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フィーラ  作者: タピオカ
33/60

墓守 9

「っ!!」

 不意に立ち上がったヒースに、フィーラはびくりとした。

「ど、どしたのよ?」

「なにか来ました」

「へ?」

「墓場の土には私の魔力を染み込ませています。

 だから、誰かが来ればすぐにわかるんです」

 彼は立てかけていた斧を手に取る。

「入口からでもどこからでもない。

 不意に現れた何かがいます」

「どういうこと?」

 不穏な気配を察して、妖精は机から浮かび上がる。

「侵入者なら、排除します」

 目を鋭くさせ、扉を開いた彼の後を、フィーラは追う。

「あたしも連れて行って!

 カルが危ないかもしれないもの!」

 ヒースはちらりと彼女を見て

「危険だと思ったらすぐに逃げてください」

 それだけ言って小走りで墓場へ飛び出した。



 異変の正体はすぐに分かった。

「あら?あの子…」

 夕方に出会ったあの子供が立っていた。

 相変わらず、フードを深く被っている。

「お知り合いですか?」

「夕方に会ったのよ。

 この辺りの町か村の子どもだと思ったんだけど」

「変な話ですね」

 ゆっくりと、ヒースは子供に近づく。

「この辺りに、子どもが足で来られるような町も村も存在しません」

 小さな影に問いかける。

「あなたは、誰ですか?」

 子どもはこちらを見た。

 ぽろぽろと、涙を流している。

「止まらないんだ」

 しゃくりあげながら言う。

「悲しくて、苦しくて、止めたいんだ」

 フィーラはふと、その子の足元を見る。

 そして見つけた。

「カル!!」

 うつぶせに倒れ伏している少年にフィーラは叫んだ。

 慌てて飛んで行こうとするのを

「だめです」

 ヒースが制する。

「あの子は、おかしい」

「なんでそんなひどいことを言うの?」

 弱弱し気に子どもは言う。

 ヒースは眉ひとつ動かさない。

「墓場というのはですね、悲しみを持った人がよく来るんです。

 だから、その感情だけはよく分かるんです。

 あなたの涙は空っぽだ」

 斧を構え、距離を詰め、振り下ろした。

 驚きで固まる妖精を見もせず、子どもに言う。

「改めて聞きます。

 あなたは何者でしょうか?」

 斧は、子どもの間横すれすれの地面に突き刺さる。

「………」

「…侵入者ということで、よろしいでしょうか」

「うう…」

 子どもは呻く。

 傷ついて泣いているのかと妖精は思った。が

「悲しいのは本当だよ」

 被っていたフードがぱさりと落ちる。

 改めてさらしだされた素顔は

「でもそれは、人の悲しみじゃないんだ」

 泣きながら、笑っていた。

 流れ落ちる金の長髪。

 あどけなさを残す輪郭に、うるむ赤い瞳。

「え、女の子?」

 てっきり男の子だと思っていた妖精に、しかし子どもは首を横に振る。

「また間違えられた…うう…こんな自分嫌だよお…見ないでよお…」

 じわりと、子どもの腕がぼやける。

「早く…早く終わらしちゃおう。

 そうすれば、悲しいことなんてないんだから」

 相手が腕を上げた瞬間、ヒースはためらいなく斧を引き抜き真横に薙いだ。

 子どもの体が真っ二つに切り裂かれる。

「きゃあ!」

 大惨事の光景を予想したフィーラに反して

「意味ないよ」

 子どもはまだそこに立っていた。

 切り口が水のように揺らめいて、1つに戻って行く。


「改めまして。

 僕はアネモネの一欠けら」


 ぽろぽろと止まらない涙を拭うこともせず、ヒースとフィーラに名乗る。


「呼び名はカレンデュラ

 嘆きのカレンデュラ」


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