墓守 5
窓から、斧を片手に墓を歩き回るヒースの姿が見える。
(うーん、ちょっとだけ怖さは薄れたと言えば薄れたけど)
話の間、眉1つ動かさなかった。
1人でいる時間が長すぎて、色々とマヒしているのだろうか。
(興奮してるのが冷めてきたら、やっぱりまだちょっと怖い、かも)
感情が読み取れないというのが、ここまで近寄りがたいこととは彼女も思っていなかった。
「…あの人、ずっとここにいるのかな」
カルが言う。
「退屈じゃ、ないのかな」
「でも、誰かがやらなきゃいけない仕事なんじゃない」
本人は別に嫌がっているようには見えなかったとフィーラは答える。
「嫌な仕事でも、やらなきゃだめなのよ。
きっとね」
「嫌な仕事、かあ」
カルは十字架の群れを見つめる。
「妖精ってさ、死んでも形が残らないんだよね。
だから、こういう体を埋めるっていう発想、考えたことなかったなあ。
なんで埋めるんだろうね」
妖精はめったに他種族と関わらない。
妖精付きなどの例外はあるが、自分達以外の慣習には疎いらしい。
「なんでって、そういうものだからじゃない?」
「そういうものって?」
「うーん、なんていうかさ…死んだ証みたいなのを建てて、安らかに眠れますようにってお願いしやすくするんじゃないの?」
「そうしたら、死んだ命は幸せなのかな」
「どうかしらね。死んだ人は話さないもの」
話したところで、ゾンビのうめき声が関の山だ。
「そっかあ…」
カルは何かを考えているようだ。
しばらくすると、立ち上がった。
「どうしたの?」
「ちょっと、お兄さんのところに行ってくる!
手伝えることあるかもしれないし」
「それなら、あたしも…」
「フィーラはここで待ってて」
カルは妖精を、そっと肩から机に降ろした。
「すぐに戻ってくるから」
「あ、ちょっと…」
ぱたぱたと走って少年は外へと行ってしまった。
程なくして墓の中を駆けるカルの姿が窓から見えた。
「もう、落ち着きないんだから」
フィーラはまあいいかと思い直し、のんびりとそこで待つことにした。
時計がないので、どれくらい経ったのかはわからない。
けれど、少しうとうとしてしまっていたようだ。
扉を開く音で、フィーラはハッと目を覚ました。
「起こしてしまいましたか?」
扉の前でヒースが靴の泥を取っている。
「ううん。カルは?一緒じゃないの?」
ヒースは首を横に振る。
「カルさんですか?
いえ、随分前に一度墓場で会ったきりですが、戻っていないのですか?」
パッと妖精は飛び上がった。
「何かあったのかもしれないわ!」
「探しに行くんですか?」
「当然でしょ!」
「しかし、墓場にはおかしな気配は…」
「それでも行くのよ!」
妖精の剣幕に押され、ヒースは
「分かりました。一緒に行きましょう」
もう一度墓場にくり出した。




