15.二度目の彼女
マリー・クラリーク。それが私の名前。
私が全て思い出したのは、ん?…あれ、前にもこんな事を考えなかったっけ?
…まあいいわ。折角の転生ヒロイン。私は楽しむわよ!
そう決意し、学校に入学してからそれぞれの攻略対象者と接触した。
…全然上手くいかない。
ステファン殿下とトリスタンとフィリップは好感度高くなったけど、ユベール殿下とノエルの反応が悪い。
このままだとユベール殿下のルートに入らないし、何故かミルシェが全然接触してこない。
この時期なら何度か苦言を呈しに来るはずなのに…。
それに…あのいつもミルシェの隣にいる地味なモブはなに?あんなキャラいたっけ?
それにヒロインって虐められてた筈なのにそれも無いんだけど?
まずい。
ユベール殿下以外のルートを突き進むのは怖くて嫌だ。もし何か失敗して、バッドエンドになったら死んじゃう。どうにかしてミルシェに嫉妬してもらわないと…。
私は意を決して、ミルシェに嫌がらせを止めてくれと伝える事にした。
私がユベール殿下と懇意にしているとミルシェにアピールするのだ。
それに放課後の教室なら目撃者も充分だし、彼女が私に嫉妬していると周りに思わせれば、他の令嬢が虐めに来てくれるかも知れない。
とにかく、なんとかユベール殿下のルートに乗らなくては…。
だから私はミルシェに近づいた。
え?え?何?どういう事?
ちょ、モブ男!!私ヒロインなのよ、ふざけんじゃないわよ!優しそうな顔してとんだドS野郎じゃない!!
あれ、え?なに??どうなってんのー!??ちょ、ステファン、あんた私の味方じゃないの!?
いやー!!
結局男爵家に連れ戻された私は、父であるクラリーク男爵にひたすら罵倒された。
元々しゃーなしに引き取った娘だもんね。
然程愛情なんて感じてなかったけど…まさか、家を追い出されるとは思わなかったわ。
公爵家と侯爵家に目をつけられたら、貴族社会で生きていけない。
彼らの怒りを解くためにって事で、追放。
物凄く怒らせたから、怒りは解けないと思うけど。特にあのモブ男の怒りは。
多少のお金を握らせてくれたから無情ってわけではないのが助かった。
とにかく、住むところと仕事を探さないと…あー、なんでこんな事になったのよー!!
私、これでもヒロインなのに!!
…ヒロインなのに。
ああ…やり直した…ん?やり直したい?あれ、何か既視感が…。
………………あー!!!!
ちょっ、何で今頃思い出すのよ!!これ、2回目じゃない!!
遅っ!遅いよ思い出すの!!
私はモブ男の言っていた言葉を思い出す。
ミルシェ・ハヴェルカ公爵令嬢は、婿をとって公爵家を継ぐ予定。
ユベール殿下の婚約者ではない。
だとしたら…ユベール殿下の婚約者は…普通に考えて、リオノーラ?
うわっ!私かなり痛い子じゃん。
…でも、何で?
もしかして、ミルシェも一度目の記憶がある?もしくは、転生者?
確かめる術は無いけど…そう考えると辻褄が合う。
あー、そっか。
ユベール殿下はもう既に気が強いツンデレ女が婚約者…それにノエルも。
ミルシェが公爵家を継ぐって事は、ノエルは義弟にならなかったのね。
あー、だからいくらお姉さんキャラを演じても反応が薄かったんだ。義姉に憧れるノエルってのが前提から覆ってたから。
そういう事…。
はぁ、最悪。
…いや、考えようによってはこれで良かったのかも。
ユベール殿下を攻略しても結局私は王妃教育で躓いて、妾止まりだったし。
ゲームのヒロインは凄いわ。頑張って王妃になったんだから。
他のルートに入って失敗してバッドエンドなんて、絶対嫌だし。
死ぬのは怖い。
一度目の事を思うとステファンも無理だし。
そもそも、私自身を好きになってくれた人っていないんだよね。
全部ゲームのヒロインの通りに動いていただけなんだもの。
私、馬鹿みたいだわ。
よし!元々は市井で生活してたし、前世の記憶があるから庶民の生活も何とかなりそうな気がするし。
だったら貴族社会から…ううん、ゲームから外れて、別の幸せを探すのも良いかもしれないわ。
ヒロインだから見た目も可愛いもの、私。
…さあ、そうと決まったら。二度目の人生これからやり直し、絶対に幸せになってやる!!
おわり
完結しました。最後までお付き合い頂いた読者様、ありがとうございました。
明日6月9日から新しい作品を公開します。
今作、まあそこそこ面白かったんじゃない?
という優しい方は、次回作も読んで下さると嬉しいです。
今作より長編になります。




