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フィーラ  作者: タピオカ
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カル 5


 「この世界は、女神様によって生まれ、流れているんだ」


 カルが生きる世界は、魔法と共に生きていた。

 魔法の源は、世界中のあらゆるものに流れるマナ。

 マナは、生命の源で生み出せるのは女神だけ。

 女神は生み出したマナを、自身の化身である妖精を介して世界に分け与えている。

「他の種族と違って、オレ達妖精だけは、女神さまが直接生み出しているんだ。オレ達がこうして地面や物に触れれば、マナが世界に注ぎ込まれていく」

 カルは地面に手をおいて、こんな感じと見せてくれた。

「でも、女神さまが封じられて、マナが世界に流れなくなった」

 マナが不足すれば、土地はやせ、森は消えていく。水は枯れ、病が流行り、やがては誰も生きることができなくなる。

 魔法は世界に流れるマナを借りて行使するため、不足している現状では使うことができない。

「まあ、一応魔法道具とかマナを閉じ込めているものがあれば使えるんだけど、今じゃめったに手に入るものじゃないから」

 女神がどうしていなくなったのかは、妖精たちは知っていた。封印される前に、女神は彼らだけに伝えたのだ。


 何者かが、自分を閉じ込めようとしている。

 そうなる前に、なんとかして解決策を見つける。

 もし、自分が出られなくなっても自分の力を分け与えた何かをそちらに送るから、一緒に世界を救ってほしい。


 女神がいなくなると、妖精たちは必死に女神が遣わした存在を探した。

「その頃と同時だったよ。アネモネの一欠けらが現れたのは」

「その、アネモネの一欠けらってなあに?」

「女神さまを閉じ込めた奴らなんだ」

 彼らは突然現れて、世界中に女神を閉じ込めたのは自分達だと名乗った。そして、マナを注ぐことが出来る唯一の存在である妖精たちを狩り始めたのだ。

「あっという間に数は減って、今じゃこの通り」

 もうだめだと思った時に、カルの目の前に女神が遣わした妖精が現れたのだ。

「きっと、力の全てを振り絞って、君だけが通れる道を作ったんだろうな」

 カルは暮れてきた赤い空を見上げた。

 どこか寂しそうで、けれどうれしそうだった。

「女神さまは、世界を愛してた。彼女から生まれたオレも、世界が好き。だから、救いたい」

 その感情は、おかしなものではない。

 暖かく、けれど、決心するには十分な気持ちだったのだ。

「みんなも、同じだったんだ。だから、最後に残ったオレに、願いを託して死んでいった」

 妖精がどれほどいたのか、少女には分からない。

 けれど、こんな風に心を抱えている人を、彼女は出会ったことはなかった。

「そっか」

 少女は、ぎこちなく頷いた。

(どうしよう)

 重い。重すぎた。

(あたしには、背負えない)

 血の気が引いて行く。

(なんで、あたしなのよ)

「大丈夫?」

 カルが心配そうにのぞき込んでくる。

「びっくりするよね。こんな話。オレも、結構びっくりしてるんだ。

 死んだと思ったら、人になってるし…ねえ、なんでか知らない?」

「あ、それは…」

 妖精は、不思議な水の空間のことを話した。

「へえ、きっとそれは精霊の領域だね」

「精霊の領域?」

「うん。マナにも色々と種類があるんだけど、特別純度の高いマナは精霊っていう1つの命になるんだ。 でも精霊は妖精のオレ達でも簡単には見つけられない。会うには、よっぽどマナがあふれた空間にいかないといけないんだ。例えば、妖精が女神様からもらったマナを数十人で一気に1つの場所に放出するとかね。

 でも、おかしいな。そんなにたくさんのマナ、今、あるわけないし…」

ちらりと、カルは少女を見た。

「キミが女神様の遣いだから?でも、それでもそんなにたくさんのマナは感じられないし…」

「そういえば、精霊はカルの中に光があるとかって言ってたわよ」

「オレの中?」

カルは自分の胸に手を当てて目を閉じた。

そして、びくりと体を震わせる。

「ある」

 大量のマナが、自分の中にあるのだという。

「水のマナだけだけど…なんで!?女神様にはもらっていないのに!?」

「あ、そういえば」

 少女は女神が言っていたことを思い出した。

「なんか、自分の力の一部をばらまいたとかって言ってたような気が…」

「え、じゃあオレにそれが宿ってるの!?」

 カルは自身の両手を見て、体を震わせた。

「かっけえ!!」

 目を輝かせ、両手を空に向かって突き上げる。

「え、すごくね!?オレ、やばくね!?」

(あ、やっぱり馬鹿だ、こいつ)

 彼女は呆れ顔だ。

(あーあ、見た目だけなら子犬系で真っ先に好きなりそうな顔してるのになあ)

 がっくりと肩を落とす。

(この状況じゃ、無暗にキャーキャー喜べない)

 戻りたいと、思う。

(でも、戻るにはもう一度女神に会わないとだろうし)

 そのためには、世界を救わなくてはいけない。

(それはそれで、うまく使われている感じがしてふに落ちないわあ)

 だからと言って、どうするべきかも分からず、また殺されかけでもしたらたまらない。

(最近の異世界転生ものはどんなんだったっけ?色んなパターンがあるけど、最近はなんだかんだで世界エンジョイして住み着くのか多いよね…)

 少女は一番星を見上げた。

 日も暮れて、風が冷たくなってきていた。

(心細すぎる。よくもまあ、2次元の人達は簡単に適応できたよね…うーん…)

 悩んでいると、はしゃいで満足したカルが話しかけてきた。

「なあ、これからどうする!?ワクワクするよな!!」

「全然」

「なんで!?オレ、君と会えてすっごくうれしいのに!」

「あたしはそうでもない。

 大体、いきなり人間になったり、殺されそうになったのに、よくそうやってへらへらしてられるわね」

 しらけた言い方をされても、カルはこたえる様子はない。

 むしろ、満面の笑みだ。

「そうかな?分かんない事がある方が色々知れるんだって思って楽しいじゃん。

 深く考えるの苦手だけど。

 あ、でも1つだけすぐに分かることがあるよ」

「なに?」

「君の名前」

 教えて、と手を差し伸べてくる。

「友達になりたいな」

「あたしはなりたくない」

「じゃあ、知り合いからでも」

「いや」

「なんでー?」

眉を下げて、カルは濡れた子犬のような顔をする。

「あなたはあたしを利用したいだけでしょ!」

「え、君は世界救いたくないの?」

「ないよ!いきなり連れてこられて迷惑してるのよ」

「うーん、それじゃあ、こうしよう」

カルは妖精の小さな手をとった。

「君にこの世界のこと、いっぱい教えてあげる。

 色んなこと、好きになってよ。

 ついでに、オレのことも!

 世界を救うのは、それからでいいよ」

「へ?でも、危機なんでしょ?」

「うん。でも、泣いたり嫌がる女の子に無理させたくないもん」

当たり前のように言われると、なぜか少女の胸の奥が少し痛んだ。

ぎゅっと空いてる拳を握る。

「あなたって、やっぱりばかね」

「よく言われる」

 カルは、少女の手をひきよせ、小さな指先にキスをした。

「お近づきの証に」

「な!?」

 ぼっと、白い顔が赤くなったのと


ーぽんっー


少女が人間に戻ったのは、同時だった。

 2人は顔を見合せ

「「ええええええ!?」」

 響いた叫び声は、星が瞬く空に吸い込まれて消えていった。





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