墓守 12
―クスクス―
笑い声で、ヒースは目を覚ます。
「あれ?私は…」
体を起こして見て見ると、当たりは一面真っ白だった。
「ふむ…ここは死後の世界でしょうか?」
無表情のまま、首を傾げる。
「…暇ですね」
ぼーっとしばらく座ってみた結果、そう思った。と
―クスクス―
目の前を笑う何かが飛んでいった。
「これは…」
見えないけれど、感じる何か。
周囲を飛び、肌をかすめ、まるで遊んでいるようだ。
「あなたがたは、誰ですか?
死の使いさんでしょうか?」
―なにそれ?―
―精霊だよ―
―クスクス―
―願いにつられて集まったの―
ポカンと非現実な状態の中で、ヒースは口を開ける。
―あなたの願い、なあに?―
「願い、ですか?
そんなものは私には…」
何故か、一瞬妖精の顔が掠めた。
最後に言われた言葉が思い出される。
それはなぜか痛みを伴った。
不思議に思いながらも、首を横に振る。
―ねえ、選んで―
考えていると、目の前に2つの扉。
「なんですか?これ?」
―1つは安らかな眠り―
―1つは生まれ変わり―
―どちらを選んでも同じ―
―でも、違うかもしれない―
―あの子が望んでるから―
―自分で選ぶことを―
「よく分かりませんが、選べばいいんですね」
ヒースは扉の前に立った。
どちらも木製の造り。
デザインも同じ。
―あなたの願う方へつながるだけ―
―だからどっちを選んでも同じ―
「うーん…まあ、悩んでも仕方ないですか」
ヒースは右側の扉を、遠慮なく開いた。
先には、空色の瞳の小さな妖精が泣いていた。
「妖精さん?」
声をかけると、すごい勢いで振り返った。
「どうして、泣いているんですか?」
「………」
「泣かないでください」
困ったなと、彼は頭をかく。
「私のためですか?」
妖精は頷く。
「ありがとう、ございます。
ですが、私は何の悔いもないんですよ」
「いや」
「はい?」
「あたしは、嫌なのよ」
「私が死んだことですか?」
妖精は首を横に振る。
「簡単に死んじゃうその覚悟が、大嫌いなのよ!」
ぺしりと、頬をぶたれた。
驚いて、固まってしまった。
「困りましたね。
そんなことを言われたのは、初めてです。
ああ…本当に困りました」
困っているのに、なぜだろうか。
「墓守としては未練なんてないのに」
胸が暖かくなる。
「ただの私としては、あなたが泣いているのは、すごく嫌です」
親指で優しく妖精の涙をぬぐった。
「どうすれば、止められますか?」
「あなたが生きてくれたら」
「私が必要ですか?」
「分からないわ」
「正直ですね。でも、そうですね」
頬が緩むのを感じる。
「生まれ変わったら、また、あなたに会いたいです」
妖精に初めて見せた、その微笑み。
彼女がそれを言う前に
―じゃあ、決まり―
―光で命をつないであげる―
見えない何かが、彼の意識をさらって行った。




