墓守 4
案内されたヒースの家は、非常に質素だった。
墓を見張るための休憩所として元々建てられたという話だが、最低限の居住設備しか置かれていない。
ただ、扉を入ってすぐの部屋には、四方に窓がついておりどこからでも墓が見れるようになっていた。
宝石の光で浮かび上がる十字架の群れは、改めて見るとやはり少し怖いとフィーラは思った。
奥にはもう1つ部屋があるそうだが、ヒース曰くそこは物で埋め尽くされているため本人以外は入らないほうがいいとのことだ。
「さて、何もない所ですがゆっくりしてください」
部屋の真ん中に置かれたテーブルとイス。
どちらも薄汚れているが、丁寧に手入れされ、何度も修繕を繰り返していることが伺えた。
「すみません。お茶なんて気の利いたものはないので、水でご了承ください」
ことりと置かれた、透明なグラスに入った水。
そしてヒースは席につき、入口で立ったままのカルに手でイスをさししめした。
「どうぞ」
「あ、うん」
カルとヒースは向かい合う。
フィーラはカルの肩にちょこんと腰を降ろした。
「それでは、色々と教えてください。
あなた方の目的やここに来た理由を」
そしてカルとフィーラは話した。
包み隠さず始めから、全部。
「ふうむ…そうですか」
ヒースは水を一口飲んだ。
「色々と、すごい話ですね」
異世界から人が来ただとか、それが妖精になっているだとか。
さらには目の前の少年は本当は妖精で、土でできた体でここまで来ているとか。
「どうしたものですかね」
墓守はそう言って黙ってしまった。
沈黙が長いので、耐え兼ねてフィーラは口を開いた。
「やっぱり、信じてもらえない?」
当たり前だと、彼女は思う。
こんな突拍子のない話。
自分なら頭がおかしくなったのかと思う所だ。
しかし
「いえ?考えていたのは、カルさんの体の治し方ですが?」
ヒースはあっさりと信じることを前提としたことを言った。
「…信じるの?マジで?」
目を丸くしたのはカル。
「てっきり、もっと色々と聞かれるかと思ったのに」
「聞くも何も、全てを話してくれたのでしょう?
それに」
「それに?」
カルは少し身を乗り出す。
「助けを求めに来る子供を、追い返すほど無作法なことほどありませんから」
相変わらず表情のない顔で彼は答える。
当たり前のことを言っているという口ぶりだ。
「…変わってるのね」
フィーラはぽかんと口を開ける。
そんな単純な理由で正直に信じると思えなかったのだ。
「そうですか?」
「だって、騙されてたらどうするのよ」
「それでも、助けを求めに来たことは事実です。
話を聞いてもらえない…否定されることほど、悲しいことはないでしょう?
未来ある子供が、そんな思いをする理由を私は持っていません。
それに」
「それに?なんなのよ?」
「なんだか上の世界が色々と騒がしいと思っていた謎が、解けましたので。
こっちの答えの方が、あなた方には納得できるでしょうか?」
水がゆっくりと、ヒースの口元に運ばれる。
含むように口に入れ、飲み込む。
銀灰色の目がするどくこちらを見ている。
「伝えるのは、難しいですね」
吐いた息に混ぜるように、彼はそうつぶやいた。
「ずっと不思議ではあったんですよ」
「なにが?」
カルも遠慮がちに水を飲んだ。
「いきなり村に流行りだした病に、自分だけが魔法を使える状況。
死体が最近以前にもまして活発に動くようになったこと。
世界中のバランスが崩れているなら、つじつまはあいます。
けれど、困りましたね」
ヒースは前髪の下に手をいれ、悩む仕草をする。
「私自身は何も知らないので、あなた方が望む解決方法が分かりません。
魔法が使えると言っても、できるのは土の魔法に関することだけです。
その理由が、女神が関わっているとしても、私はここから動けません。
つまり、あなた方の同行者にはなれないんですよ」
「別について来いなんて言ってないじゃない」
フィーラは腕組みした。
確かに、女神はカルやヒースのような人間を導けと言った。
「あたしとしては、別に世界を救うとかまで今のところ考えていないわ。
勝手に連れてこられて、迷惑してるのは変わりないし」
「そうなんですか?
まあ、なんにせよ、カルさんの体はどうにかしないと不便でしょう」
「まあ、それはそうね」
それが目的でここに来たのだ。
女神云々は興味ないと彼女は言う。
「でも、方法は分からないんでしょう?
カル、困ったわね」
「………」
「カル?」
「え?ああ、うん。
困ったね」
考え事をしていたのだろうか。
カルは焦ったように返事した。
「まあ、焦らずに行こうよ。
気を付ければ、もう少し使えるだろうしさ」
「でもさあ」
問題の先延ばしにすぎないと、フィーラは不満げだ。
「お力になれずすみません。
一応、もう少し色々と考えてはみます」
ヒースはイスから立ち上がる。
「そろそろ、見回りの時間なので一度失礼します。
部屋のベッドは使っていただいて大丈夫です。
今日はゆっくり休んでください」
静かな足音と共に、彼は部屋から出ていった。




