親に再婚相手ができたことを知ったからだ。
それ自体は祝福すべきことだと思った。
母親が悠斗以外にも大切な人ができたことは寂しい。
でもそれは仕方のないことだ。
応援しなければ。
そう思おうとした。
だが理性と感情は全く違う。
祝福すべきだという理性に反発するように。
俺なんてどうでもいいんだ!という怒りの感情が生まれた。
そして、その感情を母親にぶつけるようになった。
抑えきれない怒りをぶつけ、悲しむ母親を見るたびにますます自分が嫌になっていく。
そうして悠斗は、自分も、そして自分が生きている世界も嫌になった。