カル 4
「わーい!気持ちいいなあ!!」
バシャバシャと、水の跳ねる音。
「すっげえ!妖精の時より思いっきり泳げる!楽しいなあ!」
せっかく着た服をそうそうに脱ぎ捨てて水泳を楽しむ少年、カル。
「あーもー、頭痛いわ」
その様子を、小さな妖精は体育座りで見ていた。
楽しそうに泳いでいる少年を見ていると、異世界に来たのが夢だったことのように思えた。
「これからどうしよう…」
足が土で汚れたから洗うと言って数十分。いつの間にやら湖での遊泳になっていることについては、この際妖精は考えないことにした。
「ねえねえ、キミは泳がないの?」
ザバッと水から上がる音がして、カルがこちらに寄って来た。
「いいわよ。それより服着たら?風邪ひくわよ」
「なんか元気がないけど大丈夫?」
「目の前で全裸野男の子は刺激が強すぎるのよ」
勘弁してくださいと妖精は顔を覆った。
「もう、本当にわけわかんないし。異世界転生とか柄じゃないのよ」
「ああ、そっか。君はなにも知らないんだったっけ」
服を着ながらカルは思い出したように言った。
頭を振って適当に水を飛ばし、服が濡れるのも構わずそのままの体で服を着る。
それから、すとん、と小さな妖精の前に座った。
「それじゃあ、話そうか」
「話すって何を?」
「色んな事。オレの知ってること、君の知ってること。色々教え合おうよ。
話し合いは仲良くなる1歩さ」
さわやかに告げられ
「あんたって、純粋なのね」
げんなりと彼女は答えた。
「んー?仲間にはよく能天気とから馬鹿とか、頭使えとかはよく言われたなあ」
きょとんとしているカル。おそらく、言われた意味についてそこまで深く考えたことはないのだろう。
「へえ、仲間は今どこにいるの?」
「みんな死んじゃった」
「へえって、え?」
あまりにもあっさり言うものだから、少女は危うく聞き逃すところだった。
「なにそれ」
「オレの知ってる仲間の妖精は、みーんな、いなくなっちゃった。残ってるのは君くらいじゃないかな」
「そうじゃなくて!」
妖精は飛び上がる。
「なんでそんなに普通にしていられるのよ!
家族とかが死んだら、もっとこう、悲しむもんじゃないの?」
「悲しいよ」
カルは頷く。
「でも、覚悟してたから」
静かだが、重みのある言葉だった。
「女神さまの遣わした妖精を見つけて守る事。それがオレ達の使命だったから」
「なに、それ」
「君も女神さまから少しは聞いているかもしれないけど、この世界はもうすぐ滅んでしまうんだ」
そうしてカルが教えてくれた話は、彼女にとって作り物の世界でよくありそうな話だった。