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フィーラ  作者: タピオカ
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これからのこと 2

 閑話休題。

「へー、そんなことがあったんだ」

 ようやく一通りの説明をし終えると、カルは納得したと手を打った。

「色々大変だったんだねえ。

 お兄さん死体なのに、他の人達みたいに腐ったりしてないよね。

 なんで?」

「それは私にもよく分からないんですよ」

 ヒースは服の一部をめくったりして確認するが、生きてる時と同様の姿だった。

「不思議ですね」

「そうよねえ」

 頷きながら、フィーラは意外にも彼の体が鍛えられているのを知った。

(細マッチョ…)

 めくられた服が戻る時、ほんの少しがっかりしたことは内緒だ。

「そもそも、魂がまだ体にあることからして、おかしいんですよ」

「なんで?」

 カルが聞く。

「普通は死ねば魂は肉体から離れ、心のカケラだけが残ります。

 残った心…まあ、つまりは未練によって欲望のままに動く死体には意識も知性もありません」

「お兄さんはそんなことないよね?」

「そうですね。

 自分では生前と変わらないつもりです。

 考えられるのは、やはり、体の中にある大量の土のマナのせいでしょうか」

 ヒースは自分の中にとてつもない量のマナを感じると言った。

「カルさんも、同じでしょう?」

「うん!でも、オレは水のマナだよ」

「となると、おそらく女神さまは力を地水火風に分けたのでしょうね」

 その時、フィーラが手を挙げた。

「はい、質問。

 マナって要するに魔法の源でしょ?

 やっぱり属性ってあるの?」

「ええ、ありますよ」

 ヒースは頷く。

「魔法には地水火風の4属性があります。

 それぞれ、単純に操るだけではなく属性に応じた特性を持っています」

「水だったら、癒しの力を使えるって奴だね!」

 カルの言葉にヒースは頷く。

「ええ。本来ならば人は誰しも全ての属性の魔法を使えます。

 その力量は個人差が大きいですが、基本的な操作は誰でもできます」

 しかし、今はマナが世界に不足している。

 よって、ヒースとカルが使えるのは自分の中にあるマナだけ。

 だから1つの属性しか現時点では使えないのだ。

「1つの属性しか使えないといっても、マナが枯渇している状態で私達の存在は異常です。

 このことは、極力悟られないほうがいいでしょう」

「そうね、それは賛成だわ」

 フィーラは頷くが

「え?なんで?」

 カルは分かっていない。

「バカね、悪い奴らに利用されたりしたらどうするのよ」

「あ、そうか」

「…カル、人におかしあげるって言われてもついていっちゃだめよ」

「よく分かんないけど、わかった!」

 見張っといた方がいいかもしれないと、フィーラはこっそりため息をついた。

 話がそれたところでヒースが

「その、私達に宿っているマナのことなんですが」

 話題を修正する。

「カルさんの体がもろいのは、バランスが悪いからじゃないかと思うんですよね」

 言いつつ彼は

「失礼します」

 と断ってカルの腕や足に触る。

「ふむ…やはり」

「なにがやはりなのよ」

 何かわかったのかとフィーラが聞けば

「マナのバランスが悪いんです」

 ヒースはカルの肩に手を置いた。

「水のマナだけで土を繋げることに無理があるんです。

 私のつくるゴーレムたちと同じです」

 ふわりと、ヒースの体が金色の光を帯びる。

「土を繋げるには、地のマナが必要不可欠です。

 今、カルさんの体は水のマナで無理矢理土を集め、崩壊を癒しの力で無理矢理止めている状態です。

 なので…」

 光が、カルの方へと移っていく。

「こうして、私の地のマナを分け与えれば…」

 光が収まると、ヒースはゆっくりと手を離した。

「どうでしょう?」

「ん?おお!!すっげー!体が軽いし、引っ張ってもとれない!」

 どうやら、成功したようだ。

「カルさんが妖精でよかったです。

 マナを分け与えたりもらったりできる種族は妖精だけですから」

 ふう、とヒースは安堵の息をつく。

「…ねえ、その種族ってなに?

 前から出てきてたから気になってたんだけど」

 嬉しそうに飛び跳ねるカルを見ながら、フィーラは聞いてみた。

「この世界には、色々な種族がいるんですよ。

 全てをひっくるめて、人と称したりすることもありますけどね。

 カルさんのような妖精族。

 ドラゴニアという竜の特性を持つ種族にライカンという獣の特性を持つ種族。

 あとは、ハーピーという翼をもっている種族もいますね。

 他には、数は少ないですがエルフという者達も。

 一番数が多いにはヒューマンという種族です。おそらく妖精さん達が通った町にいたのは彼らが大半だったのではと思います。

 かくいう私もヒューマンですし」

 種族に応じてそれぞれ得て不得手はあるものの、互いに国や集落を造り、それなりに平和に暮らしているそうだ。

「今、私達がいるのはヒューマンが統治する国です。

 王様もヒューマンです。

 だからといって多種族がいないわけではないので、機会があれば会うこともあるでしょう」

「へえ、なんか楽しそうね」

「妖精さんのいた世界では、種族はなかったんですか?」

「うーん、話す言葉が違ったりとかはあったけど、基本的にな部分は変わらないわね」

「でしたら、ここと変わりませんね」

「なんで?」

 元の世界には今聞いたようなドラゴンの種族も羽の生えた人間もいなかった。

 不思議そうな彼女に、ヒースは教える。

「基本的な部分は変わらないのでしょう?

 私達も同じですよ。

 話せば分かるし、ケンカもします。

 心があるのは同じですよ」

 墓の下には数は少ないがヒューマン以外の者も眠っているという。

 分け隔てなく見守って来た彼だから、そう思えるのだ。

「ヒースは、優しいね。

 でも、騙されそうだわ」

「ひどいですね」

 相変わらず、無表情の彼の感情は言葉の抑揚から感じ取るしかない。

「でも、騙されるならあなたがいいですね」

 ヒースはなんだかうれしそうだ。

「あら、あたしが悪人に見えるの?」

「どうでしょうね」

 からかっているのだろう。

 見た目以上に、ヒースという人間は感情豊からしい。


「ねえ、2人とも何話してるの?」


 気が済んだらしいカルが寄ってくる。

「そろそろ、町の方に行かない?

 フィーラは昨日からほとんど食べてないからお腹空いてるでしょ?」

 言われた瞬間に、妖精のお腹が盛大になった。

 かあっと、赤くなった彼女を見て

「フィーラ、かわいいね」

 少年は笑う。

「う、うるさいわね!!

 女の子にそういうこというもんじゃないわよ!」

「えー?

 なんで怒るの?」

 賑やかな2人を見ながら

「楽しいですね」

 ヒースは穏やかに言う。

「それでは、行きましょうか。

 終わった土地にいつまでもいても仕方ないですから」

「はーい!」

 カルは元気よく返事をして走り出し

「カル、いつまで笑ってんのよ!!」

 妖精はそんな少年を怒りながら追いかける。

 歩いて後を追いながら、ヒースは一度だけ振り返った。

 銀灰色の目が、ほんの少しだけ寂しそうに細まり

「どうか、安らかなに」

 一度だけ、礼をする。

 それから、太陽に向かってはしゃぐ子供たちの方へとまた、歩き出した。



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