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フィーラ  作者: タピオカ
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何もない旅

「それで、私達は何を目指せばいいのですか?」

 半日かけて歩いてたどり着いた町の食堂で、ヒースは水を飲みながらそう言った。

 食事がすみ、一段落したところを見計らってのことだった。

「なにを?」

 フィーラが首をかしげ

「目指す?」

 カルはコップに入っていた氷をかみ砕きながら聞き返す。

「そうです。

 物見遊山でふらふらなら、それもそれで構いません。ですが、私達の置かれた状況はそれなりに特殊なので、対策はいると思うのです」

(確かに、そうね)

 フィーラは頷く。

 女神の加護を受けた妖精に、大量のマナを宿した仲間。

(まあ、1人は土人形で1人は死体だけど。

 それだけでも、十分色物集団よね)

 なんにせよ、正体は隠したほうがよさそうだ。

「私はずっと地下に潜っていたので俗世のことは疎いのですが、アネモネの一欠けらにはまだ狙われているのでしょう?」

「あいつら、むかつくよなあ」

 カルは思い出し、いらだったように体をゆする。

 彼にしてみれば、同族の仇そのものなのだ。

「では、彼らを倒すのが目的なのですか?」

「それは…」

 カルはちらりとフィーラを見る。

「それとも、世界を救うことですか?」

「絶対無理」

 妖精は即答した。

「そんな大役、無理に決まってるじゃない」

「では、これからどうするのですか?」

「むう…」

 改めて聞かれると答えられない。

(こういう時って、元の世界に戻る方法を探すのがセオリーと言えばセオリーだけど…)

 そのためには女神の言う通りにしなくてはいけない。

(それはなんか腹立つなあ)

 頬を膨らませていると

「えい」

 ぷすっと、指で顔をつつかれた。

 ぷしゅっと空気が抜けて、フィーラはカルを軽く睨んだ。

「なにすんのよ」

「面白い顔してたから」

「あのねえ…」

「確かに、面白い顔でしたね」

「ヒースまで!」

 人の気も知らないでと怒れば

「無理しなくてもいいよ」

 氷を口に含みながら、少年は笑う。

「まずはさ、この世界を好きになってよ」

「それは…」

(別に嫌いだとは思ってないし)

 しかし、好きとも言えるほど、ここをしらない。

 どうすればいいかも分からない。

 そんな気持ちを見抜かれているようで、妖精はやっぱりどうしたらいいのか分からなかった。

「目的を探すところから、ということならまずは各地の主要都市などを巡ってみるのはどうでしょう?」

 ヒースは懐から地図を取り出した。

 妖精が見ても目新しいそれは

「行き先を探すために広げるなんて、はじめてです」

 彼にとっても珍しい体験らしかった。

「まずはここ、ヒューマンの王都に向かってみるのはどうでしょうか。

 徒歩なら、2週間ほどですね。

 途中で馬車を借りるという手もありますし、道中であちこち寄り道するのもありだと思いますよ」

 無表情なのだが、なんだか体からそわそわしたものが出ている。

「ヒース、なんか楽しんでる?」

「もちろんです」

 即答だった。

「私には何もない。

 何もないと言うことは何をしても自由ということなんですね。

 こうして、好きな相手と旅をすることも選べるんです」

 さらっと好きと言う言葉を混ぜてくる。

「オレもフィーラ好きだよ!」

「あんたは張り合わないの」

(どうせどっちも本気の好きじゃないくせにさ)

 フィーラは盛大にため息をつく。

「でもさ、ヒース。

 なんだかすっきりした言い方してるのね。墓守っている人生かけた仕事なくなったのに。

 なんか切り替え早くない?」

 本当は、ずっと外の世界に憧れていたんじゃないのか。

 自分の境遇を恨んでいたんじゃないのか。

 そんなことを視線に混ぜていると、ヒースはそれを察したようだ。

「いいえ。生きていた私にとっての墓守は人生の全てでした。

 だから、死んだんです」

 死ぬことは怖くなかったと彼は言う。

「恨んでいたなら、焦がれていたなら、死体となって這い上がる理由はそれでした。

 しかし、私がここにいる理由はあなたです。

 それは、突発的で今まで持ちえなかったものです。


 生者の私にとっての全てが墓守ならば

 死者の私にとっての全てはあなたです。


 あなたといられるならばどこに行くのも楽しいです。

 あなたといることを止める理由がないことが心のそこからうれしいです。


 それでは、ご納得いただけませんか?」

 フィーラは頭をガシガシとかく。

「もう、なんでもいいわよ。

 とりあえず王都ってとこに行くんでしょ?

 早く行きましょ」

 妖精はフワリと飛び上がる。

「ええ、行きましょう」

 ヒースは立ち上がり

「はーい!」

 カルはコップの中の氷を全部口に入れて続けて立ち上がった。


 目的もない、何もない旅は、こうして始まった。


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