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2. サソリ

 光に包まれたと思ったら、アスファルトの上を走っていたはずのバスは、砂漠の上にいた。


 そんなありえない状況に静まり返るバスの中……


 みんなは次第に自分に起こった事を理解し、そのうちに男子の誰かが叫び声を上げた。


「ーーーうおおおおおおお!!」


 それに続けて幾人もの生徒が叫び出す。


「キターーーーーー!!」

「やべっ、これって、異世界転生って奴!?」

「いやいや、俺達死んでねえよ!」

「召喚されたってやつじゃね……!?」

「マジ!? じゃあここ王様いるのか!? 姫様はどこだ!?」


 一気に騒ぎ出したクラスメイト達。


 なにせ、知っていたならば一度は考える異世界に行く自分。

 そんな事態に直面して、冷静でいられる人なんていないよね……


「ちーちゃん、ちーちゃん!!」


 周囲の喧騒に声を書き消されながらも、私をゆさゆさと揺さぶる幼馴染みを見る。


「異世界って何!? ここどこ!?」


 ……流石に異世界的な作品が広まったとはいえ、知らない者も幼馴染みを含め、数人いるようで、そういった人は周囲の大騒ぎに困惑しているようだ。


 でもそんな事より……暑いんだけど。


「みんな、一旦静かにしよう!」


 よく通る大きな声でみんなの視線を集めたのは級長の志賀野(しがの)(ひじり)だった。

 注目を集めた彼はメガネのフレームをくいっと上げて、クラスメイト達に今の状況を説明し出す。


「みんな、混乱しているのは分かるけど、冷静に周囲の状況を見てくれ。ここは、砂漠のど真ん中なんだ」


 みんなは再び周囲を見渡す。


「それで……問題なのは、バスが動かない以上、ここから移動するには外に出て歩かなきゃいけないって事なんだ……先生、バスは動きそうですか?」


 先生は前の席で運転手とずっと話込んでいたようで、級長の言葉にこちらを振り返って喋りだす。


「バスは、無理だな。何故かガソリンが空になってるし、窓から見た感じ、車体の下半分くらい砂に埋もれちまっている…… 仮にガソリンがあっても動かしようがない」


 先生の言葉にクラスメイト達は今の状況が大変危険であると理解したようだ。


「ちょ……! クーラーも効かないこんな車内にいたら……!!」

「だんだん熱さがこもってきてるんスけど……!?」

「とりまカーテンは閉めようず」

「ステータス!!……だめかぁ……」

「王様、早く来てーー!!」

「暑いよーーー!!」


 再びバスは騒ぎに包まれる。


「だから、みんな静かにーーー」


 ガンッ!!


「ーーーし、て……?」


 バスを強く叩くような音に黙りこむ級長と、騒いでいたクラスメイト達。

 私達全員が、音のした方に顔を向けた。


 ……え? 窓にヒビが……


 その割れた窓の近くに座っていた男子生徒は、窓に顔を寄せチラリと下を覗き込んだ。


「うわああっ!!」


 ガタタッ


 悲鳴と共に、席からずり落ちた生徒は震える指先を外に向けてーー


「さ、さそりが……」


「……サソリ?」


「なんかでっかいサソリがこの下にうじゃうじゃいるよぉーーー!!」


「!?」


 クラスメイト全員が男子生徒の指差す窓際に押し寄せ、下を覗き込んだ。


 男子生徒が言うように、黒い大きなサソリが大量にバスの下に集まって来ていた!!


 私はクラスメイト達にドンッと押し出され、よろよろとふらついて、たたらを踏む。


「……大丈夫か?」


 そう言って私の顔を心配そうに覗き込んで来たのは級長だった。


「……なんとか」


 短くそう答え、私はずっと座ったまま動かないゆーちゃんの隣に戻る。


 そしてふと、ここからも窓の下を見た。


 ……こちらにはサソリはいないようだ……


「みんな、あまり声をださない方がいいと思う!!」


 級長は注意したが最早そんな言葉ではクラスメイト達は止まらなかった。


「気持ち悪いぃぃーーー!!」

「黒い!! 黒い!!」

「……これ、やべえやつじゃん?」

「ええい、ステータス!! ……くっそおおお!! やっぱ何も出ないっ!!」

「やば、暑すぎてクラクラしてきたわ……」


 そんな騒ぐクラスメイト達にサソリが気付いた。

 バスを攻撃していたサソリは、クラスメイト達の姿に警戒し、じりじり後ずさって行く。


「近寄ってこないぞ……」

「無血開城か」

「いや、それ立場的に逆じゃね」

「どっちにしろ暑くてあかんわ……」

「でも、こっち見てるぞ?」


 離れたサソリ達は一ヶ所に集まって、何事か会話のような行動を行い、中でも特に巨大な一匹がバスに向かって突進して来た!


「やばいっ、みんな窓から離れろーーー!!」



 ガッシャーーン!!



 級長の叫びも空しく、サソリは巨大な鋏で窓を破壊し、バスに侵入して来た!!


「うわああああっ!!」


 ーーー窓の席に座っていた生徒は突撃して来た蠍の鋏に突き破った勢いのまま串刺しにされて、大量の血を流し、ピクピク痙攣していたーーー


「ケイターーーー!!」


 ケイタという生徒の友達らしき男子生徒が絶叫するがーーー


『シャギャィーー』


 サソリのもう片方の鋏で顔面を強打された!!


「いやああああああああ!!」


 その生徒は一言も発する事なく反対の窓際に座っていた女子生徒のところまで吹っ飛ばされーー そのぐちゃぐちゃに潰された顔を見た女子は無茶苦茶に暴れて泣き叫んだ。


 この一連の攻撃とその結果を見たサソリは、ーー虫の表情などわからないがーー 確実に、嗤っていた。


『こいつらは脅威になり得ない。実に旨い餌である』


 絶対的優位を確信したサソリは、仲間を呼んだ。


 窓を割り、次々と車内に入って来るサソリたち……


「ちーちゃん、ちーちゃん……」


 震える手で私の手を握るゆーちゃん。


 この状況をどうにか出来る力は私にはない……


「ゆーちゃん」


 私は、サソリのいない自分の右側の窓を見る。


 外は砂漠だ。

 日もまだ高い。

 水もない。

 服装も全然適していない。


 きっと、ここから出たとしても助からないと思う……


「ぎゃああああっ」


 サソリ達はゆっくりと狩りを行っている。きっと今まで無かったんだろう……完全に優位の狩りなど。


 だから、サソリが私のところまで来るまでに決断しなければならない。


「……ちーちゃん。私はちーちゃんと最後まで一緒だよ」


「ゆーちゃん…… うん、そうだね」


 こんなサソリに喰われるくらいなら、最後までゆーちゃんと一緒にいよう。

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