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フィーラ  作者: タピオカ
36/60

墓守 12

―クスクス―


 笑い声で、ヒースは目を覚ます。

「あれ?私は…」

 体を起こして見て見ると、当たりは一面真っ白だった。

「ふむ…ここは死後の世界でしょうか?」

 無表情のまま、首を傾げる。

「…暇ですね」

 ぼーっとしばらく座ってみた結果、そう思った。と


―クスクス―


 目の前を笑う何かが飛んでいった。

「これは…」

 見えないけれど、感じる何か。

 周囲を飛び、肌をかすめ、まるで遊んでいるようだ。

「あなたがたは、誰ですか?

 死の使いさんでしょうか?」


―なにそれ?―


―精霊だよ―


―クスクス―


―願いにつられて集まったの―


ポカンと非現実な状態の中で、ヒースは口を開ける。


―あなたの願い、なあに?―


「願い、ですか?

 そんなものは私には…」

 何故か、一瞬妖精の顔が掠めた。

 最後に言われた言葉が思い出される。

 それはなぜか痛みを伴った。

 不思議に思いながらも、首を横に振る。


―ねえ、選んで―


 考えていると、目の前に2つの扉。

「なんですか?これ?」


―1つは安らかな眠り―


―1つは生まれ変わり―


―どちらを選んでも同じ―


―でも、違うかもしれない―


―あの子が望んでるから―


―自分で選ぶことを―


「よく分かりませんが、選べばいいんですね」

 ヒースは扉の前に立った。

 どちらも木製の造り。

 デザインも同じ。


―あなたの願う方へつながるだけ―


―だからどっちを選んでも同じ―


「うーん…まあ、悩んでも仕方ないですか」

 ヒースは右側の扉を、遠慮なく開いた。


 先には、空色の瞳の小さな妖精が泣いていた。


「妖精さん?」

 声をかけると、すごい勢いで振り返った。

「どうして、泣いているんですか?」

「………」

「泣かないでください」

 困ったなと、彼は頭をかく。

「私のためですか?」

 妖精は頷く。

「ありがとう、ございます。

 ですが、私は何の悔いもないんですよ」

「いや」

「はい?」

「あたしは、嫌なのよ」

「私が死んだことですか?」

 妖精は首を横に振る。

「簡単に死んじゃうその覚悟が、大嫌いなのよ!」

 ぺしりと、頬をぶたれた。

 驚いて、固まってしまった。

「困りましたね。

 そんなことを言われたのは、初めてです。

 ああ…本当に困りました」

 困っているのに、なぜだろうか。

「墓守としては未練なんてないのに」

 胸が暖かくなる。

「ただの私としては、あなたが泣いているのは、すごく嫌です」

 親指で優しく妖精の涙をぬぐった。

「どうすれば、止められますか?」

「あなたが生きてくれたら」

「私が必要ですか?」

「分からないわ」

「正直ですね。でも、そうですね」

頬が緩むのを感じる。

「生まれ変わったら、また、あなたに会いたいです」

 妖精に初めて見せた、その微笑み。

 彼女がそれを言う前に


―じゃあ、決まり―


―光で命をつないであげる―


 見えない何かが、彼の意識をさらって行った。



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