6. 砂の国の冒険者
後半に別キャラ視点です。
「あああああああああああっ」
私はどうなった?
ゆーちゃんはどうなった!?
あまりの熱さと痛さで思考がまとまらない!!
「はっ、はっ、はっ、はっ」
短く荒い息を繰り返しながら、熱さから逃れようと身をよじり、砂の上を転がり続ける。
暑い、熱い、あつい!!
私は暴れながら砂を掘り続けた、熱に曝されている地表部分と違って、下の方は熱くないと、何かで読んだ記憶があるからだ。
だが一向に熱さは無くならず剥き出しの肌は生々しい傷に侵されていく。
ズーーーーン……
何か大きな音がした……?
ああ、そうだ、大きなワームがいたんだ……
ワーム、ワーム、ワーム……
「ああああああああっ!!」
私は掘るのをやめて、ばたばたと砂の上を走り出す。
ぼやけた視界に見える、巨大なワーム!
ワームはバスを飲み込み切り、地中に潜ろうとしていた。
「待てええええええええええ!!」
ありったけの声で叫び、ワームに手を伸ばしながらひたすら走る。
待て、待て、行くな、行くんじゃない、待って!!
足がもつれ、砂の上に転ぶ。
立っては転び、立ってはまた転びを繰り返して無様に走り続けた。
待って、ゆーちゃんを連れて行かないで……!
声にならない私の願いも虚しく、巨大なワームはその姿を砂の中に消した。
「……」
私は、その場に膝をついて、俯いた。
動かない私を容赦なく太陽が照り付ける。
じりじりと肌が焼ける……
なんで、こんな事になったんだろう……
もう動く体力も残っていない私を、サソリ達が取り囲みだした。
『シャアアア……』
サソリ達は、最後の獲物である私を誰がどう食べるのかで争っているのだろうか、喧嘩を始めだした。
だが最も巨大な体躯のサソリが悠々と前に出て、その大きなハサミをゆったりと持ち上げた。
そんなサソリの姿を、私はうっすら開いた瞳で見つめ……
(……これで、ゆーちゃんのところに……)
私を殺傷するには十分な威力のハサミが、振り下ろされる。
だが、覚悟した衝撃は、待てど待てども来なかった。
『シャアアア!?』
サソリの呻き声に、私は少し顔を上げる。ハッと見開いた私の目に映ったのは、苦しむサソリの姿。
なんと巨大な鉄の杭がサソリの胴体に突き刺さっていたのだ。
それを見た他のサソリ達は散り散りになって遁走するが、どこからか飛来した鉄の杭が次々と串刺しにしていく。
『無事か、あんた』
誰かが砂を蹴って私の真横に滑り込んで来た。
私はその声になんとか答えようとしたのだが、口が震えてうまく喋れない。
『ああ、喋らなくていい。………これは酷いな、待ってろ、今助けてやる』
その声はくぐもった声をしており非常に聞こえにくいが、私を助けようとしてくれているのは分かった。
声の主は私を抱き抱えると、凄まじい速さで砂の上を駆け出した。
……助かった。
そう安堵した私は、……すぐに自身に嫌悪した。自分の心の弱さを突きつけられたようなものだ。
だがその事を長く考えているような余裕は今の私には無かった。私はすでに意識を保っているのも限界だったのだ。
そこから一切の感覚を手放すのに、さして時間はかからなかった。
◇
~???視点~
「アニキ、あれ見てくだせえ!」
「な、なんだありゃあ!?」
「おいおいマジかよ奇跡だぜこいつは!」
俺の前をサンドボードで疾走する冒険者が遠くを指差して騒いでいる。
俺は彼らが倒したモンスターの素材を拾っていたので気付くのが遅れたのだ。
『なにかあったのか?』
「おう、ジェイド。あれ見てみろよ」
俺はゴーグルの拡大倍率をカチカチと回す。
ザンゴスが騒ぐっていうなら、よほどの事だろう。このザンゴスは砂の国でも名の売れた冒険者だ。滅多な事で驚くはずもない。
さて、一体何が……
む、あれは、ワーム、か……?
『ザンゴス、なんだあのデカブツは』
「ありゃあ、伝説の超巨大ワームだぜ」
『伝説って?』
「この砂漠地帯に一匹だけいるって伝説だったワームだ。 なんでも、100年に一回だけ食事の為に起きるらしいぜ」
『100年に一回か、生きててもつまらなそうだな、……仕留めるのか?』
「馬鹿言え、無理に決まってんだろ」
「アニキ、奴さん見たこともねえでっけえ鉄の塊を飲んでやすぜ!」
「ふん……こりゃ聖女が何か喚んだか」
このザンゴスという男は知性のなさそうな見た目に反して、ここの王宮のかなり深い情報にまで通じている。
とはいえ、聞いてもはぐらかされるだけだが……
『聖女が喚んだ?』
「おっと、口が滑っちまったな。すまんな忘れろ」
『……あのワームの近くにスニークピオンの群れもいるが、どうする?』
「君子、危うきに近付かずって言ってな。今日はもうお開きだぜ」
『なんだそれは、どこの国の言葉だ』
「さあて、どこだったか……? おい! お前ら! 撤収準備!!」
「「了解アニキ!!」」
ザンゴスが撤収の準備に入ったので、俺も撤収しようとゴーグルの倍率を元に戻し始めた。だが、一瞬何か走っている影が見えたので、手を止め、目を細める。
あれは……? ……人だ!
『ザンゴス、人がいる』
「へぇ、じゃあ今度あのあたりを洗っといてくれよジェイド」
『いや、助けないのか?』
「笑かすなよ」
「助けないといけないような役立たず連れて帰ってもまた砂洗いの数が増えるだけッすよ! ね、アニキ!」
「その通り。弱者は結局死体になるだけだぜぇ」
まあ、わかってて言った俺も俺だが……
『見殺しにするのは気が引けるんでな……俺は行って来る』
「ジェイド……お前は良い奴だなぁ、だが、1つだけ忠告しておいてやる。
その感情は、後々お前を殺す事になるぜ」
『……そうか』
俺はサンドボードの燃料を確認する。
よし、まだ十分ある。これなら1人ぶん重くなっても帰れるだろう。
ヴィイイイイッ
サンドボードが砂を吐き出して疾走する。
俺は速度を最大にして、さっき見えた人影のところへと向かう。
見えた人影は大量のスニークピオンに囲まれていた。
遅かったか……?
俺はすぐに腰のサポートベルトに装着しているサンドシューターのセーフティを外し、バンカーをセットする。
トリガーを握り、一番巨大なピオンに狙いを定めて打ち込んだ。
『バンカー……シュート!!』
狙い通りにピオンを一掃した俺は、人影(女だったか……)の前に滑り込む。
『無事か、あんた』
俺の声に少し反応したが、これは、酷いな。身体中傷だらけ、血だらけで、火傷も酷い。よく意識を保っているものだと感心する。
とにかく、はやく手当てしてやらないとな。
俺は女を抱き抱え、再びサンドボードを加速させた。
……途中、気が付いたら腕の中で気を失ったようだ。ずり落ちそうになるのを抱え直すが、……この女、スカートが短かすぎないか?
よくよく観察すると、よくもこんな服装でこの砂漠にいたものだと、信じられない気持ちになった。
娼婦、なのだろうか?
まだ子供に見えるが……
まあ、俺が気にする事じゃないか。
そんな事よりも、この状況、戻ったらザンゴスにからかわれそうな気がする。
『たしかに、面倒な事になったかもしれないな、これは』




