カル 1
「落ち着こう、落ち着こう」
木々が生い茂る森の中。ぽっかりと空いた広場のような場所。背の高い草が密集するその場所で、ぶつぶつとつぶやく声が聞こえていた。
「せっかくの土日だから家でゴロゴロしてた。でもお菓子が食べたくなって近くのコンビニに行った。うん。ここまではいい。それで?ああ、そうだ。目当ての物を買ってさっさと帰ろうと思ってコンビニから出た時に…」
彼女の頭に、迫りくる車がよみがえる。
「いきなり突っ込んで来た車にはねられたんだった。え?そんで、これ、夢?あたし今どうなんてんの? 植物状態?死んだ?いやいやいやいや。だからってこれはないでしょう!」
だんっと、少女は拳を地面にたたきつけた。
「なんで、よりにもよってこんなミニマムなサイズなのよお!!」
草に埋もれるほどの大きさ。
背中には半透明の丸っこい羽。
顔までは分からないが、来ている服はふわふわした青いワンピース。ふんだんにレースが施された可愛らしいデザインのそれに
「こんなの着たことないよお」
彼女は恥ずかしさに手で顔を覆った。
「こういうのは、もっと可愛い女の子が着るべきものだよ。
そうじゃなかったら殺される類のものだよお」
元々持っている自信のなさにさいなまれ、彼女は1人もだえる。
「これっていわゆるフェアリー?妖精?あの、RPGでサポート役によくある奴?戦闘になったらどっか行くかめっちゃ弱い奴?そんな状態でこんな右も左も分からないところに放りだすとか、死ねってか!?隅っこ女子の適応力のなさをなめるなよ。小説や漫画みたいに都合よく、色んな知識や技能持ってるわけじゃないんだよ!?これからどうしろっていうのよおおおお!!」
頭を抱えて叫んだ瞬間
「みいつけたあ」
がさっと音がして、ふいに頭上の草が押し倒すようにして開かれた。
「ひ!?」
見おろしているのは、金髪の人間だった。中世的な容姿のその人は、今や妖精の彼女には
(でか!?巨人じゃない!)
とてつもなく大きく見えた。少し前までは自分もそうだったなどという考えはふっとび
「こ、こんにちは」
ぎこちなく挨拶するしかできなかった。
「こんにちは」
人間は明るく返しそして
「じゃあ、死んでね」
突然の死刑宣告をした。
「な、なんで?」
「んーキミが妖精だから」
伸びてくる手。
逃げなければいけない。
分かっているのに、体が動かない。
(なんで命狙われる姿で送り出したのよお!!)
気づけばあふれる涙。
終わりを覚悟して目を強く閉じた時
「なにボサッとしてんた!!」
不意に腕を引っ張られる感覚がして、突き飛ばされたようにその場から飛び上がった。