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フィーラ  作者: タピオカ
35/60

墓守 11

 息切れ一つせず涼し気に言う彼に、妖精はポカンとする。

「すっご」

(ゲームなら明らかに現時点の主人公のレベル上回ってるでしょ)

 ヒースは倒れたカルを抱き起す。

「気を失っているだけのようです」

 ケガも特にないと言われ、フィーラはホッとする。

「とりあえず、一度家に戻りましょう。

 彼をこのままにはできません」

「でも、あいつは?」

 フィーラは不安そうにゴーレムの山を指さす。

「大丈夫です。しばらくは動けないはずなので」

 言った瞬間、ぶるりとゴーレムの山が震えた。


「僕は、水」


 地の底からうなるような声。

「!!」

 瞬時にカルを脇に降ろし、ヒースは鎌を前方に構えた。

「な、なに?」

 不安そうな妖精の声。

 墓場全体が揺れている。

「これは…」

 ヒースは再びカルを担ぎ上げた。

 どこからか、カレンデュラの声が聞こえる。

「僕ね、自分で直接するのは嫌いなの。

 だから、ごめんね。

 できるだけ苦しくないように祈ってる」

 じわりと、墓場の壁に亀裂。

 そこから流れ出る水。

 ヒビはあっというまにどんどん増え、広がって行く。

「走ってください!」

 ヒースが言った時、天井の一部が崩れ落ちた。

「何々!?なんなの!?」

「崩れます!」

 短く言ってヒースはカルを抱えたまま出口まで走りだした。

 人を抱えているとは思えない素早さだ。

「まってよ!」

 妖精は必死に羽を動かして後を追う。

「なんでいきなり崩れるの!?」

「先程のあれが、地下の地盤に干渉したようです。

 水で緩んで、ここら一帯がもろくなっています。

 ここはもう持ちません」

 十字架の群れを縫うようにして走る。

 幾つかの壁や天井の一部が地面に崩れ落ちた。

「気を付けてください。

 でも、スピードは緩めないで」

「無茶言わないでよお!!」

 頭を抱えながら、どうにか階段までたどり着く。

 振り返ったとき、家の屋根が押しつぶされているのが見えた。

「早く!外へ出てください!」

 額に汗を浮かべて、ヒースは階段を駆け上がった。

 地上へと続く蓋を弾き飛ばすように開けて、カルと妖精を外に出す。

「早く!ヒースも!」

 妖精の言葉に、だが彼は

「私はいけません」

 首を横に振った。

「どうしてよ!」

「墓守、だからです」

 ゆっくりと、後ずさっていく。

「墓守は、最後まで仕事を放棄できません。

 不測の事態で墓場が崩れる場合は、一緒に消えるんです。

 大丈夫です。

 地下は深いので、崩れた後、死体もはい出ては来れないでしょう」

「そんなことを言ってるんじゃないのよ!

 いいから出てきてよ!」

 早くしなければ、ここも崩れてしまうだろう。

「私は、墓守としての仕事に誇りを持っています」

「何よ!墓守の仕事って!?

 あなた言ったじゃない!

 他人の決めた物差しじゃなくて自分の考えでここにいるって!」

「ええ、ですから…」

「それなら、なんで他人が決めた墓守のルールに従ってるのよ!?」

「っ!?」

 びくりと、ヒースの肩が揺れた。

「ここがなくなえうら、別のところに行けばいい!

 あなたが死ぬ理由にはならないわ!」

「…できません」

「どうして!?」

 ヒースは背を向けた。

「私にとっての墓場は、ここだけですので」

 そして、暗闇の中に消えていった。

「ヒース!!」

 叫びに返ってくる声はなかった。

 やがて階段も入口も崩れ落ちた。

 目の前の地面に亀裂が入り、大きく周囲が揺れる。

「きゃあああ!?」

一際大きな音がして目の前の地面が陥没した。

それから、静寂がゆっくりと戻ってくる。

「うそ…でしょ…」

 月明りが照らし出す、荒れた廃村。

 虫の声がどこからか聞こえてくる。

 目の前の入り口は完全にふさがって、入れそうにない。

 おそらく、中も。

 人が生きていられるとは思わなかった。

「ウソ…ウソよ」

 これからどうしたらいいのだろう。

 体が震える。

 胸の中が熱い。

「訳わかんない。

 なんで簡単に死ねるの?

 どうして、そこまで強くいるの?」

 理解ができない。

 自分より大切なモノがあるなんてこと。

「自己満足で、死んでんじゃないわよ!」

これがゲームなら、彼の命を背負うなんてシナリオが展開するかもしれない。

「無理よ、無理無理」

しかし彼女は主人公じゃない。

都合のいいシナリオなど、持っていない。



「ふざけないでよ。

 重いのよ」



 じわりと、妖精の体から光がにじみ出た。

 それに本人は気づかない。

 気づかないまま、パニック状態で頭をかきむしる。


「あたしにこれ以上背負わせないでよおお!!」



 月の光を吹き飛ばすようなまばゆい閃光。


「帰ってきなさいよお!!」


 そして彼女は現実から切り離された。



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