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フィーラ  作者: タピオカ
34/60

墓守 10


 子どもの目の前に水の粒が集まっていく。

「じゃあ、バイバイ」

 それはもはや弾丸だった。

 飛び出した水弾は、ヒースに向かってするどく飛んだ。

「…なるほど」

 ヒースはとっさに腕でガードする。

 被弾した部分はじんじんと痛んだが、彼はカレンデュラから視線を離さない。

「侵入者だと、認識しました」

 斧をもう一度相手に向かって振り下ろす。が

「だめだよ」

 とぷん、とカレンデュラの体に吸い込まれそこから微動だにしなくなる。

「それじゃあ、僕は殺せない」

 再び現れた水の弾がヒースを襲う。

「ぐっ」

 すばやく斧から手を離し、彼は後ろに大きく下がった。

 弾は外れて、近くの十字架を吹き飛ばす。

「嘆きとは、また大層ですね。

 人の墓標を荒らして名乗って良い名ではないでしょう」

 妖精にさがっていなさいと言う。

 カレンデュラは泣き笑いで答える。

「僕は、僕の悲しみで手いっぱいなんだ。

 …そこの妖精さんを殺せれば、あなたは見逃してあげるから…お願い」

「ひい!?」

 やはり狙いは自分なのだと、フィーラは体を強張らせる。

「できかねます」

 ヒースは首を横に振る。

「彼女は客様ですし、それに…」

 銀灰色の目が敵意を宿す。

「墓場での殺生はお控えください」

「残念だよ」

 カレンデュラの足元に魔方陣が広がった。

「今度は、1つじゃないよ」

 同時に現れた水弾は10個以上。

 それらが全てヒースに向かっていく。

「………」

 水が弾け、土煙が舞う。

「きゃああ!!」

 頭を抱えた妖精の前には

「あ?あれ?」

 土の壁がそびえ立っていた。

 攻撃を受け終え、ぼろぼろと崩れ去っていく。

 同時に

「悲しみの大地よ 我の声を聞け」

 ヒースの足元に展開される魔方陣。


「お前の心は 飢えている

 お前の心は 望んでいる

 

 与えよう 伸ばす手を

 与えよう 進む足を


 お前が欲する潤いは 我にあらず

 お前が欲する潤いは 我の前


 いでよ サンドゴーレム!」


 詠唱と共に、ヒースの周囲からむくむくと起き上がる土の人形。

 それはまるで、墓から蘇る亡者のように不気味な様相をしていた。

 ゆらゆらと不自然に体を揺らめかせ、歩き始める。

 その中心にいるヒースは、まるで墓場の主のようだ。

 さらに彼はしゃがみ込み、土に手を置いた。

 そこから別の魔方陣が展開され、光の中から何かを抜き出す。

 現れたのは、白く輝くクリスタルの大鎌。

「ふむ…久しぶりでしたが、うまく行くものですね」

 ヒースは鎌を構える。

「それでは、行きましょうか」

 瞬時に間合いを詰め、カレンデュラに切りかかる。

 先程の斧とは違い、魔力を込められたそれが相手の体に吸い込まれない。

 けれど無駄に水を裂くだけで、有効な一撃にはなりえなかった。

「どうして、抵抗するの?」

 カレンデュラの体から放たれる弾を、ヒースは器用に土の壁で受け止める。

「仕事だからです」

「悲しいね。自分の意志はないんだ」

 ポロポロと、また赤の瞳から涙があふれる。

「さあ、どうでしょう」

 不意にカレンデュラの動きが止まった。

「え、なんで?」

 見れば足を掴む手があった。はいつくばるゴーレムが、カレンデュラを見上げて笑った気がした。

「どうして?僕には誰も触れられないはずなのに…」

「土は、水をよく吸い込みますので」

 じわりと、ゴーレムの乾いた体が湿っていく。

「彼らははいつだって生者を求めています。

 ほら、行きなさい。

 あなたがたの求めるものは、そこにあります」

 ゴーレムの動きはけして早くない。

 けれど、ヒースの素早い攻撃に翻弄され、じわじわとゴーレムの集まる場所にカレンデュラは追い込まれていく。

「やだ…動けない…やだよお…」

 数分後には、折り重なるゴーレムに埋まるようにして、子どもは完璧に土の中に封じ込められていた。

「ふう…」

 鎌を軽く振って、ヒースは降ろす。

「久々でしたが、意外と動けるものですね」


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