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3. ワーム

 ゆーちゃんとここから逃げる。


 そう決めた私は迷わず窓の鍵に手をかける―――が


「熱っ!!」


 高温にさらされ続けた鍵は、もはや素手で触れるような温度ではなかった!


『シャアアア!!』


 私の小さな悲鳴に気付いたサソリが一匹、こっちへ向かって駆け出して来る!


「このっ! こっちに来るな!!」


 ゆーちゃんはそう叫ぶと手にした携帯電話をサソリにぶん投げた!

 当然このサソリにそんな攻撃など通じないだろうが、見慣れぬ物体にサソリは一応の警戒をし、素早く回避する。


 私が熱さに手を押さえている間に、他のクラスメイト達も窓から脱出しようと鍵に手を伸ばしていた。


「熱ッ!!でも、こんなもの!!」


 クラスメイトの何人かは火傷などおかまいなしに窓を開けて、外に脱出し始めた!


 ザクッ ザクッ


 砂の上に着地し、一瞬は安堵するクラスメイトだったが砂の温度はバス内の温度など軽く越えており、靴から直に熱が伝わって来る。


「あつっ、あつっ!!」


 砂の上をピョンピョン跳んで隙だらけのクラスメイトを、当然サソリが見逃すはずもなく、次々と餌食となっていった。


「うわああっ、やめてく……げぁっ!」

「ちくしょう!!なんだってこんなことに……ぎゃっ!!」

「いやああああ!!助け……!がはっ」


 私は、断末魔の声を耳にし、身体が芯から冷たくなるのを感じた。

 だが、カタカタと震える手を、ぎゅっと握り締める。


(ゆーちゃん、ゆーちゃんの為に……!)


 私は袖を使って熱を遮断し、窓を開ける事に成功した!


「よし、ゆーちゃん、行こう!」


「うん!」


 私はゆーちゃんに声を掛け、さあ窓から出ようとした、その時――――――


 サソリ達の動きがピタリと止まり、落ち着きなくキョロキョロと周囲を見渡し始めた。


「一体、どうしたんだ……?」


 全身傷だらけの級長は、かばんで押さえつけていたサソリが急に挙動不審になったのを怪しんで後ずさった。


「ちーちゃん、なんかサソリが止まったよ!?」


「う、うん……」


(こういうパターンの時って、大抵、さらに強いのが来るんじゃ……)



 ズゴゴゴゴゴゴゴ…………



 突然。

 クラスメイト達が助かったのか? と、楽観視しかけた瞬間、バスが軽く揺れだした。

 それに併せて、サソリ達はさらに挙動がおかしくなって行く。


 揺れは、次第に大きくなっていき――――


『シャアアアアア!!』


 一番大きな黒サソリは大きく悲鳴を上げ、バスの窓から逃げ出した!


「サソリが……!」


 他のサソリ達もそれに続いて外に飛び出し、振り返る事なくバスから離れて行く。

 その動きを見た級長は、過呼吸のように荒い息をしだした。


「いやいやいや!! こんなの、絶対やばいやつじゃないか……!!」


 級長はそう言うと大声で叫ぶ。


「僕たちも早くバスから出よう!!」


 だが、その叫びは時既に遅く、バスの前方がガクンッと沈んだと思った瞬間、バスは垂直に持ち上がった!!


「うわああああああっ!?」


 サソリの攻撃から生き残ったわずか数名のクラスメイト達だったが、その運命はとても残酷で。

 級長を含め、彼らは重力に逆らえず、そのままバスのフロントガラスまでまっ逆さまに落ちて行った。

 もちろんそれは私達も例外でなく……


「ゆーーーーッ!!」


 ガシッ!


 奇跡!

 私はバスに座っていたので椅子に掴まり落ちなかったのだ!

 ゆーちゃんをなんとか支える私だが、私の握力では……厳しい!


 そのゆーちゃんだが、バスのフロントガラスを見て、恐怖に怯えた表情になる。


「あ、あれ……何……? くちなの……?」


 くち……? 私もフロントガラスに目を向ける

 そこには大量に生えた歯とグロテスクな肉がぐにょぐにょと動いていた!

 バスはそいつの中にどんどん入っていく!!


「あ、あはは……」


 それを見ていたゆーちゃんは笑った。


「ゆーちゃん……?」


「これはもう、どうしようも、ないねぇ……」


「……そう、だね」


「いやあ、参ったよ……折角の、楽しい修学旅行だったのに……」


 ブンッ!!


「きゃっ!」


 バスを飲み込もうとするその巨大な口は、自身の体を大きく振った!!


 右に、左に、バスを咥えた口を振る!


 バスに付いた砂でも振り落としているのだろうか?


 まあ、そんなの、どうでもいいか……


 私はゆーちゃんを支えきれなくなり、飛ばされて落下する彼女がフロントガラスに叩き付けられるのをコマ送りのように見ていた。


 私は、運がいいのか、悪いのか?


 巨大な口が左右にバスを振った拍子に、私の体は開いていた窓にぶつかり、勢いそのままに投げ出されたのだ。


 バスの外、空から見たその巨大な口の正体は……


「……ワーム……」


 あれは、ゲームや映画でよく見るモンスターだ……


「……ゆーちゃん……」


 そう呟くと同時に、私の体は強い衝撃を受けた。

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