1.悪役令嬢
初投稿です。
拙い文章ですが、お楽しみ頂ければ幸いです。
ミルシェ・ハヴェルカ。それが、私の名前。
ルフタール王国、ハヴェルカ公爵家の令嬢である。
銀色のロングストレートの髪に薄紫色の瞳、華やかな顔立ちで背もそれなりに高く、スタイルも抜群、多くの女性の憧れの的であった。
ルフタール王国の第一王子の婚約者で、未来の国母となる筈だったが、私は失敗してしまった。
多くの貴族の子弟が13歳から18歳まで通う貴族学校。もちろん私も13歳になると入学した。
最初の2年は特に問題は無かったのだが、15歳になる年、私のクラスにある男爵令嬢が入学してきた。彼女は妾の子で、これまでは市井で暮らしていたらしい。詳しくは知らないが、彼女は男爵家に引き取られたその年にこの学校に入学した。
彼女は、とても可愛らしい女性だった。明るく、庇護欲をそそるような風貌、淑女として暮らしてきた貴族の娘にはない気安さに、多くの男子生徒が彼女に魅了された。
その中に、私の婚約者である第一王子が含まれていたのである。
未来の国母となる為にずっと努力してきた私は、頭脳も立ち居振る舞いも淑女として、全てが彼女より優っていた筈だった。
だが、婚約者の心を奪ったのは、その男爵令嬢だった。
最初は婚約者や男爵令嬢を窘めていたが一向に改善されず、寧ろ婚約者には疎まれていく一方だった。
私の気持ちとは裏腹にどんどんと心を通わせていく二人を見ていると、真っ黒なドロドロとした感情が渦巻いてきた。
何故、何故、私が婚約者なのに。
私は彼女を毒殺しようとした。
結果として、未遂に終わったがその事が露見して婚約が解消された。
私が公爵令嬢であった事、被害者が男爵令嬢であった事、ことの発端が婚約者の交友関係であった事など色々と加味された結果、病気療養という形で、領地の湖の側にある小さな屋敷に監禁される事になった。
王家としても公爵家としても醜聞になる事を恐れたのだろう。私が病気になり表舞台から消えるというのが、一番問題なく事をおさめることが出来るという事だ。
湖の側の小さな屋敷で、穏やかな生活を送る中、私は自分のした事の恐ろしさに戦慄した。何故あんなにも醜い感情に塗り潰されたのか。
この国は一夫一妻制ではあるが、王族だけは側室や妾を容認されている。つまり、私が王妃になったとしても夫である国王は側室でも妾でも迎えられるという事。
愛人の一人や二人に心を乱されてはいけなかったのだ、そんな事では王妃は務まらない。
婚約者に対して、恋慕の気持ちが無かったわけではない。彼が男爵令嬢と懇意になるまでは、それなりの関係を築けていると思っていたし、婚約者を支えようとも思っていた。
だけど、私に対する笑顔と彼女に対する笑顔の違いに気がついた時、私は心を乱されてしまった。
彼に対する気持ちは、もう無くなってしまった。私には何も残っていない。
だけど、心は穏やかだった。
婚約が解消されてから5年後、穏やかな生活の中、私は風邪を拗らせ肺炎を起こし呆気なくこの世を去った。