1. 異世界転移
「はい、ちーちゃん。あーん」
そう言って、チョコレートの付いた棒状の菓子を私に近付けて来たのは、
隣に座る『ゆーちゃん』こと、幼馴染みの志梛祐子だ。
「いや、いや、やめーって」
私は、スッと彼女の手から菓子を抜き、口に加えてポリッと折る。
せっかく食べさせようとしたのにー なんて言ってるがスルーしてやる。
ザワザワと騒がしいバスの中、ゆーちゃんは私にちょっかいをかけてくるので最初は真面目に相手をしていた私も次第に適当にツッコミを返すようになったのだが……
私、朝倉蝶子は、ゆーちゃんの幼馴染みで、ちーちゃんゆーちゃんと気軽に呼ば合うほど長年の付き合いなのだが、ゆーちゃんと違い、あまり騒がしいのは好きではないのだよ……
そんな私を何が楽しいのかニコニコと見つめる幼馴染み。
全く、憎いくらいに可愛らしい
まぁ、気持ちは分からなくもない。
なにせ今日は高校二年の恒例行事、修学旅行だ。
クラスメイト全員でバスに乗るなんて滅多にないし、浮かれるのも無理はないが……
「ちーちゃん、ちーちゃん、海だよ!」
ゆーちゃんの興味はバスの外に向かったようだ。
この、ゆーちゃんは、昔から落ち着きのない子で、小学生の頃から中身が変わっていないのが困りの種だ。
良く言えば純粋なのだが……
「あれ、今何か光ったよ!?」
「太陽でしょーー」
海はきらきらしているよねーっ。と、適当に返したが、ゆーちゃんの視線はバスの正面……
「え!?」
その瞬間、バスは光に包まれた―――――
◇
あまりのまぶしさに気を失い
気が付いた時には自分を包んでいた光が消えていた。
未だチカチカする目をゆっくり開こうとするも、まだ自然には無理そうだ。
閉じる瞼を意志の力でなんとか開き、バスの中を見渡すと、横にゆーちゃんを確認出来た。
ふぅ、と一息つくも、すぐに違和感に気付く。
……なんだろう、すごく暑い……?
ハッ、と窓の外を見る。
………いや、これは、嘘でしょう……
走行中だったバスが停止している事。
クラスメイトが――自分が確認出来る範囲でだが――無事な事。
それはいい、けれど窓の外の状況は……
「ううー…ちーちゃん……目が…目がぁー」
どうやらゆーちゃんも気が付いたようだ。
「うう……一体何が……?」
「なんか、スゲーまぶしかったぞ」
「つーか、なんか、暑くね?」
「いや、暑いマジで……」
「先生ぇーここってどこですかー?」
周りの生徒も気が付いたらしく、バスの中が騒がしくなってくる。
そして、やはり暑い……それはそうだろう……
誰かが窓の外を見て叫んだ
「うわあああ!? さ、砂漠!?」
暑いはずだ、何故かバスは砂漠……砂漠の真っ只中にいるのだから――




